ビットコイン革命 Part5 <お金の発明者、リバータリアン社会主義>

ここ数回に渡って、仮想通貨(暗号通貨)について書いてきたが、ビットコインは、2008年10月に中本哲史(Satoshi Nakamoto)と名乗る人物による論文の投稿から始まった。

2009年1月にビットコインの運用が始まると、当初はナカモトサトシや、ソフトウェアの開発者の数人で、マイニングを行なっていたと考えられるが、この当初のスタート時点において、この新しいお金の発明者たちは、かなりのビットコインを蓄積したはずである。

これらの人々はお金を発明した創業者であるから、莫大な利益を得て当然なのである。


通貨を発行する人は、通貨発行益(シニョリッジ)を保有する。


これは莫大な利益となるが、現在の国際銀行家などがその利益を握っている。


例えば、米国の中央銀行・連邦準備銀行であれば、株主である以下の面々がそれである。


ロスチャイルド銀行・ロンドン
ロスチャイルド銀行・ベルリン
ラザール・フレール・パリ
イスラエル・モーゼス・シフ銀行・イタリア
ウォーバーグ銀行・アムステルダム
ウォーバーグ銀行・ハンブルク
リーマン・ブラザーズ・ニューヨーク
クーン・ローブ銀行・ニューヨーク
ゴールドマン・サックス・ニューヨーク
チェース・マンハッタン銀行・ニューヨーク


ビットコインは、この通貨発行益を国際銀行家の独占から解放する発明である。


それはどこにも中央に管理者がいない状態で、多くの人が参加して、インターネット上でお金の決済の仕組みを運営していく仕組みである。


インターネット自体もこうした仕組みによって大勢の参加者によって運営されており、どこかの一国の政府が停止したりすることは出来ない。


例え政府の権力者がビットコインの使用を禁じたとしても世界中の市民が共同で、このお金の仕組みを運営してしまうのである。



この銀行システムが強固である限り、私たちがこの中央銀行の株主の面々から、真に解放されることは難しかった。


従って、お金という仕組みが支配者たちに支配されていることが、最大の問題点だったのである。


そこで、多くの人が、中央銀行が発行しない市民が独自に発行する地域通貨の可能性などを考えてきた。


地域通貨を使っていくことで、中央銀行が発行するお金によって振り回されない経済圏を創ろうとしたのである。




以前、思想家の柄谷行人は、世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて (岩波新書) の中で、どのようにすれば世界共和国が実現するかを考察する中で、人々の交換の形に注目した。


そして、交換を媒介するものは、やはりお金である為、地域通貨の可能性などについても考察してきたようである。



この本の中で、ノームチョムスキーが示した国家が取り得る4つの形態を紹介している。



nations_list

1. 福祉国家資本主義(社会民主主義)
2. 国家社会主義(共産主義)
3. リベラリズム(新自由主義)
4. リバタリアン社会主義(アソシエーショニズム)




1つ目の福祉国家資本主義(社会民主主義)は、政府が公務員を沢山抱えて(大きい政府)、企業や個人から税金を徴収し、その税金を再分配して、社会的不平等を是正していくという考え方である。

これが現在のリベラル左翼が目指す方向性である。


但し、この方法だと税金を徴収する政府が肥大し、そして、税金の再分配による社会的不平等の是正は完全ではない。


この方法はリベラル左翼によって、ずっと取られてきた路線である。


但し、こうした社会民主主義は、例えば、日本においては社会党が一時期、躍進した時期もあったが今では全くその勢力は衰えてしまった。


結局、福祉国家社会主義とは、修正資本主義であり、国家権力による統制経済である。


その方法では、真の平等も自由も実現できない。


社会民主主義が、このように衰退したにも関わらず、リベラル左翼は、ずっとこの路線で、戦っているのである。


ウォール街を囲め運動などもこの一部である。




2の国家社会主義(共産主義)は、計画経済などによって平等は実現したが、経済的に物が不足したり、個人の生産に対するモチベーションを喚起することが出来ないため、気概のない社会となる欠点があった。

また国民に平等を強いるため、それを実行する中央集権的な官僚機構が生じて、特権階級の腐敗なども生じたのである。


そして、体制を維持するために秘密警察なども用いられた。


つまり、統制によって平等は実現したが、自由は失われた社会である。


またソ連の崩壊に見るように歴史的には失敗したと見なされている。




3は現在のリベラリズム(新自由主義)であり、これは具体的には1989年のワシントン・コンセンサスで定式化され、IMF、世界銀行、米国財務省が「小さな政府」「規制緩和」「市場原理」「民営化」を世界中に広く輸出する米国主導の経済戦略として推進され、その結果として世界に極端な格差がもたらされることになっている。

このリベラリズムは現在世界に極端な不平等を生み出しており、リベラル左翼の努力は、主にこれを推進する貪欲な企業活動の規制や反対運動などに向けられる。

またこれらの企業活動を規制し、税金を課して、それを再分配するという観点から、リベラル左翼の観点では、政府の権能を拡大する必要があり、その為、大きな政府となり、また国家統制が必要となる。



つまり、現在のリベラリズム(新自由主義)は、格差社会をもたらしたという点で、非常に問題があるが、それを解決するためのリベラル左翼の枠組みは、既に下火となって来た社会民主主義的アプローチであり、国家統制を必要とし、また不平等を再分配によって修正するという考え方である。

