『Light on Life』(人生を照らす光)のレビュー -ジョーティッシュの欧米での歩みを垣間見る-

先日、Amazonで、Kindle版として出た『Light on Life』(日本語訳:人生を照らす光)を早速、読み進めて、ようやく4分の3ぐらい読み終わった。
それで著者のハート・デフォーがリーディングで使用するロジックなどを読んで、私の知らなかった考え方なども沢山出て来て、非常に参考になった。

これまでずっと読むのを後回しにして来た為、やはり日本語訳が出たおかげで、じっくりと読み進めることが出来た。



然し、参考になったのは、これまで主にK.N.ラオの著作やその影響を受けたマークボニーの著述とは違った観点の考え方に触れたという点においてであった。

ハート・デフォーのリーディングの特徴で主に目立った点は、ヨーガを重視し、また惑星の覚醒状態を見るアヴァスタの概念を多用する所や、学習のハウスを4室としている所などである。

ヨーガというのは、例えば、太陽と水星がコンジャンクトする時に生じるブッダアディチャヨーガや、木星と月がケンドラの位置関係の時に成立するガージャケーサリヨーガなど、特定の定式化されたヨーガである。

その一方で、パラシャラがヨーガカラカの中で、展開している惑星の機能的吉凶に関する考察などは、この本では省略されている。

特定のヨーガを重視するという考え方は、マークボニーがよく多用する考え方の中に継承されているのが分かる。

例えば、惑星がガージャケーサリヨーガを構成する惑星の一つ(木星 or 月)だったり、ガージャケーサリヨーガを構成する惑星の一つとコンジャンクトするなどして、ガージャケーサリヨーガと絡んでいる惑星だったりする場合、このヨーガからその惑星が特定の力を得るという考え方である。

マークボニーの考え方の中にある惑星がガージャケーサリヨーガに参加しているから強いとか、そうしたロジックが頻繁に登場する。

このハートデフォーの考え方の影響を強く受けたということがよく分かる。

因みにこの本の終盤で、ハートデフォーの読解のテクニックで、有名人のチャートのリーディングをしていく「第12章 チャートの実際例」が非常に興味深い。

そこでアインシュタインのチャートのリーディングをしているのだが、アインシュタインの出生データ(1879年3月14日午前11時30分 ドイツ、ウルム市)で作成したチャートは、ラグナがアールドラーの第4パダになるのであるが、アールドラーでは、アインシュタインの性格に合わないので、出生時間を3分進めて、ラグナをプナルヴァスに修正した方がいいといったことが記されている。



確かにアインシュタインの性質は、プナルヴァスの方が合っているように思える。

人から好かれる温和で呑気な感じのパーソナリティーと高度な知性化というものが、プナルヴァスの特徴をよく表わしている。

この辺りは非常に優れた洞察に思えた箇所である。

然し、アインシュタインがノーベル賞を受賞した時のダシャーが、月/火星期であることについて、ハート・デフォーはそれを上手く説明出来ず、しどろもどろになっている。

本文には以下のように記されている。


太陽のマハー・ダシャーはアインシュタインにいっそう高い名声をもたらしました。なぜなら、太陽は名声を示す星として、また第3室(心)の支配星として、方位の力をもって第10室に入っているからです。この6年間に、彼はいくつかの最も輝かしい仕事を生み出しました。しかし、彼がノーベル賞を受賞したのは、月のマハー・ダシャーの火星のブクティになってからでした。月のダシャーの偉大な結果については、それを説明するのが困難です。なぜなら、月は第6室で衰弱しているからです。月はそのディスポジターが高揚していますから、疑いなくニーチャ・バンガを受けています。しかし、月もそのディスポジターの火星もラグナから見てトリックの部屋に入っていますから、ニーチャ・バンガ・ラージャ・ヨーガはありません。月のダシャーのノーベル賞受賞は、したがって、それが火星のブクティに起きたことを考えると、ますます説明が難しくなります。ジョーティシュは現実の単なるモデルです。そのモデルは、現実の多くの面をきれいに予測できる一つのパッケージとなっているのですが、それが現実の全ての面を反映しているわけではありません。あるホロスコープで説明できない事柄が見つかると、うまく説明できる多くの事柄を無視して、そのホロスコープは正しくないと言い始める占星学者が何と多いことでしょうか。人生には、この本に紹介された原則だけでは説明できない事柄もあるのです。

(略)

