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安倍元首相の死について

2022 7/12


安倍元首相が昨日、奈良県での演説中に後ろから銃撃され、心肺停止で救急搬送されたが、病院に到着した時点で既に心肺停止しており、蘇生措置を行なったものの、午後5時3分に死亡が確認された。


安倍元首相が、これ程、劇的な暴力的な死を迎えるとは全く予想していなかった。



むしろ、現在、金星/ラーフ期である為、この後も残りのマハダシャー金星期を派閥の長として、息の長い政治生活を送るものと思っていた。





然し、安倍晋三元首相のチャートは、ラグナが激しく傷ついていることは分っていた。



それは潰瘍性大腸炎といった若い頃からの持病に現れていると考えることができるが、それだけに収まるには多過ぎるほどの傷を抱えていた。



ラグナには6室支配の木星が在住し、7、8室支配のマラカの土星と火星がアスペクトし、ラグナロードの月は、ラーフ/ケートゥ軸に絡み、火星からのアスペクトを受けている。



チャンドララグナから見てもラグナには、ラーフ/ケートゥ軸が絡み、6、11室支配の火星がアスペクトしている。



安倍元首相は、金星/ラーフ期に暗殺されたが、金星は7、8室支配のマラカの土星とコンジャンクションし、ラーフにもアスペクトして、マハダシャーロードの金星にもアンタルダシャーロードのラーフにもこの7、8室支配のマラカの土星が絡んでいることが分かる。



そして、土星は更にラグナにもアスペクトしている。




通常、暗殺は8室が表わす為、この土星が大きな役割を果たしたと考えることができる。



土星は月から見ても8室の支配星である。



土星はスヴァーティー(ラーフ)に在住しているが、金星と共にラーフを支配星とするナクシャトラに在住している。



そのことで、マハダシャー金星期には、この7、8室支配のマラカの土星が活性化されたのである。



そして、アンタルダシャーのラーフも7、8室支配の土星からアスペクトされて、直接、影響を受けていることもあるが、ラーフはプールヴァアシャダー(金星)に在住していることで、支配星の金星が活性化し、その金星と同じナクシャトラ・スヴァーティーに在住する土星をも活性化したと考えられる。



そのようにして、金星/ラーフ期には、7、8室支配のマラカの土星が大きな役割を果たしたのである。



因みにこの土星は、スティラダシャーでは、ルドラに該当し、ルドラとはインド神話に登場する暴風神で、全ての人を泣かせる折檻者を意味し、苦痛、もしくは苦痛の原因を取り去る人を意味するというが、既に述べたように火星は、マヘシュワラとなり、ヒンドゥー教のシヴァ神(破壊/再生を司る神)に該当する。



こうした神話的解釈も意味を為すかもしれない。




安倍元首相のチャートでは、金星と土星がスヴァーティー(ラーフ)に在住し、ラーフと関係し、ラーフはプールヴァアシャダー(金星)に在住して、更に同じくプールヴァアシャダーに在住する火星にも深く関係している。



金星、土星、ラーフ、火星といった惑星が、単なるアスペクトやコンジャンクションだけに留まらず、金星とラーフのナクシャトラ交換も交えて、緊密に連携して働いていたのである。



どんなチャートでもそうだが、惑星が在住するナクシャトラの支配星の連携を考えて行かなければ、緻密で微細な解釈をするのは不可能である。




私が気づいたのは、この安倍元首相の暗殺に貢献した7、8室支配のマラカの土星が、天秤座で高揚し、またナヴァムシャでは水瓶座でムーラトリコーナの座にあることである。



従って、防衛費2%への目標の修正を現政権に要求し、米との「核共有」議論を推し進めていた安倍元首相は、リベラル派にとっては影響力が大きいだけに厄介であった。




安倍元首相の政治活動を阻止したのは、出生図で天秤座、ナヴァムシャで水瓶座の土星であると考えると、論理的にリベラル派であるということになる。




然し、現在、リベラル派は、理性的であり、デモ活動など言論による平和的な手段によって、政治的主張を行っているので、リベラル派が実行犯にはなりようがないのである。




リベラル派は、安倍元首相の政策に反対であっても、言論という手段を通してそれを行なう。




然し、奇妙なことに海上自衛隊の元自衛官が、本来、国の安全保障を現場で実施するその自衛官が、報道によれば、政治的信条以外の安倍元総理の態度に不満を持っていて、暗殺を実行したのだという。



暗殺を決行した山上徹也容疑者は、「安倍元首相の政治信条への恨みではない」という趣旨の供述もしており、不可解である。




然し、この実行犯である山上徹也容疑者が、模倣犯であろうが、心神喪失や心神耗弱の状態にあろうが、カルマが実現される為の駒として役割を果たしたということかもしれない。




日本では銃規制が厳しく、また安倍元首相は、日本の神道右翼連合である日本会議に支えられて来ていた為、銃を容易に手に入れることが出来る右翼的な暴力団に狙われるということも考えられなかった。





従って、銃へのアクセスが可能な海上自衛隊の元自衛官に狙われるというのが、可能性のある唯一の細い線であったと考えられる。




そのようなほとんどあり得ないような細い線が実現してしまったということでもある。





私は、この安倍元首相の暗殺劇を見て、以前、ブログにも書いた米映画『アメリカン・スナイパー』のモデルにもなったクリス・カイルの最期を思い出した。



クリス・カイルは、イラク戦争の戦場で多くの敵を暗殺した「ラマーディーの悪魔」と名付けられた伝説の狙撃手である。



このクリス・カイルが除隊後の2013年2月2日にPTSDを患う元海兵隊員エディー・レイ・ルースの母親からの依頼で、同じく退役軍人のチャド・リトルフィールドと共にテキサス州の射撃場で、ルースに射撃訓練を行わせていたところ、ルースに突然、撃たれて死亡したのである。



