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イラン情勢について - ソレイマニ司令官暗殺、対米報復攻撃、ウクライナ航空機誤射 -

2020 1/15
1月2日夜、米国防総省は、イランの革命防衛隊のエリート部隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官をドローンの攻撃で殺害したことを発表した。

イランは1月8日早朝、報復措置として米軍が駐留する隣国イラクのアサド空軍基地などをミサイル攻撃した。

メディアは第三次世界大戦の危機を報じたが、トランプ大統領は報復はしない旨を発表し、事態は収束したかに見えている。

然し、イラクは米国との緊張が高まっていた最中、革命防衛隊の誤射によって、ウクライナの航空機を撃墜してしまい、イランの指導部が11日、ウクライナ機撃墜を認めたことを受け、首都テヘランで抗議デモが勃発している。



イランのロウハニ大統領は、ウクライナの旅客機撃墜について責任のある者はすべて処罰すると言明している。

イラン、旅客機撃墜で指導部に抗議デモ 革命防衛隊を批判
2020年01月12日16時31分 時事ドットコム

【ベイルート時事】イランがウクライナ旅客機撃墜の責任を認めたことを受け、イラン各地では11日、それまで事実を隠蔽(いんぺい)していた指導部などに抗議するデモが行われた。首都テヘランでは約1000人が参加し、最高指導者ハメネイ師や、誤射による撃墜を犯した精鋭部隊「革命防衛隊」に対し「恥を知れ」と気勢を上げた。

 報道によると、抗議デモはテヘランをはじめ、南部シラーズ、中部イスファハン、西部ハマダンなどで発生。インターネット交流サイト(SNS)では、治安部隊がデモ隊に催涙ガスや放水で強制排除を試みる様子を撮影した動画が出回った。
 デモ隊はさらに、米軍に3日殺害されたイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官の写真を引き裂くなどして怒りを表明した。

 ロイター通信によれば、改革派指導者のカルビ元国会議長は、ハメネイ師が撃墜の責任を取って辞任するよう訴えた。イラン国内でも、米国との緊張が高まっていた時に当局が旅客機の離陸を許可したことを疑問視する声が上がっている。

イラン大統領、ウクライナ機撃墜は「許せない過ち」 関係者を逮捕
2020年1月14日 18:05 Reuters Staff

[ドバイ 14日 ロイター] – イランのロウハニ大統領は14日、テレビ演説で、革命防衛隊が誤射したミサイルによるウクライナの旅客機撃墜について、責任のある者はすべて処罰すると言明し、「悲劇的な出来事」を徹底的に調査すると語った。

同大統領は「許せない過ちだ。撃墜が1人の人間の責任ということはあり得ない」と述べ、「イラン軍が間違いを認めたことは最初の良い一歩だ。二度と同じことが起きないという確信を人々に与えなくてはならない」とした。イラン政府にはウクライナ機の墜落で「命を落としたイランやその他の国々の国民に対して責任がある」と付け加えた。

一方、同国の司法当局は、ウクライナ機の墜落に関わった複数の人物を逮捕したことを明らかにした。同当局の報道官はこれ以上の詳細を明らかにしていない。

こうしたイランと米国の緊張やイランのウクライナ航空機撃墜と国内のデモなどの一連の出来事が、イランの建国図上で、説明できるかどうか調べて見た所、実際、それは明確に表れているようである。



イランの建国図は、アメリカの傀儡政権であったモハンマド・レザー・シャーの専制体制に反対して、亡命中の精神的指導者・ホメイニを中心として起こされたイラン革命によって1979年4月1日にイラン・イスラム共和国が樹立された時のものである。


※尚、イランの建国図の時間は『Time Tested Techniques of Mundane Astrology with over 100 illustrations』M.S.Mehta著に掲載されているデータを用いている。

この建国図で見ると、ラグナは蟹座で、現在、木星/金星期である。


ラグナ、あるいは、ダシャーラグナの木星から見て、金星は、4、11室支配で8室に在住し、ケートゥとコンジャンクトして、7、8室支配の土星からアスペクトされている。


まず、11室は国家の要人、重要人物を表わしており、11室支配の金星が8室に在住して、ラーフ/ケートゥ軸や7、8室支配の土星によってアスペクトされて傷つけられていることは、国家の重要人物が暗殺されることを表わしていたと思われる。


また11室は通常は友人、同僚のハウスであり、国家のマンデン図においては、国際関係を表わすハウスである。


その11室の支配星が8室に在住し、ラーフ/ケートゥ軸、7,8室支配の土星からアスペクトされて傷ついていることは、国際関係が悪化することを表わしている。


そして、8室は要人の暗殺などを表わすハウスである。



もう一つのウクライナ航空機の撃墜だが、イランの指導層も困惑させるようなイランの革命防衛隊の誤射によるものだった。


まず4室が乗り物だとすれば、水瓶座は航空とか航空機を表わす星座であり、4室支配の金星が水瓶座8室に在住して、ケートゥとコンジャンクトし、7、8室支配の土星によってアスペクトされることは、誤射による航空機の墜落を表わしていたと考えられる。


4室の支配の金星がケートゥと絡んで水瓶座8室で傷つけられていることは、ケートゥが誤謬とか、誤診断を表わす惑星であり、4室や金星が乗り物、水瓶座が航空を表わし、8室が破局、災難を表わすハウスであることから、今回の誤射による航空機の撃墜を表わしていたと考えられる。


また4室は国民や議会を表わすハウスであることから、イラン革命防衛隊の誤射によるウクライナ航空機の撃墜に対して、国民は困惑し、デモを起こし、議会も困惑して、大統領が関係者の逮捕を宣言するまでに至った。


