柳美里(YU MIRI)

昭和43(1968)年、神奈川県横浜生まれ。 6月22日生まれ。蟹座。A型。  横浜共立学園高等学部を中退後、劇団「東京キッ ドブラザーズ」を経て、昭和63(1988)年、 18歳で単身、劇団「青春五月党」を旗揚した。劇 作家兼演出家となる。  平成5年(1993)年、『魚の祭』で第37回 岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。 平成8(1996)年『フルハウス』で第24回泉 鏡花文学賞、第18回野間文芸新人賞、 平成9(1997)年『家族シネマ』で第116回 芥川賞を受賞。

 

1968年 神奈川県出身。 学校でのいじめ、両親の不仲、別居、離婚。何度か の自殺未遂、家出を繰り返し、高校中退後たどり着 いたのが、劇団「東京キッドブラザーズ」。主宰者 、東 由多加氏と恋に落ち、戯曲や小説を書くことを 勧められる。  1988年18歳で劇団「青春五月党」を旗揚し、劇作 家兼演出家となる。同年8月「水の中の友」で旗揚げ 公演を果たす。その後1993年「魚の祭」で第37回岸 田國士戯曲賞を最年少で受賞。1996年「フルハウス 」で第24回泉鏡花文学賞、第18回野間文芸新人賞、 1997年「家族シネマ」で第116回芥川賞を受賞。「週 刊ポスト」(小学館)にて命シリーズの続編を連載 した。

 

1968年 神奈川県出身の在日朝鮮人。1988年18歳で 劇団「青春五月党」を旗揚し、劇作家兼演出家とな る。同年8月「水の中の友」で旗揚げ公演を果たす。 その後1993年「魚の祭」で第37回岸田國士戯曲賞を 最年少で受賞。1996年「フルハウス」で第24回泉鏡 花文学賞、第18回野間文芸新人賞、1997年「家族シネマ」で第116回芥川賞を受賞。著書は「水辺のゆり かご」「仮面の国」「ゴールドラッシュ」「命」「 魚が見た夢」など多数。 右翼を名乗る男性からの脅迫電話によってサイン会 が中止に追い込まれたり、デビュー小説「石に泳ぐ 魚」のモデルになった知人女性に「プライバシー侵 害である」として出版差し止めの訴訟を起こされ敗 訴したり、などといった事件も。

チャートの持ち主は芥川賞作家(「家族シネマ」1997)であり、作風は自らの不幸な体験をもとにした私小説を書くことが主である。その為、チャートの持ち主の人生については、その作品群を見れば一目瞭然である。プロフィールにも書いてある通り、チャートの持ち主は、学校でのいじめ、両親の不仲、別居、離婚。何度か の自殺未遂、家出を繰り返し、高校中退後に劇団「東京キッドブラザーズ」に出会い、そこで、恋に落ちた劇団の主宰者の勧めで、戯曲や小説を書くようになり、今にいたっているようだ。作品群もそうした体験をもとに書かれており、非常に重いテーマとなっている。

出生時間が分からない為、12:00でチャートを作成し、チャンドララグナで見ると、4室支配の月が10、11室支配で減衰する土星とコンジャンクトし、土星はナヴァムシャでも減衰している為、ヴァルゴッタマである。月の両側にはラーフ以外に在住していない為、ケーマドルマヨーガで寂しい月であり、しかも減衰する土星の影響でかなり陰鬱で、抑制、困難を受けている。減衰する惑星がヴァルゴッタマだと凶意が増すと言われており、彼女の土星は非常に凶意を増しているのである。然し、それでも火星のアスペクトやラーフのコンジャンクトを受けていないのと、木星の9番目のアスペクトで、保護を受けていることが救いである。この木星のアスペクトは困難な人生の中ではオアシスのようなものであり、木星は年長者や配偶者のカラカであるため、おそらく彼女の文筆の才能を見出してくれた劇団「東京キッドブラザーズ」の主宰者・東 由多加氏は、彼女のチャートの木星に該当し、先生であり、また恋愛の対象でもあったと言える。

このケーマドルマヨーガの月から見て、ケンドラに全く惑星が在住していないため、ケーマドルマヨーガを緩和する要素が見られない、強いケーマドルマヨーガであり、非常に孤独である。

