ゾーラン・マムダニ氏がニューヨーク市長に当選 -ヒップホップ好きのイスラム教徒で、社会主義者-



2025年11月4日のニューヨーク市長選で、民主党候補の州議会議員ゾーラン・マムダニ氏が当選した。


SNSで旋風、草の根支持拡大 異例ずくめの次期NY市長
2025年11月09日10時28分 時事通信 外信部

4日の米ニューヨーク市長選で、民主党候補の州議会議員ゾーラン・マムダニ氏(34)が選ばれた。米最大都市の市長としては初のイスラム教徒で、ウガンダ生まれのインド系移民。過去100年以上の中で最も若く、ラッパーとして活動した経歴もある。異例ずくめの次期市長は、SNSへの動画投稿や草の根の選挙活動を通じ、ほぼ無名状態から支持を拡大した。

「次は市役所、終点です」。当確が報じられてまず投稿したのは、「市役所駅」に到着する地下鉄の映像。マムダニ氏の選挙戦を印象付けるのが、こうしたSNSの動画だ。字幕が付けられ、家賃の上昇凍結、無料の保育やバスといった生活に直結する政策を分かりやすい言葉で繰り返す。「家賃凍結」を訴え「凍るように寒い」冬の海にも飛び込んだ。

 練習中のアラビア語やスペイン語でも動画を投稿し、多様な人種が集まる街の身近な存在であることをアピール。支持者による動画も多数拡散された。

 今年2月の世論調査では、支持率わずか1%。その後の支持拡大を草の根のボランティア活動が支えた。陣営の発表では、集まった有志は10万人以上。300万軒以上の家を回った。自身は夜中のタクシー乗り場に現れ、ゲイバーで性的少数者(LGBTQ)コミュニティーへの連帯を示し、遅くまでさまざまな場所へ足を運んだ。こうした地道な活動が奏功し、4000万ドル(約60億円)とも報じられる多額の資金を調達したベテラン政治家のクオモ前州知事に打ち勝った。

 父はコロンビア大教授で、母は著名映画監督。今年初めに結婚した妻ラーマ・ドゥワジさんは、シリア系のアーティストで、人気のマッチングアプリで出会ったという。市内の街角や地下鉄で撮られた2人の結婚写真も注目を集めた。

 勝利演説で「私は完璧な候補者からは程遠い。若く、イスラム教徒だ」と誇らしげに語るマムダニ氏。今後も「移民の街であり続ける」と強調するニューヨークで、手腕が試される。

初のイスラム教徒で、ウガンダ生まれのインド系移民で、ヒップホップ好きでラッパーとして活動した経歴もある異色の候補だが、近年、インド映画が人気だが、インド系映画のスターのような華やかさがある。(例えば、映画「RRR」のスターにどことなく雰囲気が似ている)



ゾーラン・マムダニ氏は、選挙戦の中で、家賃の上昇凍結、無料の保育やバスといった社会主義的な政策を訴えていた。


今、ニューヨークは、ワンルームマンションの家賃が50万円/月といった異常なインフレで、生活が厳しくなっている。


SNSで分かりやすいメッセージを発信し、生活が苦しい市民に寄り添う姿勢を示し、支持を広げた。


出生データは、アストロデータバンクに掲載されており、「1991年10月18日 01:15 カンパラ、ウガンダ」で、ロッデン評価がAで信頼できるデータである。


早速、チャートを作成してみると、ラグナが蟹座プシュヤ第1パダで、ナヴァムシャのラグナが獅子座である。





現在、木星/金星期(2024/3/7~)で、木星は9室支配で2室に在住し、4、11室支配の金星とコンジャンクトして、4-9、9-11のラージャヨーガ、ダナヨーガを形成している。


金星は月ラグナから見ると、5、10室支配のヨーガカラカで、8室に在住し、8室支配の太陽と星座交換している。


10室の支配星が、太陽と星座交換して、政治の仕事を表している。



パラシャラの例外則、ニーチャバンガラージャヨーガ

月ラグナから見て、太陽は8室支配で10室で減衰していることから、パラシャラの例外則で、ラージャヨーガ的に働く配置であり、しかもディスポジターの金星と星座交換することで、ニーチャバンガラージャヨーガを形成している。