そして、こうしたことによって、イランの国際社会での評判は落ちて、行き詰まりを迎えたのである。



7室はマンデン図においては戦争、外交関係を表わすハウスであり、8室は暗殺などを表わすハウスである。


国内の重要人物が、外国のドローン攻撃によって、暗殺されたのは、11室支配の金星が8室水瓶座で、ケートゥ、土星からアスペクトされているからではないかと思われる。





7、8室支配の土星にアスペクトは、外国からの攻撃を表わしており、その攻撃が、ドローンというAI兵器によるものであったのは、水瓶座に在住しているからである。



このように現在のイランの情勢は、イランのマンデン図から説明することができる。


トランジットの土星や木星、惑星群が6室を通過し、12室にアスペクトしていることは、6室が外国からの攻撃や国民のデモ活動などを表わし、イラクの反撃なども6室で表される為ではないかと考えられる。



このように現在のイラン情勢は、ダシャーやトランジットから説明することが出来る。



このイランの緊迫した状況は、木星/金星期(2019年9月~2022年5月)の間は傾向として続くと思われる。




因みにトランプ大統領は、7ヶ月前にソレイマニ司令官の殺害を承認していたようである。


ソレイマニ司令官殺害、7カ月前に承認か イラン情勢悪化でトランプ氏―米報道
2020年01月14日14時31分 時事ドットコム

【ワシントン時事】米NBCニュースは13日、米当局者らの話として、トランプ大統領が7カ月前にイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官の殺害を承認していたと報じた。米国内では同司令官殺害の根拠をめぐり、政権が主張する「差し迫った脅威」に懐疑的な見方が広がっている。半年以上前から殺害を認めていたのであれば、政権側の根拠が崩れる可能性もある。

米軍、別のイラン幹部も標的 ソレイマニ司令官殺害時

 当局者は「これまでに多くの選択肢が大統領に提示されてきた」と指摘。その上で、ソレイマニ司令官殺害も「ある程度前から」選択肢に加えられていたと指摘した。

 昨年6月に米軍の無人機が革命防衛隊によって撃墜された際、当時のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)とポンペオ国務長官はトランプ氏にソレイマニ司令官殺害を進言。だが、トランプ氏は米国人が殺されない限り、殺害を承認しないと応じた。

 同月にはソレイマニ司令官殺害に関する大統領指令書が発出されたが、作戦は大統領の最終的な承認を必要とするという条件が付けられたという。

7ヶ月前と言えば、2019年7月頃であり、ちょうど木星/金星期が始まった2019年9月の2ヶ月前である。


タイミング的に木星/金星期が、この現在のイラン情勢を作り出したことが理解できる。


因みにイランの建国図では、月が牡牛座に在住している為、チャンドララグナから見ると、金星は10室に在住している。


その為、イランは今、国際的に注目されているのである。



今後のイラン-アメリカ情勢


2020年1月24日以降、トランジットの土星が射手座から山羊座に移動し、木星も3月30日に射手座から山羊座に移動して、木星と土星のダブルトランジットが山羊座-蟹座軸で形成される。



2月25日以降、冥王星も射手座から山羊座に入室して、火星も3月22日以降、射手座から山羊座に移動する。



従って、2020年3月30日以降、山羊座に木星、土星、火星、冥王星がトランジットしていることになる。





イランの建国図では、山羊座は7室に該当するが、7室は外国との交易や外交関係を表わすハウスであるが、戦争(※戦争も外交関係の一種)なども表わすハウスである。



その7室に木星、土星、火星、冥王星がトランジットすることは、外国との緊張関係が想定される。





山羊座はアメリカの建国図では6室に該当し、6室には領土的攻撃や労働者階級のデモなども表わすハウスである。



アメリカは現在、ラーフ/ラーフ/水星期(2019/12~2020/5)で、ラーフのディスポジターは7室に在住する月である為、好戦的である。



プラティアンタルダシャーの水星は2、11室支配で12室に在住して傷ついており、やはり、国際関係の悪化、戦争による出費を表わしている。




イランの建国図では、アンタルダシャーの金星期は、2022年5月17日まで続く為、アメリカとの緊張関係が更に増していく可能性がある。




蟹座に木星と土星がダブルトランジットするようなタイミングというのは、民族主義、国家主義が台頭し、国家は自国の国益を追求する為、国際関係においては非常に戦争の危機が高まる時期である。



国家だけではなく、一般市民も自分の身の安全や利益の追求など、各々が追求する状況となり、個人主義的(リバータリアニズム的)な態度や行動傾向で支配されるのである。



そのような状況の中では、ビットコインなども上昇していくので、ソレイマニ司令官が暗殺され、イランが対米報復攻撃をした今現在、ビットコインは上昇傾向にある。



以前、トランプ大統領がシリアをミサイル攻撃した際にもビットコインが上昇したのを覚えておられる方もいると思うが、戦争の緊張が高まると、リバータリアニズム的な雰囲気によって支配され、リバータリアニズムの体現であるビットコインは上昇する。



2020年は、世界的に国家主義、民族主義、個人主義が台頭し、自分の実力で成り上がろうとする一般市民の動きが活発化すると考えられる。




(参考資料)

イラン、1千人抗議デモ 旅客機撃墜の説明に怒り
2020.1.12 06:23 共同通信

イランが11日、ウクライナ機撃墜を認めたことを受け、首都テヘランで抗議デモが発生した。ファルス通信によると、約1千人が参加。墜落は技術的トラブルによる事故との主張を一転させたイラン当局に対し、国内では怒りの声が上がっている。

