
最近、中野剛志の著作「入門 シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才」などで、30年間経済成長しない日本経済を理解する為にヨセフ・シュンペーターの理論が注目されている。

シュンペーターは、イノベーションについて語った経済学者として有名で、「イノベーション理論」や「創造的破壊」の概念で有名である。
イノベーションとは、「新しい価値を創り出すこと」を意味し、単なる技術の発明にとどまらず、それが社会や経済に変化や利益をもたらすことを指している。
単なる「新しい技術」や「新製品」を意味するだけではなく、社会の仕組みや経済構造、生活様式を根本的に変革し、進歩や発展を促す力である。
このシュンペーターのイノベーションに関する中野剛志氏の解説が非常によく分かる内容だった。
【資本主義は成功するから滅びる】今こそシュンペーターを学ぶ理由/失われた30年が起きたワケとは/イノベーションの必要条件/資本主義
これによれば、資本主義は、合理的な人々による経済活動だが、その合理性を追求する結果、結婚して子供を作って育てることが個人の幸福の追求において経済合理的なものではない為、少子化は必然的なものとなり、その結果、自分の寿命が尽きた後のことを考えなくなり、視野が短くなる結果、子孫に富や財を受け継いでいく為の長期的な欲求(家族動機)が失われ、その結果、長期的な投資をしないで、短期的な利益の追求に走ることによって、イノベーションが起こることもないし、資本主義が発展し続けることもないということである。
長期的な視野を得るには、家族動機といった欲求が必要で、もっとスケールが大きくなれば、愛国心といったものが必要で、そうした共同体の中で、富や資産を受け継いでいくという動機が、長期的な視野を得させることになり、長期的な投資によって、イノベーションを起こし、社会経済を発展させ、次の世代に受け継いでいくことになる。
家族動機や愛国心というものを育むためには共同体と、共同体に付随する歴史、文化、宗教、民族の物語といったものが必要で、それが長期的な視点を得させることにつながる。
その一番、重要なものが、おそらく、家族、郷土愛から始まって、国民国家という一つの単位である。
グローバリゼーションや新自由主義は、国家という共同体を破壊し、家族動機や愛国心といった資本主義を発展させる原動力を失うことにつながってしまう。
だから、資本主義が経済合理性を追求する結果、資本主義は滅びてしまうということである。
つまり、資本主義の発展やイノベーションの条件としては、長期的な視点が必要であり、また国家(政府)の主導による積極財政や市場を独占するような大企業の存在が必要であるという。
そうした収支が安定している大企業が、余裕ある資金を使って、研究開発などに巨額な投資を行なうことによって、イノベーションが生み出されるということである。
「シリコンバレーの影の支配者」と呼ばれるピーターティールが、自らの著書『Zero to One』の中で、競争よりも独占が優れていると述べているが、ピーターティールのこの思想もシュンペーターから影響を受けたものであるという。

ピーターティールは、「PayPalマフィア」と呼ばれ、当初、インターネット決済事業の会社で、イーロンマスクの会社と競争していたが、競争による弊害に気づいて、イーロンマスクと合併することで、paypalを創業した。
この時点で、プラットフォームとして、市場を独占することの重要性に気づき、その後、facebookなど、GAFAMと呼ばれる企業に投資をして、莫大な資産を築いている。
因みに日本は、高度経済成長期の初期には、鉄鋼や石炭など重化学工業によって発展し、その後は、自動車、家電などで発展して、GDP世界1位に上り詰めた。
そのやり方は、シュンペーターが推奨する方法そのもので、政府が積極的に投資をして、政府と大企業が一丸となって、経済発展した。
護送船団方式と呼ばれる通産省が銀行と企業を指導して、政府主導で、企業の発展を促していくというものだった。
それで成功し過ぎて、コンピューターや半導体の分野で、アメリカを脅かすようになり、それで日米貿易摩擦などが起こり、アメリカの製品を買わされたり、色々、ペナルティーを科されるようになった。
また日本をターゲットにしたプラザ合意などで、輸出産業が大打撃を受けることになってしまう。