サラスヴァティーヨーガ

木星が2室で友好星座に在住し、金星も2室で、水星も4室に在住しているが、金星、木星、水星がケンドラ、トリコーナ、2室に在住し、更に木星が友好星座以上という条件を満たす場合に成立するサラスヴァティーヨーガを形成している。





学問、芸術の神サラスヴァティーが司るヨーガで、通常、教育関係の仕事についたり、芸術家になる人が多いが、ヒップホップ好きで、ラッパーとして活動したこともあるという経歴は、芸術的センスを物語っている。



月と土星のコンビネーション -カリスマ-

ラグナロードの月が7室支配で7室で定座に在住して、シャシャヨーガを形成する土星とコンジャントする配置は、おそらく、大衆からの人気、カリスマ性を表す配置である。





インディラガンディーの場合、蟹座ラグナで月と土星が1-7軸で、星座交換しているが、それと似たものを感じさせる。



勝利宣言の演説を動画で見たが、2室(スピーチ)に木星と金星が在住しているからか、非常に雄弁で、ラッパーとしての活動にも生かされたはずである。


また2室支配の太陽に火星や水星がコンジャンクトしている為か、スピーチが上手く、また歯に衣着せぬ力強い物言いで、ドナルド・トランプを批判していた。


ゾーラン・マムダニ氏が当選したのは、物価高、インフレ対策などドナルド・トランプに期待していたが、今の所、実効ある対策を打ち出しておらず、全く期待外れであったことも一因しているという。



ナヴァムシャ

ナヴァムシャを見ると、直ぐに分かるのは、太陽と金星がヴァルゴッタマであることである。





ラグナと月が同じ獅子座で、ラグナロードの太陽が3室に在住し、3、10室支配の金星がラグナに在住して、1-3の星座交換をしている。


この配置は、あたかも俳優とか芸能人のような華やかさがあり、SNSを駆使して、政界のスターになったのはその為である。


3、10室支配の金星には、7室支配の土星が7室でシャシャヨーガを形成して、金星と相互アスペクトしている。


この水瓶座でシャシャヨーガを形成する土星の影響で、おそらく、ゾーラン・マムダニ氏は社会主義者なのである。


公共の利益に責任を感じる配置である。







木星/木星期になった2018年にアメリカ国籍を取得しているが、木星は9室支配で4室に在住し、月ラグナから見て、3、12室の支配星で、海外を表す9室や12室の支配星である。


ナヴァムシャでも木星は海外を表す12室で高揚しており、ゾーラン・マムダニ氏はウガンダ生まれで、アメリカは海外(外国)なのである。


木星期に入ることによって、海外で恩恵を受ける時期に入ったようである。


それがまず2018年のアメリカ国籍取得であった。






そして、2025年初頭にシリア人アーティストのラマ・ドゥワジと結婚して、アメリカ・ニューヨーク市クイーンズ区の「アストリア(Astoria)」地区のアパートに住んでいるようである。


ちょうど木星/金星期で、金星は4室(住まい)支配で、結婚生活の2室で木星とコンジャンクトし、ナヴァムシャではラグナ、月から見て、1室に在住して、結婚して、住まいを得るタイミングを表している。


ゾーラン・マムダニ氏はヒップホップ好きで、2019年には、ミスター・カルダモンという芸名でシングル「Nani」をリリースしているが、ちょうど木星期に入った後のセカンドアンタルダシャーの木星/土星期である。



木星期に入ってから、アメリカで、色々なチャンスが巡って来たことが分かる。



ダシャムシャ

因みにダシャムシャを見ると、ラグナ、月から見て、木星は8、11室支配で、8室に在住し、ラグナロードの金星とコンジャンクトして、1-11のダナヨーガを8室で、形成している。





