『神経言語プログラミング』について

リチャード・バンドラー著『神経言語プログラミング』(東京図書, 酒井一夫訳)を読んだ。






最近、身の回りに神経言語プログラミング技法のライセンスを取得したという肩書を持つ人たちが、やたらと増えて来たので、
今更という感じであるが、読んでみたのである。

因みにこの本を購入した時に同時に自己啓発コーナーに並んでいるような本をまとめ買いしてきた。

おそらく私が現在、金星/ラーフ期で、ラーフが射手座に在住しているからである。
読んでみたらもっと早く読んでいればよかったという印象である。

この本の中では、様々な映像をイメージして、操作することで望ましい行動変容を起すテクニックを紹介しているが、例えば、煙草の習慣を止める際のオペレーションが非常に印象的である。

例えば、煙草を吸うときの自分の主観的映像をイメージして、その時の経験を映像として思い浮かべるが、その映像のサイズを暗くして小さくして窮屈な居心地の悪い感じにするのである。それと同時に自分が煙草を止めた際の清々しく楽しく明るい状況を客観的な視点から見た映像をイメージするのである。そしてその明るいイメージのサイズは大きくする。

そうすると、煙草を吸わないことで楽しい状況へと行動が方向付けられるのである。

何十年も煙草を止められなかったという人がこの視覚化のオペレーションによってものの10分程で煙草を止めることに成功したというのである。
こうした視覚化のオペレーションによる成果には非常に大きいものがあるので、何年治療しても成果が上がらない既存の精神分析や心理療法などが色あせて見えてしまうようである。

このリチャード・バンドラ自身は、元々数学や情報科学を専攻していた学生であったようで、偶々財政難で学部の設置が2年程遅れた際に、心理学を学んでみたという。

この元々数学や情報科学を専攻していたという所で思い浮んだのは、苫米地英人氏である。

本来、精神分析とは最も遠いと思われていた認知心理学の分野が人間の心や動機づけを解明するための主役に躍り出たという印象である。

伝統的にフロイトの精神分析を学んで精神科病棟やカウンセリング室で臨床を積んで来たような人々よりも、数学や情報科学を専攻しているような人が、認知心理学や行動主義理論と視覚化により、大きな行動変容という成果をもたらしているようなのである。

私は何年か前にCIAがMKウルトラ作戦という極秘の臨床実験により、人を洗脳する技術を開発していたということに衝撃を受けた。

これについては苫米地英人氏が訳した『CIA洗脳実験室 父は人体実験の犠牲になった』ハービー・M・ワインスタイン (著)という本がある。







苫米地英人氏の解説によれば、人にLSDなどの覚醒剤を投与して、変性意識状態になった時に繰り返し何らかのメッセージや指令などを聞かせることによって、それが潜在意識に刷り込まれて、その人が正常に覚醒した後にも、そのメッセージや指令に影響されるようになるという。

そのような手法によって人に全く違う記憶を埋め込んだり、全く違う別人であると思いこませることが可能になるようである。

そして、こうした手法がオウム真理教内でも行われていたということが後に分かって、非常に衝撃を受けた。
記憶を消したり、別の記憶を刷り込んだり、人格そのものが変容してしまうのである。

それは視覚から取り込まれる映像や音声によって行われるのであって、フロイトの精神分析などの臨床から得られた知識とは全く質が異なるのであって、人間を認知する機械と同じように考えて、行動主義理論のような条件づけ理論に基づいて、力づくで人間の潜在意識を変容させる。
この苫米地英人氏の自己啓発本にもミルトン・エリクソンや神経言語プログラミングの影響が見られるように思える。

そして、苫米地氏の本は売れているようであるし、神経言語プログラミングも盛況であることから、

今は古典的な精神分析家や心理療法家よりも、認知心理学者が、一躍脚光を浴びているということが分かる。

リチャード・バンドラーが、フリッツ・パールズのゲシュタルト療法から始まって、ノームチョムスキーの言語理論を研究していたジョン・グリンダーと出会い、『魔術の構造』1~2巻を刊行し、「ダブルバインド」のグレゴリー・ベイトソンが、ミルトン・エリクソンを彼らに紹介したという経緯は、非常に興味深い。

フリッツ・パールズと言えば、エサレン研究所であり、そして、そこと交流のあったラジニーシにも繋がってくる。

そして、苫米地英人氏もこれらの人々から影響をおそらく受けている。
リチャード・バンドラーが「魔術の構造」という本を刊行していることには驚いたが、おそらく魔術という言葉が出てきたのは、神経言語プログラミングが、マインドの科学であるからである。