 参加者らによると、テヘランの大学前に集まった人々は「うそつきには死を」「責任者の辞任では済まされない。裁きを」などと叫んだ。ソーシャルメディアでは、警官隊が催涙ガスで参加者を追い払う様子を撮影したとされる動画が出回った。

 イランでは昨年11月中旬、大規模な反政府デモが全土に広がり、治安部隊との衝突などで多数が死傷した。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは広範な弾圧で300人超が死亡したとの見方を示した。イラン当局は「根拠がない」と否定したが、いまだに死傷者数を公表していない。(共同)
参照元:イラン、1千人抗議デモ 旅客機撃墜の説明に怒り
2020.1.12 06:23 共同通信
イラン、米の反撃に警告 報復攻撃を「殉教者ソレイマニ作戦」と命名
2020.1.8 11:00 産経新聞

【ベイルート=佐藤貴生】イランの革命防衛隊は8日早朝、米軍が駐留する隣国イラクのアサド空軍基地など複数の基地を攻撃したことを認め、中東地域の親米国家が攻撃に使用された場合、反撃を受けると警告した。敵対するイスラエルについては米の同盟国だとみなしていると述べ、攻撃対象である可能性を示唆した。ロイター通信がイラン国営メディアの情報として伝えた。

 イスラエルは核を保有するとされ、中東最強の軍を持つ。イスラエルのネタニヤフ首相は革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を米軍がイラクで殺害した後、明確に賛同した世界でほぼ唯一の指導者で、イスラエルが攻撃されれば反撃する公算が大きく、戦闘は大規模になる可能性が高い。

 また、米国の友好国サウジアラビアでは昨年9月、石油施設が攻撃を受けて米軍が防衛強化に乗り出していた。米は攻撃はイランによるものだったと断定しており、サウジが攻撃された場合も戦闘が拡大する恐れがある。

 イランの通信社は8日早朝、暗闇の中で発射されたミサイルとみられる光線がいくつも流れる映像を放映。イランでは殺害現場となったイラクに続き、ソレイマニ司令官の大規模な葬儀が行われたばかり。「激しい復讐」をすると表明した最高指導者ハメネイ師は葬儀の場で涙を流すなど、報復は時間の問題とみられていた。

 国営イラン放送によると、イランは8日の対米報復攻撃を「殉教者ソレイマニ作戦」と命名した。また、ミサイルはイラン西部ケルマンシャー州から発射された可能性があると報じた。
参照元:イラン、米の反撃に警告 報復攻撃を「殉教者ソレイマニ作戦」と命名
2020.1.8 11:00 産経新聞
イランのソレイマニ司令官とは何者か? 米軍による殺害が一大事である理由
ソレイマニ司令官の暗殺は、アメリカがイランに対して大胆なアクションを取ることを厭わないことを示唆する。
Carla Herreria
2020年01月06日 17時24分 JST HUFFPOST

アメリカの国防総省は1月2日夜(現地時間)、イランそして中東において最も強力な軍人の1人を殺害したことを公表した。

標的となったイランのカセム・ソレイマニ司令官の死は、アメリカとイラン国間の敵意を急激に高め、イランからの報復をほぼ保証することになる。

イランの最高司令官であったソレイマニ司令官とは何者なのか?そして彼の死がなぜ、中東にとって大きな変革をもたらすのか?以下に解説していく。

殺害されたカセム・ソレイマニ司令官とは?

ソレイマニ司令官は、イラン革命防衛隊のエリート部隊「コッズ部隊」の司令官であった。イラン革命防衛隊は中東で高度な対外工作を行い、シーア派民兵のイラクでの訓練などを行なっている。2019年4月にアメリカのトランプ政府は、イラン革命防衛隊を「外国テロ組織」に指定した。

ソレイマニ司令官はアメリカではテロリストとして見られているが、イランの保守派やアメリカやその同盟国に批判的な人々から支持されてる人物であった。また、彼の殺害に対し「報復」を誓ったイランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師とは、強い繋がりを持っていた。

なぜ彼が重要なのか?

ソレイマニ司令官は15年前に「コッズ部隊」の司令官となり、中東でイランの影響力を広げ、新たな民兵を訓練し武装させるなど、悪名を轟かせた。

元アメリカ軍司令官であり元CIA長官でありデビット・ペトラウス氏はForeign Policyのインタビューでソレイマニ司令官について、イランが中東の「シーア派三日月地帯」と呼ばれるエリア(イランからイラク、シリア、レバノン南部までを含む)を制覇する計画においての「建築家」だと話した。

「彼はイラクだけでも600人以上のアメリカ兵士、そして多くの連合軍やイラクの仲間や、シリアなどの他の国でも人々の命を奪った武器、爆発物、発射物、軍需物資の提供をした重要人物だ」と話した。

なぜトランプ政府は彼を狙ったのか?

アメリカ軍は、イランによるアメリカへの攻撃を防ぐためにソレイマニ司令官を標的にした、と国防総省は声明で発表した。

トランプ大統領はソレイマニ司令官がアメリカの外交官や軍を狙った攻撃を計画していたと非難しており、暗殺により阻止された、と話した。

「ソレイマニはアメリカの外交官や軍関係者に邪悪な攻撃を間も無く実行しようと計画していたが、その途中で彼を捕まえ、殺害した」と話した。

イランの要人を標的にし、アメリカがイランとの戦争を始めようとしているとの批判に対し、大統領はソレイマニ司令官の暗殺を擁護し、アメリカが地域でのイランの影響を覆そうとしているという主張をかわした。

「昨夜アクションをとったのは、戦争を止めるためだ。始めるためではない」トランプ大統領はフロリダの別荘「マー・ア・ラゴ」から1月3日に話した。

「イランの人々を深く尊敬している」と加え、「彼らはとても優れた人々で素晴らしい伝統があり、限りない可能性を秘めている。政権の変化を求めているわけではない」と話した。

彼の死がなぜ一大事なのか?