通常、分割図において8室の在住星は、その分割図のテーマにとって悪いと判断するが、このケースだとこれは当てはまっていない。


よく見ると、月は、3室支配でラグナで高揚しており、その高揚した月から見て、木星は8室に在住して、ムクタヨーガを形成し、王者となる資質を表している。月は高揚し、木星はムーラトリコーナの座にあり強力である。


3室支配の月が、9、10室支配のヨーガカラカの土星と1-7軸で、相互アスペクトする配置も3-10の絡みが形成されており、メディアを通じた活動を意味している。


また月と土星のコンビネーションは、ここでもカリスマを表している。


ゾーラン・マムダニ氏がSNSで旋風を巻き起こし、ヒーローとなって、ニューヨークの市民を救ってくれる救世主として、待望され、当選したことは、これらの配置から明らかに思える。











今、社会主義的な政策を打ち出しているゾーラン・マムダニ氏がウォール街のある資本主義のど真ん中で、当選したということはアメリカに地殻変動が起こっていることを表している。


アメリカのインフレ、物価高による生活苦が異次元のレベルに到達し、もはや、市民たちが、それに耐えられない水準に達して、市民たちが行動を起こしたのである。


ある意味で、革命が起こっていると言っても過言ではない。



この資本主義の一丁目一番地での出来事は、これから世界で起こることの予兆として、非常に注目すべきである。



まもなく、株式市場が暴落し、資本主義的秩序が弾け飛んで崩壊する予兆なのである。




ニューヨークのマムダニ新市長当選によって民主党の分断が急速に進む可能性も…ますます危険度を増すアメリカの近未来
2025/11/11 5:00 Wedge

ニューヨーク市長選挙で、民主党候補ゾーラン・マムダニ氏が当選した。マムダニの経歴はこれまでのニューヨーク市長経験者と比べると異例な点が多い。アフリカ生まれのインド系移民で、イスラム教徒である。

同時多発テロでイスラム系のテロリストの攻撃を受けて大きく傷ついたニューヨークの市長選には、彼の宗教的背景は大きく不利となると考えられていたが、それを覆しての当選であった。

 34歳という年齢は近年にない若さであった。マムダニより若い人物がニューヨーク市長となった記録があるのは130年以上前のことであり、しかも、当時は年齢も正確に記録されていなかったという説もある。

 マムダニは、自ら民主社会主義者であると公言する急進左派であり、社会主義や共産主義を極度に嫌うアメリカ社会において、そのような人物が米国最大都市の市長に選ばれるのも異例のことであった。

 マムダニにとって今回の選挙は、民主党の予備選挙に勝って同党の公認候補となっての挑戦である。ニューヨーク市は民主党が圧倒的に強いので、民主党公認候補にとっては市長選の本選は楽勝なのが通例である。ところが今回はそうではなかった。

 なぜなら、予備選でマムダニに敗れた同じ民主党のアンドリュー・クオモ候補が、無所属で本選に出馬しマムダニに挑戦してきたからである。予備選で敗れたとはいえ、前ニューヨーク州知事のクオモは、父親も同州知事を務めた政治一家の出身で知名度も高く、多くの有力な支援者を抱えていた。

 マムダニが公約で富裕層に対して増税すると宣言すると慌てた富豪たちは、クオモに巨額の選挙資金を投下した。ある大手化粧品会社の関係者は260万ドル、ヘッジファンド関係者は175万ドル、民泊企業の共同創業者も200万ドルといった具合に、日本円に直せば数億円という単位でマムダニの当選を阻止するために寄付したのである。

マムダニとクオモの異なるスタンス

 この2人の候補者のバックグラウンドは大きく異なっている。片方が移民で無名の、経験の浅い州議会議員なりたての34歳、他方はニューヨーク州知事を3期もつとめた大物州知事を父に持ち、本人もクリントン政権において閣僚を務め、州検事総長を経て州知事を10年務めた67歳の大物である。

 2人のスタイルを象徴する出来事がある。選挙期間中、地元チームのバスケットボールをマムダニもクオモも観戦したが、マムダニが後方の安い席で、地元の人々と交流しながら観戦したのに対し、クオモは汚職スキャンダルにまみれたアダムズ市長と共にコートサイドの特等席で観戦したのである。