その他:誕生チャートは、人生に起こる全てのことをいつも正確に示すとはかぎりません。その理由は、人々は常にカルマを成しつつあるという、まさにそのことにあります。誕生チャートから得られない結果を知るためには、ホーラリィ・チャートと前兆とイシュタ・デーヴァターが助けになることがあります。これらの方法は、過去の出来事を調査するのにも使えます。それで私たちは、アインシュタインの月-火星の期間にノーベル賞をもたらしたのは火星にふさわしいことかどうかという問題が生じた瞬間のプラシュナ(ホーラリィ)・チャートを調べることにしました。そのプラシュナ・チャートでは、問題が生じた火曜日(火星の日)に火星は蠍座のラグナに入っており、どの三つのラグナから見てもルチャカ・ヨーガを形成していました。月は第7室で高揚しており、月と火星は強力なチャンドラ・マンガラ・ヨーガを形成していました。また、火星と月はダルマ・カルマ・アディパティ・ヨーガに参加しており、両方の星が第10室の支配星である太陽に影響を及ぼしていました。太陽、月、火星は互いに友人です。最後に、そして驚くべきことに、そのプラシュナ・チャートでは火星が機能中のダシャーの支配星でありました。このようなすばらしいプラシュナが示しているのは(少なくとも過去を見た場合には)、月と火星の両方がドゥスターナにあるということによって誕生時に示されたカルマが、アインシュタイン自身がなしたクリヤマナ・カルマによって、あるいは神の恩寵によって、変更されたということです。もし、アインシュタインが月-火星の期間の前かその期間中に占星学者に相談していたとしたら、このような変更が近い将来起こることとして発見できたことでしょう。
(『人生を照らす光: インド占星学の紹介 インド占星術 (ヴェーダウェイブックス)』(ハート・デフォー&ロバート・スヴォボーダ著 佐野敏夫, 井岡治彦 訳より)

ハート・デフォーは、マハダシャーの月が減衰し、ニーチャバンガラージャヨーガにもなっていないことで、この時期のノーベル賞の受賞が説明出来ず、説明を放棄してしまったようである。

挙句の果てにジョーティッシュは現実の単なるモデルであるので、現実の全ての面を反映しているわけではなく、説明できないこともあるのだとして匙を投げ、代わりにこの疑問が浮かんだ時のプラシュナチャート(ホラリーチャート)を作成して、その答えを探すといったことを行なっているのである。

そして、『このようなすばらしいプラシュナが示しているのは(少なくとも過去を見た場合には)、月と火星の両方がドゥスターナにあるということによって誕生時に示されたカルマが、アインシュタイン自身がなしたクリヤマナ・カルマによって、あるいは神の恩寵によって、変更されたということです。もし、アインシュタインが月-火星の期間の前かその期間中に占星学者に相談していたとしたら、このような変更が近い将来起こることとして発見できたことでしょう。』といったようにチャートに刻まれた悪い運命が、クリヤマナ・カルマあるいは、神の恩寵によって変更されたのだといった合理化も行なわれている。

占星術で予言が当たらなかった場合に本人の努力が足りなかったとか、運命以外の要素を持ち出して、強引にそれを説明してしまうといったよくありがちなことがここでも行なわれている。

もしK.N.ラオの『運命と時輪』(原題:AStrology, Destiny and the Wheel of Time)に記されているパラシャラの例外則を知っていれば、月期のノーベル賞受賞は説明可能である。
パラシャラの例外則は、3室、6室、8室の支配星が減衰するか、あるいは惑星が3室、6室、8室で減衰する場合にラージャヨーガ的な効果が働くという法則である。

またアンタルダシャーの火星は、6室支配で8室に在住している為、ヴィーパリータラージャヨーガを形成している。

ドゥシュタナハウスの支配星が自分以外のドゥシュタナハウスに在住する場合にラージャヨーガとなる効果である。

この時、ドゥシュタナの凶意同士が影響し合って二重否定的な効果が生じ、災い転じて福と為すといった奇想天外の上昇をもたらすのである。

実際にアインシュタインは、1922年11月9日にノーベル物理学賞受賞の知らせを受けているが、それは前年度に保留されていた1921年のノーベル物理学賞なのである。

普通にすんなりとノーベル賞を受賞できた訳ではないのである。

何かノーベル賞の選考委員の中で、揉め事が起こったことが分かる。

wikipedia アインシュタインによれば以下のように記されている。

受賞理由は「光電効果の発見」によるものであった。当時、アインシュタインが構築した相対性理論について「人類に大きな利益をもたらすような研究と言えるのかと言えば疑問」との声、さらには「ユダヤ的」であるとするフィリップ・レーナルトあるいは、ヨハネス・シュタルクなどノーベル物理学賞受賞者らの批判があった。ノーベル委員会は、これらの批判を避けるために、光電効果を受賞理由に挙げたと言われている。なお、受賞に際して賞金も授与されたが、これはアインシュタインが近々自身のノーベル賞授与を予測しており、賞金を渡す前提条件に離婚していたため、かつての妻ミレーバに渡したとされる。