そして、貿易黒字による経済成長が鈍化した日本では、銀行が資金を超低利で貸し出すようになり、その資金が、不動産や株式へ流れ込み、バブル経済が生じるのである。
バブル経済が崩壊した後、日本経済は長期に低迷したが、その時、何故か、日本経済復活の為に市場原理や構造改革が重要だということになり、小泉・竹中の改革などもあって、日本が市場開放し、市場原理を導入したことによって、それで日本経済の弱体化を招き、日本はイノベーション出来ない環境に成り下がってしまった。
企業は、株主に高額の配当をし、内部留保を溜め込むようになり、研究開発の為に長期投資しなくなった。
株主資本主義では、長期投資よりも短期的に利益を生み出せる投資の方が好まれ、また株価を吊り上げる為、自社株買いのようなことも行われるようになった。
それらは、シュンペーターに言わせると、イノベーションが起こらない条件である。
イノベーションは、自由競争ではなく、政府主導による保護主義や国家プロジェクトとして特定産業に巨額な投資を行なう国家社会主義的手法の中での方が、より起こりやすいのである。
例えば、中国で、IT分野で、次々とイノベーションが起こっているのは、共産党当局が、巨額の資金を特定産業に投入するからである。
だから日本の戦後の経済発展は、シュンペーターの理論通りの実践をした結果だが、バブル崩壊後の長期低迷の中で、市場原理、構造改革という形で、アメリカの外圧で、自由競争の原理を導入したことによって、日本経済が衰退したと言えるようである。
また日本社会ばかりでなく、西洋社会全体が、市場原理によるグローバリゼーションの結果、少子化、中間層の没落と貧富の格差の拡大、家族、宗教、地域といった共同体の弱体化による人々の孤立化が起こり、社会が不安定化している。
日本社会もそうだが、中間層の経済的没落と少子高齢化により、地域共同体が没落し、古くからの文化的行事や慣習、祭りごとなどの継続も難しくなっている。
日本で、2017年のブレグジットやドナルド・トランプの大統領当選後、保守論客が、活発化し、グローバリゼーションを排斥し、日本の文化、伝統を取り戻そうとする動きが起こっているのはその為である。
そして、最近、参政党などの保守政党が躍進しているのもその為であり、政府主導の大規模プロジェクトのような形で、官民一体となって、新規事業に投資して、高度経済成長期のように経済発展した形を何とか取り戻そうとしている。
消費税を廃止したり、社会保険料を値下げしたりして、国民負担率を下げて、消費を促して、内需を拡大するという野党の政策も全く正しいものである。
例えば、最近、インターネットで、マーケティングを行なっているダイレクト出版の書籍紹介の広告を良く見るが、それらの本は、昔、GHQによって禁書扱いにされた書籍の復刊本で、日本の素晴らしさや強さを伝える内容が多い。
その中で、最近、シュンペーター派のマリアナ・マッカートの「国家の逆襲」という本も紹介されていたが、マリアナ・マッカートの主張は、シリコンバレーの企業群でさえも、アメリカの軍需産業への多大な投資の恩恵を受けているのであって、そもそもインターネット自体も米国防総省によって開発されたものという事実がある。

アメリカでさえも政府主導の巨額な投資によって発展してきたのあって、民間による自由競争などで発展してなどいない点を指摘している。
主流派経済学は「合理的経済人」という人間観があり、人間は常に自分の利益(効用)を最大化するように合理的に判断・選択すると考えている。
そうした「合理的経済人」が市場で取引する際に、必要な情報はすべて知っている、あるいは獲得できると仮定されている。
また財やサービスの価格は、需要と供給によって市場が決定するというのが、市場均衡理論である。
アダム・スミスが、「神の見えざる手」と呼んだように市場に任せておけば、富の生産や分配などは全て、上手く合理的に行なわれると考える。
冒頭で述べたようにこのように全てを市場に任せる場合、貧富の格差が拡大し、国民国家の共同体は破壊され、最終的には、資本主義の衰退を招いてしまう。
それよりも、国家主導の重商主義(※国家の富を金・銀などの貴金属の蓄積とみなし、それを増やすために貿易や産業を国家が積極的に管理・介入すべきだとする考え方)こそが、イノベーションを生み出し、経済を発展させる力であることをおそらく、「国家の逆襲」の中では述べていると思われる。