アメリカが政府高官、特にイランの影響力のある軍人を直接標的にするということは、過去に前例がない。この暗殺は、アメリカがイランに対し、大胆かつ暴力的なアクションを取ることを厭わないことを示唆する。

この新たな攻撃的な行動は中東を揺るがし、確実にワシントンD.C.とテヘランやイラク国家との関係に劇的に影響を与えると予測される。

アメリカとイランは、両国ともイラクで存在感があり、バグダッドのイラク政府とISISとの戦いに協力している。専門家たちは、緊張の高まりがアメリカの国家安全を脅かし、これまでのアメリカの反テロ対策への成果を危機にさらしていると懸念する。

一部の専門家は、ソレイマニ司令官の暗殺は、イランへの戦争行為だと話す。

「主権国家に対する戦争行為という以外に、説明しようがない」Brookings Institutionで国際政策の副ディレクターをしているスザンヌ・マロニー氏は話した。

これから何が起こるのか?

イランの最高指導者ハメネイ師が示したように、イランのアメリカの攻撃への何らかの反応が予測されている。どう行動に出るかはまだ明らかでなく、専門家たちは現在議論している。

イランの外交政策などを統括する最高安全保障委員会は1月3日にハメネイ師と緊急会議を開き、アメリカの攻撃にどう返答するか決定を下したというが、同日に出された声明にアクションの詳細は述べられていなかった。「ソレイマニ司令官への犯罪的攻撃は、中東での最悪な戦略ミスであるとアメリカは自覚すべきであり、これによる責任を簡単には逃れられない」と委員会は声明を発表した。

イラクやその他の中東地域や同盟国などにいるアメリカの軍関係者が、イランからの反撃の標的になりやすいが、専門家たちはイランは全面的に戦争になるような行動には出ないと見ている。

しかし、ハフポストの国際シニア・ニュースリポーターのニック・ロビンス-アーリーによると、イランは反乱的な攻撃や親イラン派兵士や民間兵に頼る可能性がある。

APによると、シリアやイラクには何万人ものイラン政府の代理武装勢力がいる一方、アメリカは同地域には比較的小規模な軍事的存在しかない。

シンクタンクCentury Foundationのイラン専門家のディーナ・エスファンディアリー氏はこの戦略について、「非対称戦争(両交戦者間の軍事力、あるいは戦略または戦術が大幅に異なる戦争)」だとMic.comとのインタビューで話した。

「イランは、全面的な従来の戦争だと勝てないとわかっており、それを始め、負けるようなことはしないでしょう。なぜならそれは、ソレイマニ司令官の死へ対する報復をしないよりもはるかに悲惨だからです」とエスファンディアリー氏は話した。「逆に何をするかというと、地域の代理武装勢力にイラク、レバノンやシリアで問題を起こさせるなどして、断固として非対称戦争を使い応戦してくるでしょう」

イランの反撃が予想される中、APによると、アメリカは約3000人の陸軍兵を中東に送ると発表。それは、先日700人の兵士をクウェートに配備したのに追加する形となった。
参照元:イランのソレイマニ司令官とは何者か? 米軍による殺害が一大事である理由
ソレイマニ司令官の暗殺は、アメリカがイランに対して大胆なアクションを取ることを厭わないことを示唆する。
Carla Herreria
2020年01月06日 17時24分 JST HUFFPOST
現地SNSに溢れるハッシュタグ「イラン人はソレイマニが大嫌い」 メディアが“偏向報道”する「イランの真実の姿」
飯山陽 2020/01/09 週刊文春デジタル

米軍によるイランのイスラム革命防衛隊・コッズ部隊司令官ソレイマニ殺害についての日本メディアの報道は、極度に偏向している。日本で最も視聴されるニュース番組とされるNHK「ニュース7」の1月3日放送分の当該報道を分析し、問題点を具体的に指摘したい。

「ソレイマニは英雄」はイラン体制側の公式見解

 アナウンサーは「『英雄』ソレイマニ司令官」と大きく書かれた画面をバックに、「イランで絶大な影響力を持ち英雄と呼ばれる実力者をアメリカ軍が殺害しました。イランの精鋭部隊・革命防衛隊のソレイマニ司令官です」というリードで同事件を伝えた。

この中ではソレイマニがトランプ大統領を罵る演説の映像が使われ、「国民から英雄と呼ばれた」と説明され、イラン情勢に詳しい専門家として慶應義塾大学の田中浩一郎教授の「(ソレイマニは)ある種のヒーローとして扱われている」というコメントも紹介された。田中教授はさらに「(中東に)もともと存在していた爆弾の導火線にアメリカが火をつけた格好」とも述べている。

 左上に「『英雄』を米軍が殺害」というテロップが出たままの状態でこのニュースを視聴した多くの人は、イランの国民的英雄を殺すなんてアメリカはひどい、トランプ大統領は実に愚かだ、戦争が始まりかねない、と思ったことであろう。しかし「ソレイマニは英雄」というのは、イランの体制側の公式見解である。NHKの問題は第一に、このイランの公式見解をそのまま報道している点にある。

自由や人権は邪悪な外来の概念

イランには表現の自由がない。

 イランで体制を批判したり、体制に抗議したりすれば、たちまち拘束され、投獄されて拷問されるか、処刑される。欧州議会が人権活動家に贈るサハロフ賞の受賞者でもある人権派弁護士ナスリン・ストゥーデ氏を筆頭に、現在もイラン当局によって拘束されている活動家は数千人にのぼる。