(wikipedia アルベルト・アインシュタインより引用抜粋)

受賞にあたっては、他のノーベル賞受賞者たちからの批判があり、ノーベル委員会は、批判を避ける為に「光電効果」を受賞理由に挙げ、また賞金は前妻のミレーバに渡されたそうである。

アンタルダシャーの11室支配の火星が8室で高揚しているが、8室は配偶者の財産(2室)のハウスであり、結局、ノーベル賞の賞金が妻の財産になったのはその為かもしれない。

まず、このマハダシャーの月は6室で減衰している時点で、上昇をもたらすと判断しなければならないのである。

そして、ダシャーの解釈として、マハダシャーの月は、アンタルダシャーの火星の星座に在住している為、アンタルダシャーの火星の影響下にあり、アンタルダシャーの配置の吉凶が重視される。

またマハダシャーの月の時期に何が起こるかは、ディスポジターである火星の支配と在住や強さがかなり結果を左右するのである。

この場合、11室(受賞)の支配星が高揚しているので、突然、前年度のノーベル賞を受賞することが出来たが、それが8室に在住しているので、賞金が妻に渡るという形で、自分の賞金にはならなかったということである。

そして、6室の支配星が8室に在住しているヴィーパリータラージャヨーガの効果として、ノーベル選考委員の中で賛否両論が起こったが、最終的に受賞理由を変更するなどして、アインシュタインはノーベル賞を受賞することが出来たということである。

正に災い転じて福と為すようなことが起こったのではないかと思われる。

ハートデフォーは、この本を書いた当時、こうしたノーベル賞受賞の詳しい経緯を知らなかったかもしれないが、この解釈には、パラシャラの例外則やヴィーパリータラージャヨーガの解釈が抜け落ちている。

ハートデフォーが『Light on Life』の初版を出したのは、1996年である。

K.N.ラオが『運命と時輪』(原題:AStrology, Destiny and the Wheel of Time)の初版を出したのが、1993年で、この同じ時期、1993 年~1995年にかけてK.N.ラオは、5回渡米し、ジョーティッシュに関する全米レクチャーツアーを行ない、そこで未来予測に関する素晴らしいプレゼンをした結果、「ラオ以前、ラオ以後」という言葉が生まれる程になり、欧米社会に認知されるようになったようである。
米国のヴェーダ占星術協会は、1992年10月にB.V.ラーマンが訪米して、カリフォルニア州サンラファエルのドミニカンカレッジで開催された第1回ヴェーダ占星術に関する国際シンポジウムで基調講演を行なった際にB.V.ラーマンの助言と指導で、設立されている。

1993年~2003年にデヴィッド・フローリーが米国ヴェーダ占星術協会の理事会会長を務めているので、K.N.ラオが1993年~1995年頃まで訪米したのは、デヴィッド・フローリーが会長を務める米国ヴェーダ占星術協会が招待したということである。

K.N.ラオは、その全米レクチャーツアーで、ようやく認知されるようになったので、『Light on Life』が出版された1996年の時点で、まだハートデフォーはそこまで学習できていなかったのだと思われる。

マークボニーは、B.V.ラーマンが出席した第1回ヴェーダ占星術に関する国際シンポジウムに参加しており、1993年~のK.N.ラオの全米レクチャーツアーに参加したメンバーの一人で、この時に初めて、師と仰ぐK.N.ラオに出会っている。

マークボニーは、最近の著述の中で以下のように述べている。


(略)インターネットのこの頃は、ジョーティッシュに関して、オンラインで非常に多くの情報、多くの先生からのYouTubeのビデオプレゼンテーションがあります。私の意見では、これの問題は、その多くは間違った情報であるか、非常に厳格で独断的な方法で定義された情報で、例えば特定のハウスに在住する月は常にどんなチャートにおいても同じことを意味するといったようにです。

新しい学生は、どの入力が有効でどれがそうでないかを識別する基礎がありません。私は1990年代初頭に最初のカンファレンスに出席した新しい生徒として同じジレンマに遭遇しました。K.N.ラオに会って直ぐに分かったのですが、当時のアメリカ人は、ハート・デフォーを除いて、かなり低いレベルの知識しか持っていませんでした。私は、異なる入力の源を制限することの重要性に気づくようになりました。