 もちろんマムダニが貧しい移民でないことは皆が知っている。父親はコロンビア大学の教授であり、母親は有名な映画監督であって、本人も恵まれていたと認めている。ただ、どちらが恵まれない市民に寄り添っているかは明らかであった。

 トランプ大統領は、民主党のライジングスターであるマムダニを目の敵にして攻撃した。マムダニを共産主義者と非難し、そのような人物を当選させると、米国を「共産主義のキューバや社会主義のベネズエラのようにしてしまうだろう」と述べた。そして、あろうことか、選挙戦終盤には、自身の属する共和党の候補ではなく、民主党に属するクオモ支持を表明したのである。

 第一次世界大戦後の赤狩りや第二次世界大戦後のマッカーシズムをみても明らかなように、米国は歴史的に共産主義や社会主義を毛嫌いしてきた。特に冷戦期には、ソ連との対抗上、政府が国を挙げて国民の間にその恐怖を煽ってきた。それによって醸成された恐怖心は根強く、これまで多くの民主党左派の候補がそのために落選してきた。

 大統領に共産主義者のレッテルを張られるなど目の敵にされた無名で政治経験も浅いイスラム系の移民である候補が、大富豪たちの寄付をふんだんに受けた名門政治一家の前州知事を相手に、本選挙で過半数の得票を得て当選を勝ち取ることが出来たのはなぜだろうか。

マイナスにならなくなったイスラム系と「共産主義者」

 イスラム系という点から見ていきたい。同時多発テロの直後であればイスラム系の市長の誕生は考えられなかったであろう。テロ直後にはイスラム教の施設やイスラム教徒へのヘイトが各所で見られた。

 あれから24年の月日が流れた。その間、イスラム系の移民は良き隣人として米国社会で暮らしていけることを示してきた。また、イスラエルのガザ侵攻によってユダヤ系とイスラム系に対する風向きが変わったこともあろう。イスラエルを非難しパレスティナを支持する世論の盛り上がりによって、イスラム系であることが以前ほどマイナスとならなくなっていたのである。

 これまで米国で多くの政治家を失脚させてきた共産主義というレッテルはどうだろか。「マムダニは共産主義者だ」というトランプの脅しは今回の選挙では通用しなかった。マムダニ自身が自らを民主社会主義者と公言していたにも関わらずである。

 とくにそれは若い世代に影響しなかった。ABC放送の出口調査では、30歳未満の8割近くがマムダニ候補に投票していることが示された。この結果は、冷戦終結後に生まれた世代には、これまでのように共産主義の恐怖は浸透しておらず、それを煽っても以前のようには響かないということを示しているのではないだろうか。

 ただ、なによりも重要なのはマムダニが掲げた政策の基本である物価高対策を中心とした生活支援であった。近年の米国では物価上昇が著しいが、中でもニューヨークやサンフランシスコといった大都市部では、食料品などの急激な価格上昇に加えて、家賃の上昇が度を越している。ニューヨーク市内のワンベッドルームのアパートの家賃の中央値はおよそ月60万円というデータもあるくらいである。

 そこでマムダニは、公共バスの無料化、一部の賃貸住宅の賃料凍結、市営の食料品店の設置など、物価高に苦しむ人々を助ける公約を掲げた。この公約は生活に苦しむ人々の心に響いた。また、同じく社会民主主義的考えを持つバーニー・サンダース上院議員やニューヨーク州選出のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員といった著名な連邦議会議員からの支持を受けたのは大きかった。

マムダニの選挙戦略

 ラッパーとして活動していたこともあるマムダニ候補は、SNSの使用にもたけていた。家賃凍結公約を浸透させるために、「凍えそうだ」と言いながらニューヨークの古くからある遊園地が面した冬の海に飛びこむ映像をはじめとして、短くて刺激的な映像を投稿した。また、世界中からの移民であふれるニューヨーク市の特徴に鑑み、英語だけでなく、スペイン語はもとよりヒンディー語やウルドゥー語といった様々な言語を用いてSNSで有権者に呼びかけていた。