更に、月はナヴァムシャで減衰しており、ケンドラには惑星の在住はなく、月から6室目に土星、8室目に木星、12室目に水星が在住し、ナヴァムシャにおいてはケーマドルマヨーガではないが、かなり、月の苦しみを緩和する要素が少ないことが分かる。

然し、月から見て、3室に惑星集中しており、水星は3、6室支配で3室で定座に在住し、ラグナロードの火星と5室支配の太陽、そして、2、7室支配の金星がラージャヨーガ、ダナヨーガを形成している。従って3室の象意での才能や発展が見込まれる。水星や金星は小説を内容のある文芸にする才能を表し、太陽、火星は文芸界での自己主張や努力を表す。3室惑星集中であるため、やはり、人生に努力を要し、困難も多いと思われる。また3室は双子座であり、情報を収集し、それを発信するテレビ、雑誌、マスコミなどの媒体を表すが、彼女は、小説を書くばかりではなく、ラジオにも出演したり、新聞に小説を連載したり、また雑誌にも自身の妊娠を実況中継するかのような作品を連載するように(「週 刊ポスト」(小学館)にて命シリーズの続編を連載)、自己主張をする為の媒体として、活用することに巧みである。この3室に減衰する土星がアスペクトしている為、彼女の作品は減衰した土星の象意が濃厚に表現されるのであろう。

 

水星と太陽と金星は、オーブ一度以内で、非常に緊密にコンジャンクトしているが、金星と火星のコンビネーションは、熱烈で粗暴な恋愛関係、性的な暴力などを表すコンビネーションであり、また太陽によってコンバストしている為、金星、火星は太陽に力を奪われ、凶星化している。また減衰する土星のアスペクトも金星、火星、太陽の凶意を増している。彼女は小説の中で、性的いたずらを描写しており、おそらく、性的いたずらを受けた自身の体験を暴露しているのではないかと読者に評価されている。

 

インターネット上に柳 美里の様々な情報が氾濫しているが、彼女に対する評価は、両極端であり、非常に支持してファンサイトを立ち上げている人物もいれば、酷評している人物もいるようである。

以下はその一部である。

「柳美里の小説は痛い。 どういう風に痛いかと言うと、釣り針が胃壁か何か に突き刺さったような痛さだ。 どうして、彼女はこれほどまでに自分を曝け出し、 痛めつけるのか。 彼女の作品の大半は私小説だ。 特に、「水辺のゆりかご」の中において、自分のいじめ体験や性的いたずらを受けたこと、どうしよう もない家族。そして、非行歴なども赤裸々に暴露し ている。ここまでやるかって作品だ。 もちろん、すべてが真実ではないだろう。しかし、 何がここまで彼女をかきたてるのか。 エッセイ、「仮面の国」における政治評論もしかり である。どうして、そこまで廻りと戦わねばならぬ のか。それは在日朝鮮人だからか。それとも柳さん の生き方なのか。生き方だとしたら悲しすぎる。 「命」においては、自分の不倫と父親のいない子供 を産んだ過程まで暴露し、『家族シネマ』や『フルハウス』では、屈折した形で家族への憧れを表現している。 また、彼女の露骨な性描写は男性作家のようであり 、たぶん、女性から嫌悪のまなざしで受け取られる のであろう。 でも、彼女はその露骨な表現を続ける。少年の心理 を描くなら、男になって書いてやる。私は男だと叫 んでいるようにすら僕には思える。 とにかくスゴイ作家だ。 近来稀に見る才能の持ち主だ。彼女の中に、若き日 の中上建次を見るのは僕だけだろうか?。 」

上記の中で、「彼女の露骨な性描写は男性作家のようであり、たぶん女性から嫌悪のまなざしで受け取られるのであろう。」とあるが、彼女のチャートを見ると、男性星座に惑星集中しており、ナヴァムシャにおいてもそうである。これだけ男性星座に惑星集中していれば肉体は女性であっても心理的にはほとんど男性と言える。彼女が男性的な視点で書くのに長けているといいうのは単に彼女が意識的に努力しているというよりも実際に心理的に男性的であるからと言える。