不平等を再分配によって解消しようとする場合、再分配の受け手は、努力することなく再分配を受け、そのことが不平等となる。



上記のように1,2,3は、これまで地球上に出現してきた社会である。



これらの社会のいずれも長所もあり、また欠点も持っている。




そして、ノームチョムスキーの考えでは、平等と自由の両方が実現された社会が理想的な社会であり、それはリバータリアン社会主義(アソシエーショニズム)なのである。


このリバータリアン社会主義は、いまだかつて地球上で実現したことのない社会である。



小さい政府で、政府は国防やインフラ管理など基本的なことしか行わず、人々が規制のない中で自由に生活し、しかも平等が実現されていて、資本主義の歪みとしての格差などがない社会である。



これをどのように実現するかということが課題であり、ノームチョムスキーを引用した柄谷行人は、この4のリバータリアン社会主義(アイソレーショニズム)を実現するためには、人々が友愛によって連帯する必要があり、それには宗教が大きな役割を果たすのではないかと述べている。


(※因みに私自身は、これはキリスト教、仏教、イスラム教、ヒンドゥー教、ユダヤ教など世界中のあらゆる宗教の背後にある不滅の真理を探究しようとした不朽の知恵の教え、神智学等が、その答になると考えている。但し、これは学問としての神智学ではなく、霊ヒエラルキーの出現を通して生み出される生きた真理としてである。)



資本主義には自由はあるが、平等がない、共産主義には平等はあるが、自由がないということで、東西が対立する冷戦時代には、このどちらかの選択肢しかなかったのである。


そして、資本主義を修正するアプローチである福祉国家社会主義(社会民主主義)では、平等も実現できないし、統制が進んで自由も失ってしまうのである。



そして、柄谷行人は、現状の通貨の発行権が市場原理主義を信奉する人々(国際銀行家)の手に握られている現状では、4のリバータリアン社会主義を実現することが出来ないと考えており、その為、地域通貨の可能性に注目していたようである。


つまり、中央銀行が発行する通貨は、世界規模の商業活動(グローバリゼーション)を行なうプレーヤーたちの手元に集中してしまい、一般の人々の手元には通貨が不足してしまう。


従って、中央銀行が発行する通貨は、資本を集中的に保持する人の元に集まり、地域社会の人々同士の財やサービスの交換を促進せず、地域社会の人々のつながりを分断し、コミュニケーションを阻害してしまう。



その為、中央銀行が発行する通貨とは全く独立して流通する地域通貨が普及すれば、地域社会の人々同士の財やサービスの交換を促進し、それが人々の友愛的な連帯へとつながると考えたのである。



もちろん、そうした人々の友愛的な連帯を基礎づける世界宗教なども必要だと考えたのである。



『世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて』が出版されたのが、 2006年4月20日であるが、この柄谷行人が、リバータリアン社会主義を実現するのに役立つと考えていた地域通貨は、仮想通貨(暗号通貨)という形で、地域通貨の実験などよりも大規模に強力に世界的に実現しそうな勢いである。


そして、仮想通貨(暗号通貨)の基幹技術であるブロックチェーンは、今後の数年間で、仮想通貨ばかりでなく、交通やインフラ管理、エネルギー・水・廃棄物、農業、環境モニタリングと災害予測、医療・ヘルスケア、金融・保険、書類や記録の管理、ビル管理・不動産管理、製造・メンテナンス、スマートホーム、小売業など、あらゆる業務の基幹システムとして応用され、中

央に管理者のいない状態で、共同で、分散台帳を使いながら自動的に運用されていくようになるという。


そのような世界では、IOT(Internet of Things)と呼ばれるが、あらゆるデバイスや機器がインターネットに接続され、ブロックチェーンによって、それが自動的に運用管理されていく。


それらのデバイスにはチップが搭載され、人工知能が搭載されて、人間がメンテナンスをほとんどしなくても自動的に運用されていくのである。


従って、巨大な中央政府などが不要になり、最小限の公務員しか必要なくなるのである。


必要となるのは、国防、警察、インフラ管理などであり、それを最小限の人員で運営することが出来る。



そして、仮想通貨を使って、世界中のどこにでも安い手数料で送金できる世界では誰でも自分の気概で生活を維持していくことが出来る。


人々は自由に経済活動し、政府に管理統制されることもなく、政府の維持コストが安くなるため、税金も安くなり、自分で自分の生活を何とかすることが出来るため、国家による再分配としての福祉の必要性が限りなく少なくなっていく。


もちろん、社会インフラのコストも安くなるため、公共料金などが限りなく安くなり、農業なども自動的に管理され、十分な量の食糧も供給できるため、ほとんど生活費に困るということはなくなるかもしれない。


つまり、ブロックチェーンによって生み出される未来の社会は、リベラル左翼の主張してきた大きな政府(過剰な公務員)にって、多くの税金を徴収して再分配する福祉国家社会主義(社会民主主義)ではなく、自由と平等が実現したリバータリアン社会主義(アソシエーショニズム)である。



ビットコインは、そのブロックチェーンによる社会革命を先陣を切って行っているのである。






因みにブロックチェーンがどのような未来を切り開くかについてよく理解できる良書は以下の2冊である。



『ブロックチェーン・レボリューション ――ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか』ダイヤモンド社 ドン・タプスコット (著), アレックス・タプスコット (著), 高橋 璃子 (翻訳)


『ブロックチェーン革命–分散自律型社会の出現』日本経済新聞出版社 野口悠紀雄 (著)




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