 SNSに加えてマムダニ選対は、10万人以上のボランティアが参加しての戸別訪問などのいわゆるドブ板選挙を展開してもいた。行き過ぎた資本主義に苦しみ、マムダニの社会民主主義的な考えに救いを求める若者や、自分は恵まれていても今のような社会はおかしいと考える若者が多く参加したのである。

 トランプ政権下で移民に逆風が吹く中、マムダニは自らが移民であることを隠しもせずむしろ強調した。勝利演説において、自分を支持してくれた、「これまでの政治によって忘れ去られてきた人々」に感謝を表明すると述べて次のように列挙した。

 「イエメンの食料品店主、メキシコのおばあちゃんたち。セネガルのタクシー運転手やウズベキスタンの看護師。トリニダード・トバゴの調理人、そしてエチオピアのおばさんたち」そして、「ニューヨークはこれからも移民の街であり続ける。移民によって築かれ、移民によって支えられ、そして今夜からは移民によって率いられる街だ」と喝破して喝采を浴びた。

 むろん、マムダニが当選したからといって公約がすぐにすべて実現すると信じるほど彼に投票した人たちはナイーブではないだろう。予算をひねり出すには議会や州の同意が必要で、市長が一人で決められる話ではない。その一方で、マムダニ以外が当選しても庶民のために何かが変わる可能性もないということもわかっていたはずである。

 これまで、民主党のプロの政治家がかわるがわる現れ、選挙期間だけ甘言を弄して当選していったが、何も変わらなかった。それなら、イスラム系かもしれないし、経験がないかもしれないが、この若者に賭けてみようと思ったのではないだろうか。だめでもともと、どうせほかの人なら100%変わらない、特にクオモ王朝とまで言われたクオモ家出身の元州知事には庶民の痛みはわからないと考えたのではないだろうか。

危険な領域に達しつつある米国の格差

 それではこの選挙結果は将来に向けて何を意味しているのだろうか。注目したいのは、セクハラスキャンダルで知事を辞任し、政治家としてもはや死に体といっていいクオモに41.6%もの票が入っていることである。

 これは「マムダニは嫌だ」という有権者の意思表示に他ならない。何が嫌かは、イスラム系が嫌、移民が嫌、自分の所有する物件の不動産価格が下がるのが嫌、自分の税金が低所得者のために使われるのが嫌など人によるだろう。

 ここには民主党の分断が見えている。これまで移民や低所得者には全体的に優しい一方で、富豪にもそれほど厳しくもないという形でなんとなくふんわりとまとまっていた民主党であるが、マムダニの当選によって党内の分断が急速に進むことになるかもしれない。

 7月にトランプが「美しい法案」と呼んだ減税法案が通過した。あまりにいろいろなものが詰め込まれ過ぎて、その正確な影響についてはいまだにわかっていないが、ある試算によると、最も貧しい層はそもそもほどんど納税していないために、この法律による控除が使えずにトータルで損をして、最も豊かな層が大きく得をし、中間層の多くは損も得もしないというのが大体のところのようである。また、この減税の費用を賄うのは、多くの部分が低所得者向けの健康保険の縮小によるというのである。

 これではまるで貧困ビジネスのようにも見えなくもない。損もしなければ得もしない中間層が無関心になっていてこの法案は通ってしまった。

 今回は、中間層が低所得者側についてマムダニが勝利したのかもしれないし、普通の中間層も低所得者のような暮らししかできない今のニューヨークの現状を表しているのかもしれない。いずれにせよ物価高による生活苦と格差の問題は危険な領域に達しつつある。

民主党にも起きる「分断」

 トランプとマムダニの2人は対照的に見えるかもしれないが、ニューヨークで生活に苦しむ人々がマムダニに熱狂する様相は、ラストベルトで喘いでいた人々が、これまでのプロの政治家に権力をゆだね続けても何も変わらなかったが、トランプなら何かを変えてくれるのではないかとトランプに惹きつけられたのに似ている。同じように都市部の見放された人々は今回マムダニに賭けてみたのではないだろうか。