それは全く因果関係がよく分からない不可解な死であり、何故、このPTSDを患う元海兵隊員エディー・レイ・ルースから撃たれなければならなかったのか全く理解できないが、カルマの法則とはおそらく、表面上だけでは、全く不可解で理解できないものなのである。



伝説の狙撃手クリス・カイルが、イラク戦争の敵国であったイスラムの兵士など軍事関係者から撃たれるのであれば因果応報として分かりやすいが、全くそうではないのである。



然し、カルマは、決して消えることはなく、しつこく追いかけてくるというのはこういうことであり、表面上、全く繋がりが分からない出来事によって、それが実現される場合もあるということである。




安倍元首相も日本の独裁者であり、トップダウンで、政治を推し進めた指導者であるが、独裁者はしばしば強引に自らの政策を押し通すため、暗殺の対象になることも事実である。



従って、安倍元首相が何故、暗殺されなければならなかったかは、これまで安倍元首相が行ってきた仕事の内容を総括して考えなければならない。




安倍首相は、森友学園問題、加計学園問題、所謂モリカケ問題で、激しく追及されたが、蟹座ラグナである為、政治権力を私物化する傾向はあったと思うが、それが国民にとって決定的に問題であったとは思えない。



そうではなく、アベノミクスなどの経済政策が問題であったと考えている。





アベノミクス=MMT理論の壮大な実験場



経団連の特定企業の株式をGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資金で、買い支えたり(GPIFの国内株の運用比率引き上げ)、日銀に上場投資信託(ETF)を大量に買い入れさせたりといった行為である。




日銀が市中銀行から国債を引き受けて、通貨供給量を増やし、物価を上げて、インフレに導くことを買いオペと呼び、反対に市中銀行に国債を売って、通貨供給量を少なくすることを売りオペと呼ぶが、これが日銀の金融政策である。



金利を設定したり、買いオペ、売りオペなどによって、通貨供給量を調整するのである。



参議院議員で、トレーダー、経済評論家の藤巻健史氏が、日銀が、アベノミクスの下で、異次元金融緩和を行っていることを論理的根拠が乏しい「ブードゥー(呪術)経済学だ」と批判していた。



アベノミクスの下で、日銀が、市中銀行を経由してはいるが、政府が発行した国債を無制限に引き受けて、通貨を発行し、貨幣供給量を増やしていることを批判し、そのうち、ハイパーインフレが起こると警鐘を鳴らしていた。


日銀が国債を引き受けることは財政ファイナンスとして禁止されている。




国債は、政府によって市中銀行に割り当てられて、市中銀行が買わされるが、その後、最終的にお決まりのように日銀が買うことになっていたようである。



そのため、実質的に日銀が無制限に政府が発行した国債を引き受けて、輪転機を回し続け、通貨を大量に市中に供給する財政ファイナンスが行われていたと言われている。



因みにMMT理論(現代貨幣理論)では、自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行になることはないという。



銀行は信用創造によって、誰かが借金することによって、市場にマネーを供給している。



借金がなければ市場にお金がないのである。



これまでは企業がお金を借りて、利益を出して、銀行に金利を支払うなどして、企業が借金をすることで市中にマネーを供給していたが、今は、経済の成長センターがないため、企業は銀行からお金を借り入れることが出来ず、その為、政府が財政赤字を増やして、お金を借り続けることによって、市中にマネーを供給している状況である。



だから政府の財政赤字がこれだけ膨らんだのだという話である。政府が借金しなければ市場にお金がなくなってしまう。



政府の借金は、民間の預金ということになり、それでバランスシートが釣りあっているというのが、MMT理論である。



この理論を根拠として、れいわ新撰組の山本太郎は、インフレ率2%以内なら政府はどんどん国債を発行して、それで積極的な財政政策を行なうべきだと主張していた。



然し、アベノミクスというのは、実は、MMT理論の壮大な実験であったと言われている。



日銀が無制限に国債を引き受けて、異次元の金融緩和を行い、市場にマネーを供給し続けたのである。



然し、そのようにして増加したマネタリーベースは国民の所得に反映されず、ETF(上場投資信託)や長期国債等の買い入れなどに使われている。



国債を発行して、意義深い財政政策を行なうならまだ分かるが、アベノミクスの場合、株式市場にその増加したマネーが流れ込んでいる。



だから国民の給与には反映されず、株高によって支えられた企業は、国民に給与を支給せずに巨額の内部留保を抱えている。



労働者には少ない賃金で、過剰にサービス労働させるという考え方である。



通常は、労働者に適正な給与を支払うことで、労働者が購買者として、消費することにより、内需が発生し、経済が回っていくが、そうではなく、日本に指導層の考え方は、あくまでも労働者はただ働きさせる存在である。




現在、海外ではインフレが激しいが、インフレになる代わりに労働者にもそれなりに高い給与を支払うようになっている。



アベノミクスの結果、日銀の国債保有比率は、政権発足時には11.5%だったが、2020年3月末には47.2%にまで膨れ上がり、532兆円の国債を積み上げ、株式も33兆円を積み上げたようである。



MMT理論では、自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行になることはないという理論通り、特に日本は財政破たんしてはいないが、じわじわと円安に振れ始めた。



日銀がマネーを市中に過剰に供給した為、貨幣の価値が下がり、外貨との比較において、価値を失い始めたのである。



これは完全にアベノミクスの残した遺産である。



日本の国民は勤勉で、よく働く為、これまで日本の円は高く評価されてきて、決して円安にはならなかったが、ここまで財政赤字(将来の国民の借金)を膨らませたことと、例えば米国では、GPIFのような企業が台頭して、新しい産業が生まれたのに対して、日本は全く新しい産業が生まれずにこれまでの産業を八百長的な株高で支えた為、イノベーションなども起こらず、日本はこれといった産業もなく、財政赤字ばかりを増やした状態で、衰退し始めた。