 なぜイランに表現の自由がないかというと、現在のイラン・イスラム共和国は、1979年に「イラン革命」で親米政権を打倒することによって誕生したイスラム国家だからである。国家の正統性はイスラム教に求められ、イスラム教の政治理論に従って国家が運営されており、我々に馴染み深い西洋由来の自由や人権は邪悪な外来の概念として否定されている。

 ゆえにイスラム革命以来、自由や人権、民主主義を求める数万人のイラン人が国外に亡命した。彼らは反体制派であるがゆえにイランへの入国を禁じられており、イラン国内の家族に会うためには多くの場合、第三国で落ち合うしかない。

「イラン人はソレイマニが大嫌い」

 イラン国内でもしばしば反体制運動が発生してきた。昨年11月に発生したそれは、イラン建国以来最大級の規模に発展し、全国に拡大した。このデモ弾圧の指揮を取ったのが、NHKが「精鋭部隊」と紹介した革命防衛隊である。

 デモは平和的なものだった。しかし平和的であろうとなかろうと、イラン革命後の体制に反逆する民衆を粛清するのが革命防衛隊の重要任務だ。そもそもイランでは、体制を支持する集会のみが合法とされており、反体制デモは認められていない。

 人権団体やロイター通信は、これまでに反体制派1500人以上が殺害され、7000人以上が拘束されたと伝えている。革命防衛隊が遺体を秘密裏に処理しているとも伝えられ、実際の数はもっと多いと推測されている。

 イランの国内外の反体制派にとってソレイマニは「英雄」などではなく、独裁的なイラン革命体制の象徴だ。ソレイマニの死を受け、SNS上にはイラン人たちの喜びの声やトランプ大統領への感謝の声などがあふれた。同時に「イラン人はソレイマニが大嫌い」というハッシュタグをつけたツイートも目立った。

もちろんソレイマニを英雄と称えるイラン市民もいる。母の胎内にいるうちから「アメリカに死を!」というシュプレヒコールを聞かされ、幼い頃から徹底した反米教育を受けているのだから、当然である。

NHKの報道はダブルスタンダードである

 だがNHKのように、ソレイマニをイラン当局の言うまま「国民の英雄」と呼ぶことは、自由や人権、民主主義を求め体制に殺害された人々や、それらを求め今も戦う反体制派の人々の存在を無視しているに等しい。これは危険である。

 特に日頃から人権の重視、弱者の救済といったリベラル的価値を強く押し出すNHKが、巨大な権力によって弾圧され人権を奪われているイラン市民には一瞥もくれず、ひたすら大本営発表を日本語に訳して伝えるだけというのは、ダブルスタンダードであると言える。

近隣諸国においてソレイマニは“最恐テロリスト”

 NHKの第二の問題は、田中教授という「専門家」がイランの体制の主張を繰り返すことで「お墨付き」を与え、さらに「火をつけたのはアメリカだ」と断定することで、視聴者に「アメリカこそが悪である」と強く印象付けている点だ。

 この「アメリカこそ悪」説は、直接的には「ソレイマニは英雄」説に立脚している。

 ソレイマニはイラン国民にとってすら必ずしも「英雄」ではないことは既述の通りだ。そして近隣諸国においては、彼は英雄どころか、最恐テロリストとして知られてきた。

 NHKはソレイマニを「コッズ部隊の司令官」であり「外国での特殊任務」を担っていたと伝えたものの、その特殊任務とは何かについては言及しなかった。しかし「特殊任務」という言葉から想起されるのは、秘密めいていて、ニヒルで有能で魅力的な「007」のスパイのイメージだろう。ソレイマニをジェームズ・ボンドのような存在であるかのように匂わせる、恣意的な言葉選びに見える。

 コッズ部隊はしばしば、CIAとグリーンベレーを合体させたような組織であると言われる。工作活動をしつつ、1万人前後いるとされる兵士を戦場に投入し、前線で戦うことも厭わない。

反体制派に対しソレイマニが使った残忍かつ非人道的作戦

 ソレイマニはイラク、シリア、レバノン、イエメンでシーア派民兵に武器を与え訓練を施して懐柔し、彼らを各地の手駒として使うことでイランに利益をもたらすための工作活動を進めてきた。

 2011年から始まったシリア内戦では、アサド政権を支えるため中東各地からシーア派民兵を集めて投入し、反体制派を町ごと包囲して人々を飢えさせて降伏に追い込むという極めて残忍かつ非人道的作戦でマダーヤー、クサイル、ザバダーニーなど数々の反体制派拠点を陥落させた。毒ガスなどの化学兵器使用を指示したのも彼だとされる。これらの作戦により殺害されたり、故郷を追われたりした人は数十万人とも数百万人とも言われる。

 米国務省は、ソレイマニは600人以上のアメリカ人の殺害に関与したと発表したが、彼はそれよりはるかに多くのシリア人やイラク人、レバノン人、イエメン人などの虐殺・迫害に関与してきた。これら諸国の迫害された市民たちにとって、ソレイマニが「英雄」であるはずがない。

米作戦は、ソレイマニが着火し中東で燃え広がっていた「火を消した」

 米当局は米権益へのさらなる攻撃を抑止するためにソレイマニを殺害したと発表した。しかしそれは同時に、彼の指令、工作活動により今後迫害される可能性のあった中東の多くの人々の命を救うことにもなった。中東での暴力の抑止効果は多大である。