また上記に「どうして、彼女はこれほどまでに自分を曝け出し、 痛めつけるのか」とあるが、露出狂というのは一種の自己顕示であり、自己主張の別の形である。自分のことを洗いざらい暴露するのは、月から3室目の双子座の太陽の象意である。太陽は定座が獅子座だが獅子座の特徴として、自己主張するが、自分が受け入れられないとプライドが傷つくという性質がある。女性の前で、いきなりコートを脱ぎ、自分の裸体や性器を見せるストーキングという行為も女性が慌てふためいて、驚愕するのを見ると、行為者は満足するようだが、全く女性が冷静で落ち着いていると、拍子抜けして傷つくという。チャートの持ち主も自分の人生のストーリーを人々に評価し、反応してもらいたいのであろう。それが彼女の社会や人々と関わる接点なのであろう。

 

また彼女はこう言っている。

「自分のために生きる、自分のために書くというのは くだらないなと思い始めたんです。私が抱えている闇で、誰かの闇を照らしたいとい う気持ちはありますね。それは光ではないんです。  私の闇で、今こう闇の中にいて出れない、出られない人を照らしたいなという気はしますね。生きているってことは、私にとって書くこと、しかないんです。

平成16年1月  NHK番組「わたしはあきらめない」にて」

 

月からケンドラに惑星の在住がなく、3室惑星集中の彼女にとっては、マスメディアなどのコミュニケーション媒体を用いた小説の発表やラジオへの出演などしか社会や人々との接点が持ちえないということを表現した発言だと思われる。

 

続いては、「フルハウス」と「タイル」という作品に関する論評である。

 

「☆ フルハウス 作、柳美里

作品の紹介・・・私小説だと思われる短編が2つ。 寸評もどき・・・正直言うと、在日韓国人作家の書 く作品は、どこか陰気で屈折してて嫌なんだけど、 唯一例外的に読んでいる作家が柳さんだ。少し、前 から彼女の作品を読みはじめている。 この作品で3作目になります。 この短編集は、「もやし」と表題作の「フルハウス 」の2つの短編からなります。 「もやし」は不倫を描いた作品でした。柳さんっぽ いなぁという作品。 「フルハウス」こちらの作品は、ちょっとびっくり させられた。というか、久々に才能というのを見せ つけられた気がした。ストーリーは、単純、家をた てた父が崩壊している家族とそこに住もうとするが 、娘たちは嫌がる。 そして、なぜか父親は見知らぬホームレスを、その家に住まわせる。そのホームレスたちが、一日ごと にその本性を露にしていく様は、純文学というより かホラー小説している。だいたい、柳さんの文章は 暗くじめじめしているので、こういう奇妙な世界を 描かせたら、ほんとピカいちなんだ。 とにかく、読んで欲しい。この作品だけなら、2時間 もかからない。でも、その内容は赤川次郎の小説10 冊分にも相当するだろう。とにかく、強烈なインパ クトだ。心にいやおうなしに押し寄せてくる物があ る、そんな作品です。いや、とにかくびっくりしま した。 」

「☆ タイル 作、柳美里

作品の紹介・・・マンションの部屋にタイルをしき つめる男と、その部屋の大家で、時間と金をもてあ ました盗聴が趣味の老人が゜、ある女流作家を殺す という話し。 寸評もどき・・・読んでる時、ずっと、この作品の 作者が女性の柳美里だということを忘れていた。男 性のそれもかなり濃い花村萬月のような人を思い浮 かべていた。それくらいスゴイ!。 この作品の主人公の男は、かなりイカレてる。どう いう風にかというと、男は借りているマンションに タイルをしきつめようとするんだけど、その作業を する為に水着を買うんだ(この時点ですでに変である )。 デパートに行く、そして男は真っ赤な水着を手にと り試着する。店員に下着の上から、試着してくださ いと言われるが、じかに履く、更衣室から出た彼は 、それを買うのだが、商品はどこにもない。店員が 尋ねると、履いているというのだ。そういう異常さ を見せつけるエピソードが満載なんです。 読み物として、はっきり言って面白い、それに珍し い。柳さんの文章は力強い。だから、伝わってくる モノも強烈だ。これを純文学と読むか、それともホラーと読むか、それは個人の自由だと思うのですが 僕は、そこのところがよくわからなかった。モチー フが絞れない。でも、とにかく強烈な作品だった。 」

 

上記の2作品の論評を読むと、彼女の作品が暗い、陰鬱な中でも、奇妙な皮肉やユーモア感覚に溢れていることが伺われる。これらは3室で金星が在住していることで、ストーリーを考え出すことが巧みであり、暗い私小説の中でも、それをエンタテインメント化できる才があるからであろう。

 