こうした状態になって、日本の円の価値は、遂に外国の通貨に対して、価値を下げ始めたということである。



MMT理論通り、財政破たんはしないが、日本は原材料などを輸入している為、円安で輸入のコストも増え、じわじわと悪質なインフレになって来ている。



悪質なインフレとは、物が売れないのに原材料の価格の上昇で、物の価格を上げざるを得ないような状況で、経済的に活況してインフレになるのと全く違っている。




結局、アベノミクスは、国民の未来の借金である国債を発行して、それを日銀に買い取らせて、マネーの供給量を増やしたが、そのマネーは株式市場に流れ込み、富裕層の人々を潤わせた。



外国人投資家も潤わせたが、一般の労働者にはそのマネーは届いていない。




アベノミクスが始まる前は、ハローワークには失業者が溢れていたが、デフレ経済で、仕事はなかったが、国民が過酷な労働を強いられるという感覚もなかった。



アベノミクスが始まると、ハローワークから失業者が消えて、一見、皆、職を得て、ハッピーになったように見えるが、実際は、低賃金で過酷な労働を強いられるケースが多くなり、国民の貧困化が進んだと言える。



富裕層と貧困層の2分化が進んだと言える。




そして、国民は借金を増やし、特に経済においてイノベーションや新しい産業分野の開拓もなく、円の価値は下がって、円安となり、インフレになりつつある。





アベノミクスの結果、MMT理論は正しいことが証明されたように思われる。




日本はこれだけ巨額の財政赤字を抱えても決して破綻しないことがそうである。




もし日本が資源が豊富で、食糧自給率も100%であったら、完全に日本という閉じた系の中で、経済を回していけるため、財政赤字で、国債を発行して、一定のインフレ率の範囲内で、いくらでもマネーを供給しても大丈夫である。



然し、日本は資源がなく、食糧自給率も低く、外国に依存しなければならない為、外国から資源を輸入する際に日本が巨額の財政赤字を抱えていて、国民一人当たりの借金が膨大で、それでいて国民一人あたりの生産性が低かったら、外国の通貨に対する円の価値が下がってくる。




アベノミクスの結果、やたらと海外からの買い物客が増え、インバウンドの観光産業などが盛んになったが、日本は安い国となり、日本の労働者は、安くこき使われるようになって、良い結果につながらなかったという印象である。




MMT理論は正しいが、国債を大量に発行して、国民の未来の借金を増やすのは健全ではないということはよく分かる。




アベノミクスの結果、今、日本では円安の苦しみが始まった。




国民の貯金などは、外国通貨に対して目減りして、日本人は、外国に出て行けず、国内に留まっているしかない囚人のような状況になって来た。




昔、アジアなどに遊びにいったら、日本人が贅沢が出来た時代とはまるで違ってしまっている。






アベノミクスというのは、結局、日本は変わりたくない、今までのままでいたいということの現れである。



異次元金融緩和などを行い、株式市場にマネーを投入して、株高を演出し、旧態依然とした経団連の主要な日本の企業群を支えたのである。



新しい産業がイノベーションをもたらしたり、巨大産業にとって代わったりすることを許したくないのである。



古い構造を維持し続けたいというのが、アベノミクスの行ったことである。



但し、アベノミクスをしなかったらどうなったかと考えると、日本の主要な企業群は経営がままならなくなり、やはり外国の革新的な企業群にとって代わられたかもしれない。



日本を統治していた人々によって日本を統治し続けたいというのがアベノミクスである。









安倍元首相は、愛国民族主義者であるが、知らず知らずのうちに無意識的に外国人投資家に貢いでしまうような所もあった。



ラグナロードが、12室双子座(株式市場)に在住している為、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資金を株式市場に投入したりして、外国人投資家に利益をもたらしたり、日銀の金融政策で、ETF(上場投資信託)を買うといったこともそうである。




外国にお金をばら撒いてしまうような所があった。





安倍晋三元首相のチャートを見ると、6室に火星とラーフが在住している。



これは官僚を動かして、自分の好きなような政治を行う権力を表わしている。



だからアベノミクスのようなことが実行できたのである。




 
然し、やはり、インディラガンディーのように自分の行ったことのつけが跳ね返ってきた結果、暗殺されたのだとしか考えられない。



安倍晋三元首相は、愛すべき人物で、批判もされたが、支持もされていて、人気もあった。



然し、エネルギーの世界で生じた反発が、元自衛官の暗殺者を通じて、具現化したのだとしか思えない。



但し、全ては、カルマであり、予め決まっていたことだったのだ。




(参考資料)

日本はMMTの実験場、財政破綻で誤り証明へ-藤巻議員
延広絵美、Isabel Reynolds
2019年4月11日 7:00 JST

日本維新の会の藤巻健史参院議員は、アベノミクスの下で異次元金融緩和を続ける日本は財政赤字を容認する「現代金融理論(MMT)」の実験場になっており、やがて財政破綻して同理論の誤りを「証明することになる」と警鐘を鳴らした。

  藤巻氏は9日のインタビューで、自国通貨建てで国債を発行する国は、財政破綻に陥ることはないとするMMTの理論は、論理的根拠が乏しい「ブードゥー(呪術)経済学だ」と批判。無制限に財政赤字を膨らませてもいいのであれば、「税金はいらない」のであり「そんなばかな話はない」と一蹴した。その上で、アベノミクスを後押ししたリフレ派の主張とMMTは「全く同じであり、今日本がやっていることそのままである」との認識も示した。