 ソレイマニ殺害という米作戦は、田中教授の言うように中東に「火をつけた」のではない。ソレイマニが着火し中東で燃え広がっていた「火を消した」のだ。全く正反対である。

 イランは体制に敵対的な人物にはビザを発給しないし、国内での活動も認めない。NHKはテヘランに支局をおいている。田中教授やNHKは、イランの体制に咎められるような発言や報道をすると、今後の活動に支障が出ると勘案しているのかもしれない。彼らの「イラン贔屓」な発言は、それに起因している可能性もある。そうであるならば、正直に「イランの体制の見解を伝える」と言うべきであろう。

イランがどのような国かを知らず、ましてやソレイマニなどという名は聞いたこともないという多くの日本人に、大学教授や報道機関という肩書や大義を掲げた存在が偏向した情報を「真実」として提供し、人々が「アメリカが悪い」「トランプが悪い」と思うように誘導するのは、プロパガンダにすらなりうる。個人や組織が反米思想を持つのは自由である。だがそれに立脚した報道は問題だ。

第三次大戦が起こる可能性はほとんどない

 日本のメディアは第三次大戦が起こるのではないか、と人々の不安を不当に煽るような報道もしているが、その可能性もほとんどないので安心していただきたい。イランは自国が消滅するような自殺行為に出ることはしない。実際、彼らが米軍基地に対して行った報復攻撃は、弾道ミサイルを撃ち込む映像こそ実に派手ではあったものの、人的被害を出さなかった。米側に事前通告もしており、イランが攻撃をその程度に制御したと考えるのが最も合理的だ。

 今回の事件に限らず、またNHKに限らず、日本メディアの中東報道は偏向しているように見える。日本人の多くは中東についての知識がないためそれに気付けない。騙されたり、不当に煽られて不安になったりしないためには、自ら知識をつけるしかない。
参照元:現地SNSに溢れるハッシュタグ「イラン人はソレイマニが大嫌い」 メディアが“偏向報道”する「イランの真実の姿」
飯山陽 2020/01/09 週刊文春デジタル
最恐テロリストのソレイマニを「イランの英雄」と報じるメディアの無知
2020年01月11日(土)16時30分 ニューズウィーク日本版

<米軍に殺害されたクッズ部隊司令官は、アラブ諸国で「虐殺者」と恐れられてきた>

イラン革命防衛隊「クッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官が米軍機の攻撃によりイラクの首都バグダッドで殺害されたことは、日本でも大きく報じられた。日本メディアの多くは彼を「イランの英雄」と紹介し、米トランプ政権を非難した。

だがソレイマニを英雄とたたえるのは、イランの体制派のみである。イランには国内外に自由化・民主化を求める分厚い層の反体制派がいる。彼らにとってソレイマニは、抑圧的独裁政権の暴力的側面の象徴だ。

イラン・イスラム共和国は1979年、「イスラム革命」で親米政権を打倒することにより誕生した。共和制を取りつつも基本的にはイスラム教シーア派のイデオロギーに立脚した統治を行っており、西洋的な自由・人権・民主主義を認めていない。反体制デモは弾圧され、女性は頭髪を隠すヒジャーブを取り外しただけで拘束され、同性愛者が毎年多数処刑されている。

イスラム革命の成就後、革命体制を防衛するため正規軍とは別に設立された武装組織が革命防衛隊であり、その傘下に国外での工作活動に従事するクッズ部隊が創設された。98年頃からその司令官を務めていたのがソレイマニである。

ソレイマニが最高指導者アリ・ハメネイの寵愛を受け、英雄とたたえられてきたのは、彼がイランの至上目的である中東における覇権確立、いわゆる「シーア派の弧」の形成任務を担い、それを一歩一歩着実に実現してきた参謀だったからだ。

死亡を喜ぶハッシュタグが

イランは正規軍を動員するのではなく、クッズ部隊の工作活動を通じて主にシーア派勢力に資金や武器を提供・支援することで影響を強化し、次第に他国全体を実質的支配下に収める戦略を取った。ソレイマニは20年にわたって中東各地でその活動を展開し、イラクとレバノンをほぼ手中に収めた。アラブ諸国において彼は反対者をことごとく虐殺し、国家を分裂させイランの属国化する最恐テロリストとして知られてきた。

クッズ部隊には1万人ほどの兵士がおり、破壊工作や要人暗殺だけでなく戦闘にも直接従事する。2011年に始まったシリア内戦ではアサド政権側に付き、反体制派住民を包囲して餓死させる残忍な戦術を実行した。毒ガス使用を指示したのも彼だとされる。19年10月からイラクで発生している反体制デモの参加者を殺害しているのも、クッズ部隊の指揮下にあるシーア派民兵組織だ。

ソレイマニ死亡のニュースが伝えられると、シリアとイラクの両国で彼に弾圧されてきた人々が喜びを爆発させる映像や写真がSNS上に出回った。アラビア語ではハッシュタグ「テロリスト・ソレイマニ死亡」の付いた「地獄に落ちろ」「神よ、呪いたまえ」などの罵詈雑言と、殺害を祝福する投稿があふれた。

一方、「数百万人が殉教者ソレイマニ司令官の葬儀に参列」という国営メディアの報道について、イラン人ジャーナリストで人権活動家のマシ・アリネジャドが1月7日、米ワシントン・ポスト紙に「イランのプロパガンダを信じるな」という反論を掲載。学生と公務員には葬儀への参加が義務付けられていると説明した上で、彼を戦争犯罪人だと非難するイラン人の声が西側メディアに届かないのは極めて遺憾だ、と記した。

CNNの名物アンカーであるアンダーソン・クーパーは、ソレイマニを対ナチス・ドイツ戦を率いたフランスの国民的英雄シャルル・ドゴールになぞらえたが、これは全く的外れである。自由を重んじるフランスでは、ドゴールを批判・罵倒しても拘束されたり銃撃されたりしないが、イランやその支配下に置かれた地域にこのような自由はない。

<本誌2020年1月21日号掲載>
参照元:最恐テロリストのソレイマニを「イランの英雄」と報じるメディアの無知
2020年01月11日(土)16時30分 ニューズウィーク日本版
イラン情勢を巡る日本メディアの奇妙な偏向報道(特別寄稿)
2020年01月12日 06:01 agora 飯山 陽

日本のマスコミは、イランのイスラム革命防衛隊・コッズ部隊司令官ソレイマニが米軍によって殺害された事件を奇妙に偏向したかたちで報道した。

日本メディアのイラン報道の「特徴」とは?