また冒頭のプロフィールに「右翼を名乗る男性からの脅迫電話によってサイン会が中止に追い込まれたり、デビュー小説「石に泳ぐ魚」のモデルになった知人女性に「プライバシー侵害である」として出版差し止めの訴訟を起こされ敗訴したり、などといった事件も。 」とあるが、非常に闘争に巻き込まれることが多いようである。然し、これは周りから闘争を起こされるばかりでなく、自身も闘争的であるようである。これらの象意から6室(闘争)の象意も非常に強いことが考えられる。これは水星が3、6室の支配星であり、闘争、訴訟のカラカとなっており、内容も知人女性が勝手にプライバシーを小説に盛り込まれたことを不服として起こした訴訟で、出版(水星)に関する訴訟で、勝手にプライバシーを載せるという行為自体、凶星化した狡猾な水星の象意であり、その水星に対して起こされた訴訟であるというのもよく分かるのである。

 

このように、6室の象意が見られるため、出生図のラグナを山羊座に設定して、6室惑星集中にすると、4室でラグナロードの土星が減衰し、7室支配の月とコンジャンクトする配置となるため、家庭崩壊が常にテーマとなる彼女の人生において、4室で土星が減衰というのは事象に一致してくる。そのため、山羊座ラグナというのは可能性として考えられる。しかし、6室惑星集中だと、借金や、病気といった象意も出て来るため、彼女の人生において苦労は多いが、病気という象意があまり、出ていないので、違う可能性もある。あるいは、病気という象意は月から6室の惑星集中の方がむしろ出やすいのだろうか。

 

また、彼女は自身のHPの中で、自分が機械嫌いで、パソコンの扱いが上手く出来なかったことを吐露しているが、それは減衰する土星の影響が考えられる。土星は制度、規律、形といった命に規律を与え、形にはめ込むといった象意があるが、土星が減衰していると、ワープロ、パソコンなどの形にはめられた機械(操作方法がマニュアルで厳格に決まっており、その通りに従わないと動かない)の操作は面倒で、それらを扱う忍耐力もないのであろう。土星が減衰すると忍耐力が無くなると言われる。それは形を扱う−自分を形に従わせる、他者に従わせる形を作る−といった根気の欠如を表すのである。逆に書道や鉛筆で自由に紙に字を書くなどは、極力形の制限の無い、自由な世界を表す。文筆家は一見、言語を操作する上で、形が得意であるような印象を受けるが、文筆行為自体は、形を作る行為というよりも命の流出なのであろう。

 

(ネットに掲載されている彼女のその他の作品に関する論評)

 

「☆ 家族シネマ 作、柳美里 作品の紹介・・・20年前に分裂した失われた家族を 求め、映画出演を決めたある家族を描いたもの私小 説っぽい作品。 寸評もどき・・・とにかく話しに、いきなり引き込 まれてしまう。ノンフィクション映画で家族団欒を 演じる親子。個々の複雑な気持ちがうまく表現され てあり、胸に染み入る。ただ、陶芸作家の老人と主 人公の女性との奇妙な関係には、嫌悪感を感じた。 」

 

「☆ 命  作、柳美里  作品の紹介・・・作者の出産と東京キッドブラザー ズの演出家東由多加の死を描いた私小説。 寸評もどき・・・普段、女性作家の出産物や結婚ス トーリーは馬鹿馬鹿しいので読まないことにしてい る。 最初、この本もそういう理由で回避していたのです が、一月ほど前に偶然つけたテレビ番組「知ってるつもり」で、この本の内容が紹介されており、感動 したんです。それで読むことにしました。 この小説はかなり作者の正直な気持ちが書かれてい ます。だから、柳さんのことをよく思わない人も出 てくるかもしれないし、確実に柳さんの子供の父親 には敵意を抱くことでしょう。かなり最低な不倫野郎です。 そんな男の子を産むほうも問題ありですけど。 そんな最低、嫌なことから逃げ逃げ男について、柳 さんはこんなことを言っている 人間ひとついいところがあれば それでいいのだ このダメ男の場合。子供を認知したことなんだろう 。ぐさっとくる言葉です。そんなダメダメトリプル 不倫男と別れた彼女は、余命8ヶ月と宣告された癌患 者東京キッドブラザーズの演出家東由多加と、どういうわけか同棲生活をはじめる。この人が実に魅力的なんです。この人なくしては、柳さんだけでは子供は育てられなかったと思います。 散り行く生と与えられた生。この相反する概念のシンクロ。そこにこの小説の真髄があります。さて、 実際に読み終わると実は、テレビほどは感動はありませんでした。所詮テレビは作り物でしかありえません。いい所だけをつなぎ合わせているのです。 それに対して、この小説はありのままの自分をさらけだしてます。だから、読者は作者の柳さんに嫌悪感を感じることもあり、子供の父親の不倫男に男の情けなさを見ることでしょう。そこには濃密な時間があり、空間がある。ありのままの感情の断片が剥 き出しに転がっている。変な例えをするならば、テ レビは買ってきたばかりの綺麗なパンティ。鑑賞に耐える物です。そして、この本はさっきまではいてたパンティ。その生々しさに驚くことでしょう。そ んな風に僕にはこの作品は映りました。興味のある 人は読んでください。 」