その時でさえ、私の傾向としては、私が学んでいることは何であれ、どこかの先生や著者によって例として提示されたものとは異なるチャート上でテストすることが常にありました。そうすることで私はK.N.Raoが教えたことを信頼するようになりました。それは最も純粋な古典のジョーティッシュの経典から来る光で、そのような方法で、時がテストした為であるばかりでなく、彼の革新が非常に良く調査され何百ものホロスコープでテストされたからです。

(『Golden Keys to Jyotisa VOLUME TEN』by Marc Boney M.A. より引用抜粋)

このK.N.ラオが全米ツアーを行なった当時のアメリカ人は、ハートデフーを除いて、かなり低いレベルの知識しか持っていなかったということである。

つまり、ハートデフォーの『Light on Life』は、1996年時点で、米国の実践者が到達していたジョーティッシュの最高のレベルを示している。

然し、そのハートデフォーでさえもアインシュタインの月/火星期に関しては、歯切れの悪い説明しか出来ていない。

またハートデフォーのリーディングの特徴を見ると、ヨーガやアヴァスタに拘りを見せるような初心者的な観点も目立つのである。

特定のヨーガは、あたかも受験勉強で、英語の構文を覚えることに似ていて、初心者が惹かれる分野である。

実際は、各ラグナ毎の惑星の機能的吉凶などに精通して、ヨーガを知らなくても一般的な法則から多くの答えが出せるのであり、そちらの方が重要に思える。

然し、それにも関わらず、ハートデフォーの『Light on Life』は、パンチャンガから始まって、各ラグナの典型例、ハウス展開、時刻修正、ディスポジターシップや、ナクシャトラなど、ジョーティッシュの幅広い教養を総合的に高めることのできる優れた良書である。

特に『12章チャートの実際例』の中で、当時、正しいラグナについて議論されていたインディラガンディーのチャートについて、蟹座ラグナか、獅子座ラグナか、どちらの方が、説明できるかを論じている個所は非常に参考になる。

当時の1996年の段階で、ここまで読解が出来たということに非常に驚きを感じるが、上述したようにヨーガやアヴァスタの多用など、あまり一般的に感じられない特徴も見られる。

私たちが学習している段階では、BVBから出て来る情報により、インディラガンディーのラグナは初めから蟹座ラグナということになっているが、当時、誕生時間は、23:15~23:45までの様々な時刻が報告されており、誕生時間が11:25以前の早い場合、ラグナが蟹座になるという問題が論じられているのである。

ここで息子たちが首相になったことを5室をラグナとするハウス展開から考えて蟹座ラグナでなければ説明出来ないとする辺り、見事なラグナ修正スキルを身に付けていることが分かる。

この『Light on Life』(日本語訳:人生を照らす光)は、初学者にとって素晴らしく役に立ち、日本語訳も秀逸であるが、1つ初心者の方にとって注意が必要なのは、訳者の井岡治彦さんが使用している訳語が、ジョーティッシュで一般的に使われている用語と比較して、割と一般的でない訳語が当てられている点である。

例えば、コンバストが燃焼、ディスポジターシップを支配権、コンジャンクションを接合、アスペクトは、座視、あるいは、ドリシュティ―となっている。

座視 = アスペクト
接合 = コンジャンクション
ドリシュティ = アスペクト
支配権 = ディスポジターシップ
燃焼 = コンバスト

慣れれば問題ないが、カタカナ英語で書くと、文字数が多くなり、文字数を削減する為にこうした訳語を使うように工夫されているのかもしれないが、初心者は戸惑うかもしれない。

このようにハートデヴォーの『Light on Life』(日本語訳:人生を照らす光)は、読み込んでいくと色々発見がある名著であり、欧米におけるここ25年ぐらいのジョーティッシュの歩みを映し出す鏡である。



【追記2020年6月6日】

アインシュタインがノーベル賞を受賞した月/火星期は、マハダシャーの月は、実際には、パラシャラの例外則だけではなく、普通の意味でのニーチャバンガ・ラージャヨーガを形成している。


減衰する月が高揚する星座の支配星(金星)がアセンダントから見てケンドラに在住している為である。


従って、ここでは、ハートデヴォーが、単にパラシャラの例外則について知らなかっただけでなく、ニーチャバンガの成立条件も見落としたと考えられる。







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