 2人がそれぞれの党を分断させているところも似ている。トランプの登場により共和党が大きく偏り、ここにきて民主党も分断の兆候を見せている。これまで米国を安定させてきた中道寄りの民主共和両党が重なっている部分がますます細ってきている。今回のニューヨーク市長選挙は、分断が進んで危険度を増す米国の近未来の里程標なのかもしれない。

廣部 泉


若き社会主義者ゾラン・マムダニが富裕層増税で大型福祉実現を掲げニューヨーク市長に当選
米国大都市で初のインド系ムスリム市長、富裕層課税で福祉拡充を目指す
2025.11.05. 11:39 Chosun Biz JP

米国最大の都市ニューヨークが「若き社会主義者」を選んだ。4日(現地時間)に行われた市長選の結果、34歳で社会主義志向のゾラン・マムダニニューヨーク州下院議員が、アンドリュー・クオモ前州知事(無所属)とカーティス・スリワ(共和党)を破り次期ニューヨーク市長に当選した。

マムダニ当選人は1991年にウガンダのカンパラで生まれ、7歳でニューヨークに移住した。父はコロンビア大学人類学科の教授マフムード・マムダニ、母は『ミシシッピ・マサラ』などで知られるインド出身の著名映画監督ミーラ・ナイアである。まさにエリート家庭の出身だが、マムダニは自らを「民主的社会主義者」と称している。

マムダニは政界入り前、「ヤング・カルダモン(Young Cardamom)」「ミスター・カルダモン(Mr. Cardamom)」という名で活動したラッパーだった。ロイターによると、2016年にはディズニー映画『クィーン・オブ・カトウェ』のサウンドトラックにも参加したという。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は「マムダニが、インドで日常的に食べられる庶民のパン『チャパティ』が自分に似ているという内容のラップを披露した」とし、「起源はインドだがUG(ウガンダ)で生まれたという歌詞を書いた」と報じた。

マムダニはブロンクス科学高校とボーディン・カレッジを卒業後、ラッパー活動に入る前の最初の職として住宅カウンセラーを選んだ。主にニューヨーク・クイーンズ地域の低所得層移民が住宅を差し押さえられないよう支援する業務を担った。マムダニはこの経験が「銀行が人より利益を重視する現実を目の当たりにした」とし、「政治に出馬する契機になった」と明らかにした。

政治に入ったきっかけは、米国の進歩政治を牽引する大物バーニー・サンダース上院議員を慕い、同じような政治家になるためだった。2020年のニューヨーク州下院議員選挙では、クイーンズ・アストリア地域の5期現職民主党議員アラベラ・シモタスを破る波乱を起こした。以後、マムダニは「MTA(ニューヨーク大衆交通)を直そう」キャンペーンを主導し、一部バス路線の無料化試験事業を実現させた。その後、無料の大衆交通利用、アパート賃料凍結などを公約に掲げ、民主党内でも進歩陣営の新星として台頭した。現在、米国内最大の左派組織アメリカ民主社会主義者(DSA)所属に分類される。ニューヨーク史上初のインド系かつムスリムの市長でもある。

マムダニ当選人は今回の市長選を通じて「負担可能な都市(Affordable City)」をスローガンに掲げた。中核公約は4つだ。5歳未満児の全面無償保育、ニューヨーク市のバス運賃無料化、市直営の食料品店の試験運営、アパート賃料の凍結である。いずれも天井知らずに高騰したニューヨークの住居費と生活費負担を狙った政策だ。

こうしたポピュリズム的公約は、財源確保から実行可能性まで選挙期間中終始批判にさらされた。NYTは無償保育だけで年60億ドル(約8兆ウォン)かかるとした。バス無料化は年8億ドル(約1兆ウォン)、5つの自治区での直営食料品店運営には年6,000万ドル(約800億ウォン)が必要だ。代表的な公約の費用を合算するだけで年70億ドル(約9兆5,000億ウォン)に迫る。これは来年のニューヨーク市警(NYPD)予算63億ドルを上回る金額だ。

