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ノマドランド - 4室をテーマとする希望の物語 -

2021 3/30


『ノマドランド』(フランシス・マクドーマンド主演、クロエ・ジャオ監督)という映画が日本で公開されている。







またそれにあわせて、原作である『ノマド-漂流する高齢労働者たち』ジェシカ・ブルーダー著、鈴木素子訳も書店で、平積みにして並べられている。





元々は2018年10月20日に初版発行された本である。



ジャーナリストであるジェシカ・ブルーダーが、現在、アメリカに数百万人はいるとされるノマド(車上生活者)たちの中に入って、生活し、その中の何名かにスポットライトを当てて、取材した本である。





彼らのほとんどは2008年のリーマンショックの時に資産を全て失い、年金も失って、高い住宅ローンが払えない為、持ち家を手放して、代わりにキャンピングカーやトレーラーハウスなどを購入してそこに暮らし、低賃金のキャンプ場のスタッフや農作物の収穫期の手伝い、多忙期のアマゾンの倉庫での短期労働など、季節労働者として、アメリカ大陸を仕事を求めて移動しながら生活する人々で、60歳を超えた高齢労働者が多い。


そうした車上生活者を労働者として活用する労働市場が出来上がっているようであり、雇う側は、ノマドを受け入れる為に巨大な駐車スペースを用意して、労働に従事している期間は、その駐車スペースを無料で利用して車上生活できるようにもなっていたりするようである。


ノマドたち(60歳以上の車上生活者)は、労働組合もなく、違法な時間外サービス労働にも文句を言わず甘んじる場合も多い、真面目な労働者であり、好きな時に雇って、好きな時に首を切れる都合のいい労働者である。


ノマドは、明らかに家という資産を失ったいわゆるホームレスに転落した人々だが、彼らはプライドが高く、そのことを認めたがらない。


ホームレスという呼称の代わりに自分たちをハウスレスと呼んでいる。


著者も指摘しているが、アメリカ国民に特有の独立自立の精神を維持しつつ、経済的な苦境を乗り切るために選択された最後の手段が車に住んで、仕事を求めて移動しながら生きていくという戦略なのである。


アメリカではそうした人々が増えていて大変な状況になっているという話を聞いていたが、この原作を読んで、その実際の所がよく分かった。


そうした車上生活者たちは、SNSでつながり、お互いに情報交換しながら、車上生活上の問題を共有し、その解決を助け合う為のコミュニティーを形成し、ノマド生活者たちの車が集うキャンプ場では、実際に一緒に助け合って、生活している。


そうしたノマドたちが集まる聖地として、アリゾナ州のクォーツサイトがあり、ノマドのキャンピングカーなどがそこに集結する。


アメリカのスピリチャルスポットであるセドナ(Sedona)もアリゾナ州にあったと思うが、パワーストーンなどの産地としても有名である。



そうしたノマドのリーダー的な人に追従する人も多く、様々なキャンプ地をリーダーを追いかけて転々とする人々がいるようである。


つまり、財産の象意である4室は、家(住居)を表わすが、車などの乗り物の表示体でもある。


家よりも安価に購入できる車というものが、家の代わりとして、生き残っていく為に必要な最後の財産である。



ジェシカ・ブルーダーが取材した人の中にリンダという女性がいて、主にこのリンダにスポットライトが当てられている。


リンダの夢は、「アースシップ」という土を詰めた古タイヤや空き缶や空き瓶などの廃棄物を建材にして建てる自作の家を建ててそこに住むことである。


太陽熱を利用して住むエコロジーな家である。


その背景には、市場原理から逃れて、質素な精神的な生活を送るという考え方がある。


これはアメリカのヒッピー文化などカウンターカルチャー時代以来の精神潮流の一つの表れであり、またリバータリアニズムとも結びついて、アメリカのそもそもの建国の精神や、西部開拓時代の独立自営の精神などと合流し、独特なアメリカ的な精神運動を生み出している。


これは、最近、私が読んで、このブログ上でも紹介した『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』副島隆彦著でもアメリカの精神史の中で、ラルフ・ワルド・エマーソンが重要な位置を占めており、D.H.ソローの『森の生活』などもその流れの中にあると書いてあった。


エマーソンは、米国版エマニュエル・カントのような人物で、超越主義者で、神秘家で、個人主義者でもある。


個人主義ということで、アメリカの色が付いている感じがするが、リバータリアニズムの精神にも通じている。


その為、もしアメリカで、社会主義が導入される場合、ノームチョムスキーが言ったようにリバータリアニズム社会主義といった個人の自由を重視した形になるはずである。



リンダは、そのアースシップを建てるためにアリゾナ州ダグラス近くの砂漠の中に5エーカー(約6120坪)の土地を購入するのである。


そして、リンダが仲間たちと、これからアースシップを建てていこうという所で、著者の取材は終わる。


ノマドは、明らかに経済的に苦境に陥り、持ち家を手放さざるを得なくなった人の車上生活への転落なのだが、然し、その機会を物質文明や市場原理からの決別として、肯定的にとらえ、土地に縛り付けられたり、物を所有しないことで、自由を得たと、前向きに評価する姿勢が見られる。