  MMTは米国の政策当局者や経済学者の間で論争となっている。アレクサンドリア・オカシオコルテス氏ら当選1回の民主党議員らが、グリーン・ニューディールなど社会政策の原資の一つとして支持しているが、米資産家ウォーレン・バフェット氏やサマーズ元財務長官といった著名な論客が反対を表明している。

  日本が見本となっているとの見方もあることから国会審議でも取り上げられ、安倍晋三首相は4日の参院決算委員会で、「政府としては無駄な支出はしっかり戒めていかなければならない。われわれがMMTの論理を実行しているということではない」と述べた。麻生太郎財務相も、極端な議論に陥ると財政規律を緩める危険性があり、「日本を実験場にするような考え方を持っているわけではない」と語った。

仮想通貨

  藤巻氏は米モルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の東京支店長のほか、著名投資家ジョージ・ソロス氏のアドバイザーを務めた経歴を持ち、かねてから日本の財政破綻を警告している。最近は仮想通貨について「避難通貨としての価値がこれから出てくる」として、日本での仮想通貨市場拡大の必要性を強調する。

藤巻氏は仮想通貨市場の活性化を「一番阻害するのは税制」であるとして、得られた利益に対して住民税を含めると最高税率が55%となる総合課税の対象から外し、株取引による利益などと同様に約20%の分離課税とすることなど、早期の税制改正を改めて求めた。

参照元:日本はMMTの実験場、財政破綻で誤り証明へ-藤巻議員
延広絵美、Isabel Reynolds
2019年4月11日 7:00 JST
「1ドル500円、そしていずれハイパーインフレがやってくる」伝説のディーラー藤巻健史氏の警鐘
経常収支悪化、マイナス金利、米の量的引き締めが出そろう「悪夢」が近づく
原真人 朝日新聞 編集委員
2022年05月19日 論座 RONZA

「思い切った金融緩和で物価を上げれば、日本経済はデフレから脱却して高成長を実現できる」――。

 安倍晋三首相がそう言ってリフレ政策を掲げたとき、その意を受け、「黒田バズーカ」と呼ばれる異次元の金融緩和策をぶち上げたのが黒田東彦・日本銀行総裁だった。あれから9年、資源高が原因とはいえ、政府・日銀が目標としてきた2%インフレがようやく実現しようとしている。それなのに、世論は急速に進む円安と輸入インフレをまったく歓迎していない。政府はむしろ世論の反発におびえ、物価高対策に巨額の予算を投じる。しかし、ひとり日銀はそんな動きに目もくれず、異次元緩和を続ける姿勢を崩さない。

 数年前まで、経済界やマーケットから称賛され、少なからぬ国民からも支持されたアベノミクス。あれは日本経済を活気づける特効薬だったか、あるいは一時の覚醒を得るためだけのモルヒネだったか。9年たって見えてきた実像について、関係者や経済専門家たちに改めて問うてみたい。アベノミクスとは何だったのか、と。

 まずは、経済評論家の藤巻健史さんに聞いた。かつて米モルガン銀行東京支店長の時代に「伝説のディーラー」と呼ばれ、参院議員を務めていた際には、安倍政権や黒田日銀に異次元緩和の危うさを問い続けた人である。

1ドル=400~500円の円安もありうる

――1ドル=130円超と20年ぶりの円安水準となりました。外国為替市場で急激な円安ドル高となっていますが、なぜこのような動きが出ているのですか。

 「ロシアによるウクライナ侵攻とか、新型コロナの感染拡大とかが市場を攪乱していると誤解している人も多いが、基本的には、いまの金融市場の混乱は長らく世界中で異常な金融緩和が続けられ、市場でお金がジャブジャブになっていることがもたらしたものです」

――どういうことですか。

 「米国の中央銀行FRB(連邦準備制度理事会)はいま超金融緩和をやめて出口政策に向かっており、金融引き締めを急ごうとしています。しかし本当はもっとずっと早く着手しなければいけなかったのです。FRBは、1980年代後半の日本のバブル経済をもっと研究しておくべきでした。それができていなかったので、今回、金融引き締めがずいぶん遅れてしまったのです」

――日本のバブルの研究しておけば、FRBの対応は違ったものになったというのですか。

 「日本では85~89年に土地や株などの資産価格が急騰しました。その資産効果がものすごい狂乱経済をもたらしました。当時の日銀の澄田智総裁は後に『消費者物価ばかり見ていて、不動産価格などを見ていなかった』と反省しています。それこそ今の米国が教訓とすべきことです。米株価はいまも史上最高値圏にあります。いわば投資家全員がもうかっている状態です。そんなときの資産効果はものすごいものがあります。たとえば、バブル期の日本では、飛ぶように売れた高級車の名にあやかって『シーマ現象』と呼ばれる経済状態になりました。経済はものすごく回転していたのに、なぜか消費者物価は安定していたので金融引き締めが遅れたのです」

――バブル経済時の日本の消費者物価はどうして安定していたのでしょうか。

 「毎年30~40円幅の円高ドル安が起きていたからです。それが輸入物価のデフレ要因となり、インフレ圧力と相殺しあったのです。しかし、いまの米国ではそれと比べるとドル相場がずっと安定しているので、当時の日本以上にインフレ圧力が強いはずです。しかも世界的な金融緩和、つまり中央銀行によるおカネの刷りすぎで資産効果がものすごいことになっている。株が市場最高値で、地価も上がっている。そこにコロナ・ショックとウクライナ・ショックによる供給制約が発生したことが相まって、世界経済に強いインフレ圧力が加わっているのです」