結局、魔術というものは、マインドの科学に他ならない。それは視覚化によって動機付けや行動に変容をもたらすのである。
ナポレオンヒルの『思考は実現化する』と同じ流れの中にある。

西洋人は、既存の精神分析理論や心理療法の理論、実存主義哲学などを用いて、自己啓発の教育プログラムをパッケージ化し、ビジネスとして構築するのが非常に上手である。

マインドの科学を用いて、経済的成功や自分の幸福の実現というゴールに導こうとするのが、自己啓発セミナーである。

あくまでもマインドの科学を自分自身の経済的成功や富や幸福に利用しようとするのである。

因みにマインドの科学を利己的な目的に使おうとする場合、むしろ、それは黒魔術と呼ばれるのである。
様々な自己啓発プログラムが存在するが、神経言語プログラミングも、西洋人によって上手く商品化されたプログラムである。

その西洋のビジネスマンが作った商品のライセンスを取得することに皆、熱中しているが、リチャードバンドラーが、フリッツ・パールズやミルトン・エリクソンなどの既存の臨床家の学問的研究を元にそれらを生み出したのであるから、フリッツ・パールズやミルトン・エリクソンの臨床をもっと研究すべきであると思う。

私が感じた印象としては、神経言語プログラミングも、何度も映像を操作して、実際に試した人が最もこの技術を体得できるのではないかと思うのである。

それは全くインド占星術で、ハウス、星座、惑星といった要素を何度も頭の中で視覚化して操作し、マインドを訓練した人が最も占星術の応用に通じるのと同じである。
神経言語プログラムに戻るが、煙草を止めさせるメカニズムは喫煙を不快と思う主観的映像と、喫煙しない自分を快く体験する客観的映像を意識、無意識の中で入れ替えて条件づける操作である。

但し、この神経言語プログラムによってもたらされる行動の変容は、呼吸法や瞑想によって真我を経験することによっても可能である。

呼吸法や瞑想によって、肉体、感情体、メンタル体に同一化して没頭している状態から客観的に自分を見る余裕が生じることで、習慣や依存行動を変容させることが出来る。呼吸法や瞑想は、神経言語プログラミングと同じ効果が期待できる。
また瞑想や呼吸法と同じように占星術で、ハウス、星座、惑星といった要素を何度も頭の中で視覚化して操作することは、自分自身の主観的な体験世界を外側の宇宙の視点から、客観視することの訓練である。

主観的経験を宇宙という最も高みから俯瞰するのであり、このことは瞑想と同じような効果があると言ってもいいと思われる。

実際、占星術の象徴操作というのは、魔術の基礎的な訓練の一部である。
またインド占星術を使って、自分の体験世界を理解することは、こうした自己啓発以上の視点をも提供する。

何故なら、例えば、神経言語プログラミングをよく駆使するトレーナーに出会って、自分の人生を好転することが可能になり、神経言語プログラミングが、人生の変容に役立つことは分かったとして、そもそも何故、その人が、優秀なトレーナーと出会い、人生が変容することが出来たのかという疑問に答えるのが、インド占星術だからである。

インド占星術はカルマの生起の順序やタイミングが分かることによって、形而上の世界(超自然)の存在を垣間見せる。

従って、通常の科学が扱う因果と比較すると、メタレベルが一つ上の科学であると言うことができる。
因みにフロイトの精神分析で外傷体験という言葉があるが、幼少時に受けた心の傷のことを指している。

米国で親に性的虐待を受けたと主張する子供の中に全く親から性的虐待を受けていない事例が多々見つかり、そうした虚偽の性的虐待の被害者体験をスクリーン メモリーと呼んでいる。つまり、その人の欲動が投映された記憶という意味である。

このことから分かることは、外傷体験は実際の事実というよりも、感情体が生み出した主観的経験であり、妄想に過ぎないのである。

人生の一時期に妄想を抱いたことによってそれが後々に影響力を振るう外傷体験となってしまうというのは、外傷体験というのは、ある一時期に自分で設定して潜在意識に刷り込まれた思考習慣に他ならない。

それは神経言語プログラミングで、イメージを視覚化して行う操作と同じものである。

外傷体験というものが、人生の一時期にその人自身の思い込みによって、その人自身に埋め込まれた印象であるにすぎないのであれば、それは、もう一度、それをイメージ操作によって変容することが可能なはずである。

そういう意味で、精神分析の外傷体験(トラウマ)という用語自体が、認知心理学の用語で置き換えられている現状なのである。
今は精神分析理論が時代遅れになりつつあり、数学や情報科学を用いた認知心理学が、人間の心を解明する方法として脚光を浴びている。

神経言語プログラミングの流行は、そうした流れの中にあることが分かる。

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