ポジティブ病にとらわれたアメリカ人の良さとも言えるのかもしれないが、何が何でも自分たちの現状を肯定的にとらえようとする。


そのように考えなければ、精神的にもやっていけないのである。人間には希望が必要である。



貧乏への転落は、同時にスピリチャルな生き方の追及へとつながり、新しい生き方への覚醒へとつながるのである。


だから自分たちをホームレスではなく、ハウスレスであるとし、貧乏を物を所有しないことによる自由の満喫ととらえることが出来るのは、逆にアメリカ人の胆力であり、精神的な底力とも考えられる。





ここで私が思ったのは、この物語のテーマは、家ではないかということである。


人間が幸福に生きるには、住まい(家)が必要であり、その最低限の表現が移動する家としての機能も果たす車である。



リンダは、D.H.ソローの『森の生活』も愛読しているが、この本の冒頭でソローは、高価な家をローンを組んで購入したりして、一生をそのローンを支払うだけの人生にするのではなく、森の中に安価な材料を使って、自分で、家を建てることを勧めている。



それが冒頭に来ているというのは、それが、スピリチャルな生活への最も根本的で重要な第一歩であるからである。


資本主義の魔の手、銀行の支配などから逃れ、物質主義の大量消費社会と決別して、シンプルで精神的な生活を送るには、まず、最も基本的で必要欠くべからざる財産としての住む家を何とかしなければならない。



その為の戦略が必要なのである。



4室は家の表示体であるが、ケンドラハウスである1室(身体)、4室(住まい)、7室(配偶者)、10室(仕事)の一つを担い、人生を送る上で、重要な柱としての役割を担っている。



生活の基盤、心の安定、喜びをもたらすものが家(4室)という財産である。



この家を手に入れるために銀行で高い住宅ローンを組んで、新築の家を購入することが、最も物質主義の社会システムに敗北し、それに取り込まれた悪い選択である。



家のローンを支払う為に一生、銀行の奴隷として働くという選択である。




従って、堀江貴文などの論客が家は購入せずに賃貸することを勧めているのは、全く正しい考え方で、しかも合理的で、スピリチャルな考え方とも言える。



一生をローンの支払いのために費やすということこそ、不合理な選択である。



戦後のほとんどの日本人が、従順なサラリーマンとして、右へ習えで、社畜として働き、新築の家をローンで購入したのは、不合理であったと言える。



堀江貴文は、お金の亡者のように言われているが、お金は貯金せずに全て使ってしまえと言っており、貯蓄に邁進する守銭奴的な発想ではないため、お金の亡者ではないと言える。


ナヴァムシャでは、水瓶座に惑星集中しており、水瓶座時代の生き方のビジョンを示せる人物に思える。




最近、youtubeなどでも安い山林を購入して、そこに家を建てて住むというライフスタイルを実践して、その様子を撮影して、配信する人が増えているが、やはり、そこにも市場原理、稼ぐことへのプレッシャーから開放されて、シンプルに生活したいという願望、思想が垣間見られる。



彼らは、決まって、家を建てた後に太陽光発電を取り付ける。



太陽光線は、無料の無尽蔵のエネルギー源である。



あるいは、中古の安い家を見つけて来て、それを自分でリフォームして住むというスタイルである。



お笑い芸人のヒロシが山林を購入して、キャンプをして暮らしているというのが話題にもなっている。





一番、お金のかかる家を何とか出来れば、それで、私たちの苦闘のほとんどが終わってしまうと考えられ、それが最重要課題である。



昔の封建社会では、封建的領主が、全ての土地を所有しており、農民は、土地付きの農奴として、土地と一緒に売り買いされたという。



ヨーロッパの貴族たちは、今でもヨーロッパ各地の主要な不動産を所有しており、インドなどでも地主の力が強いという。



昔、マハラジャとして君臨していた地方の封建領主の系譜が、今でも土地を治めて、小作人、賃貸人から一生巻き上げていくという風習が続いているようである。



エンロンの取締役が、沈みかかっていた会社から逃げ出し、退職金で、牧場を買って、引退したという話もある。



現役時代の最後の行為が、牧場の購入だったというのは、土地を得て、そこで快適なプライベートを送るということが、人生の最終的な目的であったとも考えられる。



キューバのカストロが、革命を起こした後に最初に行ったことが、全ての家の賃貸人の賃貸料を無料にするということであった。



これは土地の独占と賃貸料の徴収というものが、労働者を苦しめる資本主義の最も強力な支配のツールであった為である。




この家の問題を若いうちから思慮深く考え、この問題に集中して取り組んで来た人、割安な中古物件の取得などにコミットして来た人は、早期にこの問題をクリアして、人生の負荷を顕現し、人生の軛から自らを解放した人々である。



経済学者のラビバトラ博士も住宅問題を解消することで、人々は物を購入し、経済的に景気も回っていくと主張していた。



人々が家を所有することが出来るようにすることが重要だと書いていた。



先日、このブログの中でも取り上げた『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』では、将来的に3Dプリンタ技術で、家が短期間に50万円ぐらいで建てられると書いてあったが、その辺りは、シリコンバレーの技術の発展に最も期待したい所である。