マムダニは「財源は富裕層増税で賄う」と公言した。年収100万ドル(約13億5,000万ウォン)以上の高所得者に所得税2%ポイントを追加課税して40億ドルを確保するとした。さらにニューヨーク市の法人税率をニュージャージーと同水準の11.5%まで引き上げ、50億ドルを追加で徴収する。富裕層増税に法人税引き上げを合わせると総額90億ドル(約12兆ウォン)規模の財源が生じる。

このためニューヨークの金融街と企業人の相当数は予備選段階からマムダニに激しく反発した。世界金融の中心ウォール街を抱えるニューヨークで社会主義的政策を導入することは象徴的意味が大きい。フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、ジェイミー・ダイモンJPモルガン・チェースCEOはマムダニの公約を「イデオロギー的なごった煮(ideological mush)」と表現した。
進歩色が強まった地方政府とトランプ2期政権が「政策戦争」を繰り広げる可能性も指摘される。ニューヨークが北欧型の社会民主主義モデルを米大都市に初導入する実験場になれば、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコなど民主党優勢地域でも類似の進歩政策導入圧力が強まると見込まれる。共和党所属のマイク・ローラー下院議員は「マムダニの計画は企業と人の双方をニューヨークから大脱出させる」とし、「マムダニは来年の中間選挙で民主党の足を引っ張るブギーマン(bogeyman・お化け)になるだろう」と批判した。

当選はしたものの、今後の政策執行までには乗り越えるべき障害も少なくない。マムダニ当選人が追求する中核政策の大半は、実行にはニューヨーク州議会と州知事の承認を要する。しかしキャシー・ホークルニューヨーク州知事は同じ民主党所属でありながら、すでに州レベルで「富裕層増税はない」と線を引いた。企業流出への懸念が理由だ。

ドナルド・トランプ大統領との対立も予告された。トランプ大統領は選挙の前日である3日、マムダニを「100%共産主義の狂人」と呼び、「マムダニが当選すればニューヨークに支援する連邦資金を削減する」と脅した。さらには選挙終盤に民主党を離党して無所属で出馬したアンドリュー・クオモ前州知事を公開支持すると宣言した。

マムダニ当選人がイスラエルのガザ地区での軍事作戦を「ジェノサイド(集団虐殺)」だと公に批判してきた点も物議を醸している。ニューヨーク市は伝統的に親イスラエルの性向が強い。ニューヨーク市の五つの行政区にあるユダヤ人コミュニティは約96万人で世界最大水準を誇る。市議会などの政治エリート層と州政府は長らくイスラエル支持の声明を繰り返してきた。こうした中でマムダニは「当選したらベンヤミン・ネタニヤフイスラエル首相がニューヨークを訪問する際に逮捕する」と公言した。こうした強硬発言はニューヨークのユダヤ人社会の相当数の反発を招いた。850人を超えるラビがマムダニの市長候補辞退を求める公開書簡に署名した。

批判を踏まえ、マムダニは市長選の予備選勝利直後から中道層に手を差し伸べ始めた。ポリティコは、マムダニが予備選勝利以降「現実主義者」へ相当部分で変化したと伝えた。まず強硬左派が批判してきた現ニューヨーク警察局長ジェシカ・ティッシュの留任を約束した。2020年のジョージ・フロイド抗議デモ当時に「NYPDは人種差別的だ」としていたツイートについて、警察に直接謝罪もした。

FTはマムダニの側近を引用し、マムダニがウォール街との関係改善にも乗り出したと伝えた。FTによれば、マムダニは最近ウォール街のCEO約400人と会った場で「増税だけが解決策ではなく、政府の効率化や歳出削減など他の方策にも開かれている」と述べた。

最近は、自ら熱心に身を置いてきた左派組織DSAとも距離を取った。ポリティコによると、マムダニは「自分の公約はDSAの公約とは違いがある」とし、「軽犯罪の非犯罪化といったDSAの綱領は自分の公約ではない」と線を引いた。

英国メディアのモノクルは「マムダニが提案した政策は西欧の福祉国家では全く合理的な水準だ」とし、「その一部でも成功させればニューヨークだけでなく米国全体に変化をもたらしうる」と評した。



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