――そのなかで急激な円安が進んでいるのはどうしてですか。

 「いまの円安は3つの要因から起きています。第一に、経常収支の動き。貿易赤字が膨らみ、経常黒字額が大幅に減ってきています。第二に、日米金利差。米国で急激な利上げが始まり、マイナス金利にとどまったままの日本との間で金利差が広がっています。どちらも円安ドル高要因ですが、この二つがこれほどそろって起きたことはなく、初めてのことです。こんなにわかりやすいマーケット状況はありません。米国では史上最大の金融緩和と、40年ぶりのインフレが同時に進んでいます。そんなものが本来両立するわけがありません。インフレが最大の問題になりつつあることもあり、金融引き締めはかなり進むでしょう。一方、日銀は異次元緩和を続ける姿勢を崩さない。必然的に円安が進むしかないと投資家は自信をもって円売りドル買いをするでしょう。基本的に今の円安はこの2大要因で進んでいます」

 「そして、もう一つ大きいのは米国の金融政策で6月から量的引き締めが始まることです。テーパリング(量的緩和の縮小)を昨年11月から始めているので、たいして違ったことが起きないと勘違いしている人が多いが、まったくレベルが違います。テーパリングというのは、ゆるやかだけどまだ山を登っている状態です。しかし量的引き締めというのは、山を下ることです。ぜんぜん景色が違う。この3つで円安が進んでいるので、僕はものすごい円安になってしまうのではないかと思っています」

――この円安はどこまでいくと思いますか。

 「僕はかなり行くと思っています。1ドルが400円、500円になってもおかしくない。1000円になったら日銀はもうつぶれてしまっているでしょうね。日銀が債務超過になったら紙幣は紙切れ、石ころと同じです。そうなれば1ドル=1兆円でもおかしくない。天文学的数字になると思う。インフレというのはモノとおカネの需給関係で起きるものですが、ハイパーインフレというのはそれと異なり、中央銀行の信用失墜で起きるものです。インフレとハイパーインフレは経済的な意味がまったく違う。そして中央銀行の信用失墜の最たるものが債務超過です」

日銀が債務超過になるのが一番怖い

――どうも日銀は「債務超過になってもそんなひどい事態にはならない」と考えているようです。藤巻さんは議員時代、日銀の債務超過の可能性について黒田総裁を追及していましたね。

 「黒田総裁は『一時的にはそうなるかもしれないが……』と最後は嫌々答えていました」

――先日、ご長男の藤巻健太・衆院議員(維新)がこの問題を引き継いで、国会で黒田総裁に質問していましたね。

 「黒田総裁はまた『一時的にはなるかもしれない』と答えていました。そして『日銀は通貨発行益があるから大丈夫』と言っていましたが、冗談じゃない。日銀にはこれから通貨発行益どころか、経常的な通貨発行損が出るはずです」

 「中央銀行が債務超過になっても大丈夫なのは三つのケースだけです。1番目は債務超過が一時的である場合。2番目は金融システム救済のためであり、中央銀行自身のオペレーションがまともなこと。3番目は税金で中銀に資本投入ができる場合です。日銀は残念ながら一つも当てはまりません。ちなみに政府の資本投入を前提に政策的に日銀財務を赤字にしてしまうのは、いわば予算行為です。それを前提に赤字になってもいいという政策はおかしい。予算行為というのは国会の承認でおこなうわけで、それを黒田総裁ら日銀の政策決定会合メンバー9人だけで決めるのはおかしい」

――債務超過になった中央銀行も過去にはありますが。

「スイス国立銀行(SNB)が債務超過になっても大丈夫だった例としてあげられます。ただ、SNBの場合は、2009年以降に発生した欧州債務危機のとき、通貨スイスフランがユーロに対し強くなりすぎて、ユーロ圏からの逃避マネーが流入しやすくなっていたのに対する防衛という意味がありました。このためSNBはスイスフランを売って、ユーロ債を買っていたのです。しかしスイスフラン買いの圧力に抗しきれず、2015年に無制限介入による相場の上限防衛を放棄。スイスフランは急騰しました。抱え込んでいた大量のユーロ建て資産に巨額の為替差損が出ることになり、SNBは債務超過状態に陥りました」

 「ただこのケースはスイスフランの信認が強すぎるという問題なので、スイスフランを発行するSNBが債務超過を解消することは難しくはありません。債務超過が一時的だとマーケットも認識していました。しかし日銀の場合は、円の信認が弱いなかでの債務超過となります。解消はできず、どんどん悪くなっていくしかありません」

――日銀が債務超過になったら、何が起きますか。

 「海外の金融機関が日銀の当座預金を閉じて、日本市場から引き揚げるでしょう。そのことの重大さがあまり理解されていないようですが、日銀の当座預金口座がなければ、日本市場では銀行の仕事ができません。すべての銀行間取引に必要な口座です。約束手形だって資金の動きは日銀当座預金を通じてのやりとりです。全部の金融取引が日銀当座預金を経由するわけです。とくに重要なのは為替取引です。邦銀Aが米銀Bからドルを買うときには、Bは米連銀にあるみずからの当座預金から邦銀Aの口座へドルを移す代わりに、日銀にあるAの口座からBの口座に円を移してもらいます」

 「昔、私は務めていた三井信託銀行を辞め、米モルガン銀行に移りました。そこで一番驚いたのは、『政府も中央銀行ももしかするとつぶれるかもしれない』という前提で取引枠が設けられていたことです。邦銀では取引相手がG7(先進主要7カ国)の国だったら、国債取引でも中央銀行取引でも、取引金額に制限がなく青天井でした。しかしJPモルガンでは、この国とはここまでしか取引しちゃいけない、という制限がありました。だから日銀が債務超過になったら、外国銀行は日銀との取引枠を減らしてくると思います。邦銀はそんなことはやらないでしょうが、日銀が債務超過になったら外銀は日銀の当座預金口座を閉鎖するはずです。株主の監視の目が厳しい米系金融機関は特に厳格にやるでしょう」

 「そうなったら日本企業はドルを買う手段がなくなります。日本で外国為替取引ができなくなってしまうことだって十分ありえるので、日本経済は干上がってしまいます。外資企業はみな撤退してしまうでしょう。国債や株式は投げ売り状態になります」

新しい日銀を作って出直すしかない

――そんなことになったら、日本経済は立ち直れなくなってしまうのでは?