「家」という問題を解決することが幸福に生きられるかどうかの鍵である。



精神的、経済的問題を解消する為の鍵と言える。



環境問題も究極的には、「地球」という我々の家を綺麗に住みやすくするという問題である。



水瓶座が強い人は、社会全体の問題というものを自分の問題として捉えられるため、地球の環境問題を自分たちの住まいの問題として認識できるのである。



蟹座や牡羊座が強いリバータリアンタイプの人は、自分が安全に快適に生活できるような家を所有することに関心を持つと思われる。




この『ノマド-漂流する高齢労働者たち』という本は、私の人生上の問題などにもフィードバックして来て、非常に心を激しく揺さぶる作品であった。



このノマドの境遇に陥る人たちの心理状態というものに深く感情移入して、自分の体験だった場合にどうかというように頭の中で、シュミレーションした。



私も蟹座が強く、リバータリアン的な発想が強い為、何か地方の僻地に家を所有したり、あるいは、最近は、無人島も買えるようだが、安いものでは、1000万円以下の無人島もあるようである。



そうした無人島を所有して、そこを城にしたいという願望もある。



海が防壁になって、誰にもプライバシーを干渉されない隠遁地である。そこで毎日釣りなどもできる。



自分の中のそうしたリバータリアン的な気質にもう少し自覚的であるべきであった。



私の後悔としては、リーマンショックの直後に千葉など首都圏近郊に4LDKの家などが300~400万円ぐらいの価格で競売にかけられていた時にそのうちの一つでも買っておけばよかったということである。



家の問題、住まいの問題というものを人生の最重要課題として取り組むべきであった。




金融庁が「老後資金として2000万円の蓄えが必要」との指摘があったり、日本でも年金の改変が行なわれたり、65歳以上も働くのが当然の時代であると言われている。




タイミングよく『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)といった本が出て来て、人生100年時代というキーワードが、政府の方針などにも取り上げられるようになっている。



これは年金システムの崩壊などによって、引退というものがない時代に突入したことを意味している。




元気に働くことは良いことだが、その方が生きがいがあるからとか働いていた方が、元気でいられるからとかそういう問題ではなく、やむにやまれぬ理由から働かざるを得ないという状況がやって来るのである。




その最前線が、今のノマド(車上生活者)が何百万人も存在するアメリカの現状である。




『ノマド-漂流する高齢労働者たち』では、この人々の苦闘が、描かれていた。




このノマドの人たちの苦闘はいつまで続くのかだが、今後、状況は変わってくるはずである。




日本の場合、人口が減って来て、土地や不動産は余っており、また未来のテクノロジーが50万円で家を建ててくれるとなれば、状況は確実に変わってくるはずである。




またまもなく経済崩壊がやって来ると思われる。




私の望みとしては、社会秩序が一夜にして、ひっくり返るような出来事が起こって欲しいと思っている。




(参考資料)

ノマドランドの原作者「世代間の分断、結びつきに希望」
2021.3.19 12:10 産経新聞

 ベネチア、トロントの国際映画祭で昨秋、最高賞を受賞し、今年2月にはゴールデングローブ賞で作品賞、監督賞の2冠に輝いた米国映画「ノマドランド」(クロエ・ジャオ監督)。米アカデミー賞主要賞の有力候補として注目される。原作は、家を失った米国の高齢者たちが、“現代のノマド(遊牧民)”として季節労働の現場を渡り歩く姿を記録したノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」(春秋社)。原作者で米国人ジャーナリストのジェシカ・ブルーダーさんに話を聞いた。(水沼啓子)

 「とにかく大好きな映画で、すごくリアリティーを感じた。広大な西部の土地とか映像もとても美しい。淡々とたくましく生きていくキャラクターたちの力強さも描かれていた」と、本作を評価した。

 「自分が雑誌に書いた記事が本になったこと自体、驚きだった。それが今度は映画になった。その映画が多くの人に見られ、さまざまな賞を受賞している。そのこと自体、何か希望をもたらしてくれる気がする。こういう地味な作品が皆さんに称賛されるのは、とてもうれしい」と喜んだ。

 ブルーダーさんは3年間にわたり、何百件ものインタビューをこなしながら、ノマドたちをリポート。キャンピングカーに乗り、時には高齢者たちに交じり、低賃金労働の現場に潜入したこともある。

 「こうやって長い時間をかけて、ある世界に自分が完全に入り込んで取材をするのが好き。テッド・コノヴァー(米国のノンフィクション作家)といった尊敬するジャーナリストたちも皆、そうしたスタイルで取材をしている」

 映画に登場するノマドは、主人公のファーン(フランシス・マクドーマンド)とデヴィッド(デヴィッド・ストラザーン)を除いて、さまざまな理由で家を失い、実際に車上生活をしている米国の高齢者たちだ。ノマドの“真の姿”を捉えた作品でもある。
参照元:ノマドランドの原作者「世代間の分断、結びつきに希望」
2021.3.19 12:10 産経新聞

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