1月3日のNHK「ニュース7」は左上に「『英雄』を米軍が殺害」というテロップを出し続け、ソレイマニは「外国での特殊任務」を担っていたと説明、専門家として登場した慶應義塾大学の田中浩一郎教授は彼を「ある種のヒーロー」とし、「アメリカが火をつけた」と述べた。

共同通信は「イラン革命防衛隊の精鋭」という枕詞を使い続け、その葬儀には数百万人が参加したという国営イラン放送の発表をそのまま報道した。

1月6日のテレビ朝日「報道ステーション」は葬儀に参列する人で埋め尽くされたテヘラン市内の映像を冒頭に流し、アナウンサーが「これだけ多くの人が悼んでいる」と強調、VTRでは「彼は国民的英雄でとてもやさしい人」という在日イラン人のコメントや、ニューヨーク・タイムズの「トランプ大統領の選択は極端で国防総省高官はあぜんとした」というコラムを紹介した。

これらの報道の特徴は、「イラン寄り」で、国民的英雄であるソレイマニを「善」、それを殺したアメリカを「悪」と匂わせている点にある。

ここにはいくつもの問題がある。

ソレイマニを「英雄」とする報道

第一に、イランでは表現の自由が認められていないにも関わらず、イラン当局の発表をそのまま無批判に報道している。

イランでは女性は頭髪を隠すヒジャーブを取り外すだけで拘束され、イスラム教信仰を棄てた人、同性愛者も拘束され、刑務所で生涯を終える人、処刑される人も多い。昨年8月スウェーデンを訪問したイランのザリーフ外相は、なぜイランではゲイを死刑にするのかと質問され、「イランで同性愛は違法だからだ」と述べた。

ソレイマニに対する批判も許されない。1月4日には、ソーシャルメディア上でソレイマニを冒涜した4人がイスファハンで拘束されたと国営通信が伝えた。

日本のマスコミがイラン当局の公式見解通り、彼を「国民の英雄」と伝えるのは、客観性・中立性に欠けると言える。イラン国営メディアの報道やイラン当局の発表を見ると、日本のマスコミの主張、論調とあまりにも同じであることに驚かされる。

第二に、ソレイマニは多くのイラン人の命を奪った張本人であり、彼の死を喜ぶイラン人が国内外に多く存在することを勘案せず、彼の葬儀に数百万人が参加したというイラン国営放送の発表を鵜呑みにしている。

昨年11月にイラン各地で発生した反体制デモの参加者も、少なくとも1500人が当局によって殺害されたとロイター通信が伝えた。

イランの人権活動家サハル・カスエラ氏はFacebookにビデオを投稿し、「メディアというプロパガンダ・マシーンがソレイマニを褒め称えていることに大きな憤りを感じる。私たちはいつからテロリストの死を悼み始めたのか」と批判し、彼の葬儀はプロパガンダだと断罪した。日米のメディアには同じ歪みが確認される。

西側世界のマスコミの偏向報道については、中東研究者H. A. ヘリアー氏も1月9日の「フォーリン・アフェアーズ」の論説で、「ソレイマニの影響については、米国人や西洋人ではなく地域の人々が彼をどう認識しているかによって判断すべきであり、その認識は概して否定的である」と批判している。

ツイッターでは、「イラン人はソレイマニが大嫌い」というハッシュタグが世界的なトレンドとなった。なおデモに参加して当局に殺害されたイラン人には、葬儀を行うことも許されていない。

日本であまり報じられないソレイマニの実相とは?

第三に、ソレイマニが「外国での特殊任務」を負っていたと説明しつつ、彼が実際に行った行為に言及していない。

ソレイマニは中東各地でシーア派グループに武器を与え訓練を施し懐柔して「代理勢力」にし、イランの利益を実現させるための戦闘に投入して、外国を内部から「イラン化」する作戦の参謀だった。公然の秘密であったこの作戦は、1月9日に革命防衛隊空軍司令官がイラク、レバノン、イエメン、パレスチナ、アフガニスタン、パキスタンにあるイランの「代理勢力」の旗をバックに会見したことでついに公となった。

例えばシリアのアサド政権はイランにとって地域唯一の同盟国であり、極めて重要なハブでもある。ゆえに2011年の内戦勃発以来、イランはアサド政権を一貫して支援し続けてきたが、その作戦を担ったのもソレイマニだ。

彼は大量の外国人シーア派民兵と武器を投入し、反アサドの武装勢力の拠点を町ごと包囲、補給路を断つことで住民を飢えさせ、反アサド派が降伏するまで包囲を続けるという非人道的で残忍な戦術を各地で実行した。餓死したり避難を余儀なくされたりした人の数は、数十万とも数百万とも言われている。毒ガスなどの化学兵器の使用も疑われている。迫害された住民の多くはスンニ派であり、そのことがシーア派民兵をより残忍にさせ、宗派間の禍根はいっそう深まった。