 「もちろん日本経済にも日本の市場にもまだまだ魅力があります。そのときは日銀をつぶして、健全財政の新しい中央銀行を作れば、外銀もまた戻ってくるでしょう。私はよく日銀がつぶれてしまうという表現をしますが、たしかに日銀は自分で紙幣を刷れますから資金繰り倒産はしません。しかし信用を失った場合、通貨の信用も失墜しますので、その国の通貨の信用を回復するためには、日銀を廃し、新しい中央銀行を作らざるを得ないのです」

――藤巻さんは国会でそのような問題意識を黒田総裁にもぶつけてきました。黒田総裁に危機感はあるのでしょうか。

 「あります。彼は頭がいいからわかっていると思います。ビクビクしていると思う。それでも今のような政策を続けているのは確信犯だということです。自分の任期である2023年春までは逃げ切れるだろうと思ったのでしょう。しかし逃げ切れそうになくなりました。最近、健太が国会で『金利を1%上げたとき、日銀に500兆円の負債があれば、5兆円の金利支払いが生じる。日銀には1兆円しか収入がないのだから、すぐ赤字になるのでは」と質問したら、黒田総裁は『日銀には負債もあるが、資産もあるから大丈夫』と答えていました。まったく噓八百です。資産のほうは固定金利だから満期が来て新しい金利に置き換わった分しか収入は増えません』

――日銀がやっているのは政府財政を日銀が支える財政ファイナンスですね。ただ、これは米欧の中央銀行もやってきたのではないですか。

 「米国もやっているから大丈夫というのは、ぜんぜん違う。規模がもっと小さいので参考にはなりません。欧米の中銀は日銀がここまでやっても大丈夫だから、少し小規模にやってやろうと、かなり後ろからついてきただけです。日銀はいわば炭鉱のカナリアです。日銀はすでに国債の発行残高の半分近くを買っています。また1年間の新発債と借換債の発行額合計140兆円のうち、日銀は一時8割近い110兆円を買っていました。米国の中央銀行FRB(連邦準備制度理事会)はリーマン・ショック直後に国債買い入れをすごく増やした時期もありますが、その後はせいぜい発行額の1割くらいのものです。財政への影響は日本に比べ、はるかに健全です。FRBはいま、当座預金金利(支払い利息)をどんどん上げていますが、保有資産のほうの受取利息が日銀と比べて段違いに多く、逆ざやにはなりません」

――日銀は「我々がやっているのは財政ファイナンスではない」と言い続けていますが。

 「財政ファイナンスの定義で言えば、日本銀行金融研究所が発行した『日本銀行の機能と業務』という本で、金融政策の独立性について書いた章にちゃんと書いてあります。『中央銀行による政府への信用供与は、多くの国で法律により厳しく制限されている』と。国債の発行残高の半分を買っているというのは、まさにその『中央銀行による信用供与』もいいところではないですか。日銀がやってはいけないことなんです」

――そこを修正できなければ、円安はまだまだ止まらないということですね。

 「FRBは、これまで世界中でばらまいていたドルを引き揚げ始めています。これからドルの争奪戦が始まるでしょう。地方銀行の経営が危なくなってきます。日銀のせいです。購入資産の評価損が生じてしまう運用サイドの金利上昇(=価格低下)は痛手です」

問題の根源はイールドカーブ・コントロール

 「マイナス金利政策で銀行経営が悪化したとよく言われますが、違うと思います。実際にはマイナス金利が適用されているのは日銀当座預金のうち、ほんの一部です。日銀の異次元緩和で一番いけないのは、長期国債の爆買い、つまり量的質的金融緩和です。日銀が長期国債を買い始めると、長期金利が下がります。長短金利差、つまりイールドカーブがなくなり、利ざやで稼ぐ銀行の収益源がなくなってしまうわけです。これでは地銀はもうかりません。だから能力もないのに海外事業に次々と進出してしまったのです

 「邦銀は円をドルに替えて運用しているのではなく、ドルで調達し、ドルで運用しています。レポ取引(債券を貸し出して現金を調達する取引)でドルを短期調達している地銀は、調達金利の上昇も、評価損を計上せざるを得なくなる運用サイドの長期金利上昇(=価格低下)も痛手です」

 「こういう事態を招いたのは日銀のせいです。地銀を海外に押し出す環境を作り、その地銀が米国の長短期金利上昇でおかしくなってきたのですから」

――日銀は現在おこなっている「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」をやめるつもりはないようです。

 「日銀のイールドカーブ・コントロールは一重に政府の財源調達を助けるための政策です。『日銀が長期金利を引き下げて、喜ぶ人は誰か?』と国会で聞いたことがあります。住宅ローンはほとんどが変動金利なので、借り手のメリットはそれほどありません。社債が長期金利ですが、国民にかかわるほとんどの金利は長期金利とは連動していません。では、長期金利を下げて一番助かるのは誰かと言えば、政府です。この政策は財政破綻を延命させる策、借金体質を延命するための財政ファイナンスなのです」

 「黒田日銀がスタートした2013年に少しやったとしても、すぐに終了させておけば良かったものを、日本のお得意の危機先送りをしてしまいました。かつて破綻した大手銀行や大手証券会社がやっていた飛ばしのようなものです。そのうみが、かなりたまってしまったということでしょう」