つまり、現在、政治の世界でも学問の世界でも、過去30年間の市場原理によるグローバリゼーションへの包囲網が築かれている。
そして、これは資本主義自体の終わりの段階でもある。
既に資本主義は、その合理性の故に衰退する局面に入っている為、国家が主導して、公共事業などに投資して、国民を潤わすという政策転換が行なわれつつあるのである。
ドナルド・トランプが、外国に巨額の関税をかけて、国内に製造業を呼び戻そうとする政策を行なっているが、こうした動きも国家社会主義である。
日本は、戦後、長い間、社会主義の国であると言われて来たが、日本の経済的成功の理由も国家社会主義と大企業がイノベーションを生み出してきたことと深い関係がある。
但し、日本が、バブル崩壊以後、経済成長できない失われた30年を過ごすことになったのは、市場原理や構造改革を受け入れたことだけではなく、ハーバード・ビジネススクールの教授クレイトン・クリステンセンが1997年に提唱した「イノベーションのジレンマ」という概念によって説明されるかもしれない。
日本は、高度経済成長で、アメリカを抜いて、GDPで世界1位になった時に成功の上に胡坐をかいてしまい、既存の製品群の改良を繰り返すだけで新しい発想がなく、次にお金を何に投資すればよいのか分からず、美術品を買いまくったり、貿易センタービルや、海外の不動産を買いあさったり、研究開発の為に長期投資して、イノベーションを起こすという動機を失ってしまったのかもしれない。
シュンペーターが言っているが、成功している大企業は、既存顧客のニーズに応える「持続的イノベーション」には熱心だが、利益が小さく、既存顧客にも評価されない「破壊的イノベーション」には投資しないという。
成功した自分の模倣に終始して、根本的に新しいものを生み出すことはなかったのかもしれない。
元々、日本は、アメリカの技術などを特許料などを支払って、より優れたものに改良して、それを製品化するのが上手く、イノベーションがそれ程、得意ではないという。
模倣と改良が上手なだけで、非常に保守的であり、新しい制度や仕組みを中々生み出さずに現状維持に終始する。
バブル崩壊後、暫く経済が低迷していた時代も、経営の合理化やコストカットなどで、利益を何とか生み出すことに終始して、研究開発などをあまり行っていなかったと考えられる。
また2012年以降のアベノミクスでは、GPIFの資金で、日本の経団連に加盟する企業群の株式を買いまくり、株価を吊り上げて、また国債発行による量的緩和を行なって、一部の業種・大企業には恩恵を与えたが、企業の成長は限定的で、企業の内部留保は増えるだけで、経済全体の成長や生産性の上昇には結びつかなかったようである。
企業は、倒産を恐れて、設備投資や研究開発への長期投資を行なわず、賃金も支払わず、ひたすら内部留保を溜め込む体質になったようである。
それは、政府とその指導下にある銀行による手厚いサポートが受けられなくなったからである。

シュンペーターのチャートを作成してみたが、00:00:01で作成しても、23:59:59で作成しても、月ラグナは水瓶座だった。
水瓶座から見て、5室支配の水星が、山羊座に在住して、太陽、火星とコンジャンクトしているが、これがシュンペーターの経済学の思想を表す配置である。
山羊座である為、伝統的な価値観を重んじる現実主義者であり、ナヴァムシャでは蟹座に在住しているが、経済が純粋に合理性だけで動く訳ではなく、その国家の歴史や文化、国民性にも影響を受けると述べたのは、こうした配置からかもしれない。
単純に合理性だけで経済活動が行われる訳ではなく、家族動機(家族愛)や愛国心といったものが、資本主義経済を発展させる推進力だと考えた点もそうである。
月ラグナから見ても、金星と木星、土星と火星が星座交換しているが、金星と木星の星座交換が、射手座-牡牛座で、形成されている。
射手座における金星と木星の絡みは、「イノベーション」といった躍動的な概念を生み出したと考えられる。
イノベーションは、国家や大企業といった独占企業体で、生み出されるという思想は、水瓶座的なプラットフォームの思想によるものかもしれない。
ピーターティールも競争よりも独占が大事だと主張しているが、こうした競争はアトム的な個人間で行われる行為であり、非常に魚座的であるが、独占が有利という概念は、水瓶座がもたらしたものではないかと思われた。