隣国イラクで台頭する「イスラム国」と戦うために結集されたシーア派民兵組織「人民動員隊(PMF)」に武器と資金を与え、訓練を施して「代理勢力」化したのもソレイマニである。彼はスンニ派過激派組織である「イスラム国」と戦うだけでなく、その支配下にいたスンニ派住民も虐殺し、ここでも100万人を超える避難民をうみだした。

2019年10月からイラク各地で発生している反体制デモを、実弾を用いて暴力的に鎮圧しているのもPMFだ。国連は400人以上が殺害されたとしてデモの暴力的弾圧を非難したが、イラク当局は無責任を装った。反体制デモが抗議しているのはまさに、このように実質的にイランの支配下に置かれてしまっているイラクの体制である。これを抑え込み、イラクの実質的支配を持続させるのがイランの狙いだ。

アラブ・メディアでは「テロリスト」 イエメンのフーシー族に武器と資金を与え内戦を拡大させたのもソレイマニだ。ヒズボラを通してレバノンを実質的な支配下に収め、隣国イスラエルに直接的脅威を与えてきたのもソレイマニだ。

ハマス高官は地下に360キロメートルものトンネルを掘る作戦を発案・指導したのはソレイマニであり、それによりハマスはテルアビブにまで到達するミサイルを製造・所有できるようになったと明かした。アフガニスタン、パキスタンにも、ソレイマニが張り巡らせた「代理勢力」のネットワークが広がっている。それはさながら、ソレイマニという頭を持つタコの如き状況だ。

頭であるソレイマニを失ったことで、イランの覇権拡大計画には大きな狂いが生じるはずだ。中東不安定化の最大要因となってきた同計画の失速は、世界的な治安の安定という側面から考えても望ましい。

彼の死後、アラブ・メディアはシリアのアターリブで菓子が配られる映像を伝えた。アラブ世界で結婚式などめでたい出来事の際に見られる光景である。ツイッターにはアラビア語で「テロリスト・ソレイマニ死亡」というハッシュタグのついた投稿が激増し、「本当にめでたい新年だ!」「スンニ派全員にとってこれ以上の吉報はない!」などの喜びの声が広がった。

パレスチナの活動家イヤード・バグダーディー氏は、「彼は戦争犯罪人であり、彼の残虐行為の犠牲になってきた人々は誰一人彼のために涙など流さない」とツイートした。

アフガニスタンの女性議員ベルキス・ロシャン氏は議会で「ソレイマニは数千人のアフガニスタンの若者たちの死に責任がある」と発言し、トランプ大統領を称え、米作戦を支持しないアフガニスタン政府を非難した。

第四に、ソレイマニ殺害は悪いことであるとほのめかしている。

だが中東諸国で彼に殺害された人の家族や、故郷を破壊され避難を余儀なくされた数百万の人々にとって、彼の死は間違いなく朗報だった。彼の殺害は、米権益への攻撃の抑止以上に大きな暴力の抑止効果を中東全域にもたらした。ソレイマニの犯した悪を顧みず、彼を殺害したアメリカこそが悪であると示唆するのは偽善的である。

イランの人権活動家マシフ・アリネジャド氏は、イランの反体制デモで射殺された若いイラン人の母親の映像をニューヨーク・タイムズ、ワシントンポスト、CNNに送ったがどこも報道してはくれなかったと嘆いている。日頃人権擁護を強く訴えるリベラル・メディアが、ことイランとなるととたんに目を背け、口を閉ざすのは、日米の奇妙な共通点だ。

第五に、第三次大戦が始まるという危機感を不当に煽り、人々に不安を与えている。

イランは自国存続を第一に40年間運営されてきた国家であり、戦争の意思はないと度々表明している。1月9日、革命防衛隊は米軍への報復攻撃でも米国人を殺害しないよう意図したと発表した。

にもかかわらず、「第三次大戦」という言葉がツイッターで世界的にトレンド入りしたことに対し、その可能性はほとんどないと冷静な分析を伝えず、「英雄を殺してイランを怒らせた」「アメリカが火をつけた」と危機感と共に反米感情を煽っている。

「大衆の無知」を利用した印象操作

マスコミは当該事件について客観的事実を伝えず、特定の方向に視聴者を誘導するのに好都合な事実を選択し、かつ事実を歪曲して報道している。

日本人のほとんどは、今回の事件で初めてソレイマニという名を聞いたことであろう。イランや中東情勢についても熟知している人はごくわずかだと思われる。そうした「大衆の無知」を利用した印象操作は容易だ。

今回の件に限らず、日本のマスコミの中東報道は概ね常に、この「大衆の無知」を利用した反米プロパガンダとなっている。そして毎回それを、野党政治家や左派文化人が政権批判に利用する。うんざりするほど繰り返されてきた、毎度お馴染みの光景である。

この反米的中東報道に学問的正当性を与えてきたのが、「専門家」たちだ。

1月8日の日経新聞電子版はイランによる米軍基地への報復攻撃について、東京外国語大学・松永泰行教授の「イラン国内には今回の攻撃で多数の米兵を殺傷したとのプロパガンダを流す勢力が存在する」というコメントを掲載した。だが報復攻撃で 「少なくとも80人のアメリカ人テロリストを殺した」と報じたのは、イラン国営テレビである。

自分たちの都合に合わせてイランの公式見解を時には鵜呑みにし、時にはプロパガンダだと決め付ける。甚だ遺憾である。
参照元:イラン情勢を巡る日本メディアの奇妙な偏向報道(特別寄稿)
2020年01月12日 06:01 agora 飯山 陽

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