――黒田総裁も急激に円安水準になって批判を浴びると、「極端に為替レートが動くのは困る」と説明するようになりました。

 「『悪い円安』」という言い方はおかしいと思います。為替というのは経済環境に合わせて、ものすごく動くべきものです。自国通貨が高いのと安いのと、どちらが悪いのかは経済のステージによって違います。僕が以前ずっと『円安がいい』と言っていたのは、自国通貨安というのは景気が悪いときに景気を良くする武器だからです。だからこそ『通貨戦争』とか、通貨安による『近隣窮乏化政策』という言葉が言われるわけです」

 「ところが通貨高がいいというケースもあります。それはインフレを防止したいときです。インフレ防止の最大の武器が通貨高。だから今のようにインフレに苦しむ米国にとっては、ドル高が望ましく、日本が(円買いの)為替介入をしたいと思っても許さないでしょう」

――日本にとってはいま、円高と円安、どちらが望ましいのですか。

 「このあと日本でもインフレが加速していくのなら円安を止めないと、(略)
参照元:「1ドル500円、そしていずれハイパーインフレがやってくる」伝説のディーラー藤巻健史氏の警鐘
経常収支悪化、マイナス金利、米の量的引き締めが出そろう「悪夢」が近づく
原真人 朝日新聞 編集委員
2022年05月19日 論座 RONZA
財政ファイナンスをやってはいけない
池尾和人慶應義塾大学教授に聞く
大崎 明子 : 東洋経済 解説部コラムニスト
東洋経済ONLINE 2012/12/05 6:01

金融政策が総選挙の大きな争点の1つになっている。以前から政治家が、日本銀行に金融緩和を求める声は強まっていたが、自民党は「大胆な金融緩和策で名目3%以上の経済成長を達成する」としており、安倍総裁は「日銀法改正も視野に」「建設国債を日銀に買わせる」と発言、為替が円安方向に動くなど市場が反応した。一方で、「日本銀行は輪転機を持っている」などと、財政ファイナンスと受け取れる発言をしたことに対して、経済界からも批判や懸念の声が聞かれた。金融政策の効果と副作用、財政ファイナンスの問題点などについて慶應義塾大学の池尾和人教授に聞いた。

――金融政策が総選挙の争点に浮上しています。デフレを脱却するためには、ゼロ金利政策に加えて、一層の量的緩和が必要であるという主張、さらには日銀に対して財政ファイナンスを求める声まで出ています。

「日本銀行が国債を買う」というところだけを見て、量的緩和政策も財政ファイナンスも同じようなものだと思ってはいけない。両者は本質的に違う話だ。「おカネを貸す」のと「おカネをあげる」のは全く違うことだが、お金を渡すところだけ見ていたのでは区別がつかないのと同様だといえる。

政府の財政に対するスタンスが変化しない中で、日本銀行が国債を買って貨幣を供給すると、民間では保有する国債の量が減って、保有する貨幣の量が増える。しかし、貨幣と国債をあわせた民間が保有する金融資産の量には何の変化もない。つまり、金融政策は等価交換で、民間保有資産の構成が変わるだけだ。そして、いまや国債の金利がゼロに近いところまで低下して、国債は貨幣とほとんど代わり映えしない金融商品になっているので、もはや金融政策に大きな効果はない。要するに、量的緩和の効果といっても、より期間の長い金利がもう少し下がる程度だ。

一方で、安倍総裁が当初主張していたのは、日銀の国債購入を前提として財政のスタンスを変えるという話であり、これを金融緩和と呼ぶこと自体がミスリーディングだ。国債を増発して公共投資を増やしますというのは、金融政策ではなく、財政政策だ。

国債を増発する場合に、これまでのように市中消化が出来ないかもしれないから、日銀に買わせますというだけの話だ。日本銀行が関わりを持たせられたら、その政策はすべて金融政策であるかのように言うのは間違っている。増発される国債の消化を日銀に手伝わせるということは、典型的な赤字財政のマネタイゼーションであり、財政規律の喪失を意味するという危険を伴うといわざるを得ない。

コストとリスクの大きい財政ファイナンス

――財政ファイナンスを行うと、どんなことが起きるのでしょうか。

インフレにすることだけが目的でほかの事はどうでもよいのであれば、マネタイゼーションによってインフレにすることはできる。1万円札を街角に積み上げて「ご自由におとりください」と書いておけばインフレになるのと同じことだ。国債を買って代金として貨幣を供給するという等価交換を行うのが金融政策であり、貨幣をあげますというのは、よく言って財政政策。既述のように、「おカネを貸す」ことと「おカネをあげる」こととは本質的に違う話なのだが、区別の付かない人が政治家には多いのだろうか。

財政ファイナンスはギャンブルの色彩が強い話といえる。総合的に考えて、コストが大きく、リスクを伴うので賢明とは思えない。すなわち、既に悪い財政状態がさらに悪くなるというコストがかかる。そして、そのことで国債市場の安定が失われ、長期金利が高騰するリスクがある。そうなれば、銀行の財務状態が悪化して金融システムの健全性が失われ、財政が行き詰まるというリスクもある。経済政策を運営するに当たって、ある種の慎重さ、健全さということは必要だろう。

もちろん、もしかしたら国債市場が持ちこたえるかもしれない、混乱は何も起こらず成功するかもしれないという可能性は皆無ではない。しかし、必ず勝てるといった保証が全くないことは、よくよく認識しておかねばならない。安倍総裁は「大胆な」金融緩和と言っているが、リスクがなければ、日本語で「大胆」とは言わない。リスクがあるのに恐れずに向かっていくのが、日本語の「大胆」という言葉の意味である。

――これまでは民主党政権下で財政再建の旗は降ろしていませんが、「デフレ脱却」の掛け声の下に、金融緩和の方向に進んできました。しかし、効果は上がっていないようです。