プラットフォームで市場を独占するといった考え方も水瓶座によるものである。
また山羊座に在住する水星や太陽、火星、そして、ナヴァムシャの蟹座に在住する水星と金星などは、数式よりも経済活動を行なう人々の観察、イノベーションが起こった実際の事例などの個別具体的な観察などが役に立っていると思われ、その辺りは、山羊座の水星の象意かもしれない。
またナヴァムシャで蟹座に在住する水星と金星は、家族動機といった概念を生み出すもとになったと考えられる。
シュンペーターは晩年の著作『資本主義・社会主義・民主主義』で、資本主義が最終的に社会主義に移行するという運命について述べている。
まず、資本主義は、イノベーションを引き起こし、大量生産と豊かさという形で、成功をもたらすが、その成功によって、「企業家精神」や「資本主義を支持する文化」が衰退し、知識人・官僚階層が増えて資本主義を批判し始め、最終的に社会主義的な管理経済(大きな政府)が支持され、資本主義は民主主義の内部から静かに崩れると述べている。
今の日本や西欧社会の行き詰まり感をこれはうまく説明するものであり、この資本主義から社会主義へと移行する末路の最終フェイズにいることがよく分かる。
参考資料として、このプロセスに関する以下の資料を示すが、この最後のフェイズにいることは明らかである。
資本主義の自壊プロセス ◆第1段階:資本主義の成功と繁栄 特徴: 資本主義は「創造的破壊」により古い制度を壊しながら、新しい財・サービス・技術を生み出す。 大量生産・豊富な消費財・生活の質の向上をもたらす。 資本の蓄積が進み、企業は成長し、雇用も安定する。 社会的結果: 生活水準が上がり、中産階級が拡大。 教育水準が向上し、知識階層(インテリゲンチャ)が生まれる。 労働者階級も生活安定化により「革命的衝動」を失っていく。 ◆第2段階:企業家精神と資本主義の精神的土台の衰退 企業家精神の退潮: 成熟した大企業が市場を寡占し、企業家(起業家)の役割は縮小。 かつての開拓者的企業家は「官僚的経営者」や「マネージャー」に取って代わられる。 ベンチャー精神よりも、効率・安定・規制遵守が重視されるようになる。 精神的支柱の喪失: シュンペーターは、資本主義が本来依拠していた精神的土台を以下のように定義しました: 支柱 内容 家族主義 責任・貯蓄・継承を重んじる価値観 宗教倫理 禁欲・勤労・自己責任 所有権の尊重 自由と所有を結びつけた価値体系 → しかしこれらは、豊かさや平等の拡大により徐々に相対化・軽視されるようになる。 ◆第3段階:知識人と官僚の台頭、資本主義批判の拡大 教育の拡大と知識人の増加: 高等教育の普及により「社会を外側から批判する知識人」が大量に生まれる。 彼らは生産に直接関与せず、社会批判や理想論(社会主義・平等主義)を主張する傾向が強い。 メディア・教育・文化を通じて、資本主義の価値観が相対化・批判されていく。 シュンペーター:「知識人は制度の成果には無関心で、制度の欠陥に過敏である」 官僚制の肥大化: 国家は複雑化した社会に対応するため、行政・規制機構を拡大する。 公共サービス・福祉制度が拡大し、「大きな政府」志向が広まる。 民間企業よりも、安定性を求めて官僚機構を志向する人材が増える。 ◆第4段階:社会主義的管理経済・福祉国家の支持拡大 経済運営の公共化: 市場原理では解決できない問題(失業、格差、環境)に対して、国家による管理や調整が求められる。 福祉国家(医療・年金・教育の公共化)への移行。 企業活動にも規制と監視が強まり、「自由な競争」は制限される。 民主主義が資本主義を蝕む: 民主主義において、政治家は「票」を得るために再分配やバラマキ政策を選択する。 結果、資本主義の自由と利益追求の原則が、民主的な圧力によって制限されていく。 ◆第5段階:資本主義の静かな自壊 崩壊は暴力ではなく「内部からの文化的腐食」による 資本主義は暴力革命や経済危機で崩壊するのではなく、 制度の正当性が社会から失われ、支持基盤がゆっくりと喪失していく。 シュンペーターの予言: 「資本主義は、成功ゆえに自らの社会的・文化的条件を破壊し、社会主義へと道を譲る」 (Chatgpt4にて作成) |
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