「デフレ」の定義を改めてたずねれば、たいていの論者は「持続的な物価下落の状態」という公式の意味を答えるだろう。しかし、日常の会話の中で、多くの人々はそういう意味で「デフレ」と言う言葉を使っているのではないだろう。なんとなく、経済の調子が悪い、景気が悪いことを指して言っている。「デフレで経済の調子が悪い」といった具合である。

しかし、これは「熱が出て体の調子が悪い」と言うのと同じで、実は、原因と症状を取り違えた表現だ。実際は、体のどこかがおかしくなっているから熱が出ている。デフレも同じで、グローバル化や高齢化の時代に合う産業構造への転換ができていないから、デフレになっている。

デフレさえ解消すればよいと言うのは、熱さえ下がればよいと言うのと同じ。対症療法もある程度は必要だが、対症療法である金融政策ばかりに頼るのではなく、根本治療にシッカリと取り組むべきだ。そうした地道な努力は辛く、面倒なので、それをなおざりにして、金融緩和というという薬をがぶ飲みしている。しかし、適正量を超えて大量に薬を飲んでも、病気が早く治るわけではなく、むしろ副作用が心配される。

金融仲介機能の低下という副作用がより大きい

――その金融緩和の副作用についてはどう見ていらっしゃいますか。

副作用は既に出ている。金融緩和が続いてきたことによって、銀行の利ザヤが薄くなり、いまのような利ザヤでは人件費や物件費をまかなうことすら難しく、クレジットコスト(貸し倒れのコスト)までカバーすることは不可能となっている。そのため、手間隙をかけてリスクをとって小企業に貸し出しを行うよりも、国債を買うことが合理的になってしまっている。

また、借りる方の事業者は金利が下がって喜んでいるかと言えば、そうとばかりはいえない。リスクマネーの不足に拍車がかかっているからだ。金利は金融仲介業における価格であり、価格が下がりすぎて、供給者が苦しくなれば、まともな商品が供給されなくなる。すると、需要する側も困ることになる。

伝統的なマクロ経済学で想定しているのは、金利がひとつしかない世界、それは金融仲介の必要性がない世界だ。金融仲介が存在する現実の世界では、金利が最低でも2種類は存在すると考えなくてはならない。最終的な資金の出し手に支払われる金利水準と借り手が支払う金利水準とがあり、その差が利ザヤだ。

量的緩和により借り手にとっての金利が下がるメリットと、利ザヤが圧縮されることによる金融仲介機能の弱体化というデメリットの両方を考え合わせれば、いまや前者のプラスの効果は微々たるもので、後者のマイナス効果のほうが大きくなっているのではないか。

地道な努力によって日本の財政は再建可能

――企業の余剰資金が財政赤字の補填に回ることによって、日本の潜在成長率が下がっているのではありませんか。

財政赤字を出し続けて、国債の累増が発生する結果、そのこと自体が成長率を下げる効果があるという実証結果が、最近は多く報告されている。ケネス・ロゴフ教授の研究が代表的なものなので、「ロゴフ仮説」と呼ばれているが、「公的債務残高がGDP対比で90%を超えると、顕著に成長率の低下が見られる」と言うものだ。ただし、実証研究であって、メカニズムが理論的に解明されているわけではないので、因果関係が逆である可能性もある。つまり、経済成長率が低下している国だから、財政赤字が積み上がってしまうという可能性もある。

しかし、もしロゴフ仮説が正しいとすると、財政赤字の累積に伴って先行きの期待成長率が下がるので、企業セクターは活発に投資をしなくなり、その余剰資金が財政赤字を支えるという循環が成り立つことになる。そのために、一種の低位均衡に陥ってしまう。現在の日本は、まさにこうした低位均衡の罠にはまってしまっているのかもしれない。

日本ばかりではなく、欧米も高齢化が進展して社会保障費が膨らんでいる。その結果、高水準の公的債務を抱えるようになっており、かつ、金融危機が起きたので、国債に資金がもっぱら回るようになっている。欧米も景気刺激策という名目で金融緩和を行っているが、実は、金融政策で景気刺激ができるという話は尽きてしまっており、国債消化促進策になってしまっているのが実態ではないか。もっとも社会保障負担は増大する一方で、増税も財政緊縮も限度があるなかで、中央銀行だけがそうした状況から独立していられるわけではないというのも、現実である。

ギャンブルよりも地道な努力を

日本の場合も持続可能な財政の姿を考えれば、国民の負担はいまよりも重くなり、支出はスリム化するしかない。しかし、冷静に考えれば、財政の破綻が避けられないと言うほど悲劇的な状況ではない。

消費税換算で30%ぐらいまで、すなわちあと25%の増税をすれば、プライマリーバランスの黒字を実現して、財政の持続可能性は回復できる。国民所得に占める消費の割合は60%なので、目の子算でいうと国民所得の15%分ほど生活水準を下げれば、なんとかなるということである。

他方で、15%生産性が上がれば、差し引きゼロで生活水準を引き下げる必要はなくなる。一年で15%の生産性を上げることは難しいが、いまでも10年くらいかければ、15%の上昇は可能だ。

したがって、当面はやや生活水準を下げざるを得ないとしても、その水準で足踏みしながら持続的に生産性を上げる努力をしていけば、解決は不可能ではない。いまの安定した国債市場はそういう実態を織り込んでいるのかもしれない。そうであれば、ギャンブル的な危ない政策を採るのではなく、地道な努力に、解決の道を探るべきだ。

(撮影:尾形文繁)
参照元:財政ファイナンスをやってはいけない
池尾和人慶應義塾大学教授に聞く
大崎 明子 : 東洋経済 解説部コラムニスト
東洋経済ONLINE 2012/12/05 6:01

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