→月から7室目の金星は3室双子座で太陽、火星と緊密にコンジャンクトしていることから、配偶者は非常に遊び人風で不倫を好み(双子座)、恋愛やセックスに関して粗暴で、傲慢で、冷酷な所がある人物であると言える。この点でもチャンドララグナは非常によく機能していることが分かる。

 

「☆ 水辺のゆりかご 作、柳美里  作品の紹介・・・在日朝鮮人作家が、自分の半生を飾ることなく綴った私小説。内容は、かなり強烈。寸評もどき・・・驚いた、言葉が出てこない、この 作品はそういう種類の作品です。作者は、私小説を書く場合、多少なりとも無意識に自己弁護するものです。自分に都合の悪いことは削 除したり、自分の都合のいいように解釈したり、しかし、柳美里にはそれがない。そこがこの作品の恐ろしいところです。 まるで、この作者は自分にナイフを突きつけて、そ の流れ出る血を見て喜んでいるようにすら思えます 。 壮絶な両親との確執、悲惨としかいいようのないイ ジメの連続、性的いたずらをされた過去、自己の奇 行。 他人の数倍の人生を一瞬にして駆け抜け、傷つき、ぼろぼろになっても立ちあがる。 自分の中の心の屈折を隠そうともせず、自己弁護せ ず・・・・ その取り組み方に、読んでいるこちらまで胸が苦し くなる。この作品はそんな作品でした。」

 

「☆ 仮面の国 作、柳美里  作品の紹介・・・小説家の書いた政治コラムです。 独自の視点が新鮮。 寸評もどき・・・サイン会中止事件に端を発し、従 軍慰安婦問題、教科書を作る会、酒鬼薔薇聖斗・・ ・等々。 いろいろな政治問題を独自の視点で語っている。 個々の内容については、首をかしげたくなるような ものもありますが、読んで損のないコラム集でした。」

 

「☆ ゴールドラッシュ 作、柳美里 **新潮文庫**  作品の紹介 ・・・神戸で起きた14歳の少年Aの事件 をモチーフにした親殺し小説。 寸評もどき・・・ 「人を殺しては何故いけないの? 」改めて問われると答えにとまどってしまう。 こんな社会で、大人たちは子供を納得させる論理(抽 象的なものではなく)を提出できるのだろうか?。 少なくとも柳さんは、少年Aの視線でその問題を表に 出した。それがこの作品だ。成功したかどうかはさ ておき、この実験的な試みは尊敬に値する。 父を殺しても罪の意識をまったく持たない少年に、 僕は恐怖すら感じた。これは物語だ、だから、こう なんだと何度も何度も自分に言い聞かせてページを めくった。 人は、一皮剥けば誰しも自分勝手なところを持つ。 その仮面を被っているのは社会通念であったり、モ ラルであったり、両親・兄弟などの親族の情であっ たり、時には自己の保守的な思考などであったりも する。 だから、人はたいていの場合「殺したい」とか「殴 りたい」などという欲求を押し込める。 しかし、この少年の場合、家族の愛情も受けず、甘 かされて育ち、また、精神的な未発達な所もあり また、同情すべきは父親が人間の顔をした悪魔のよ うな人物であったことも関係し、ついに父親を殺害 してしまう。 物語の半分は、父を殺してからの部分である。少年 は父に代わって家族を支配し会社を支配しようと試 みる。 性欲に溺れ、人間不信にさいなまれ、だんだん、精 神を疲弊していく。 そのディテールの細かさは物語にリアリティを与え ている。 この作品は、柳さんの代表作の1つといえるだろう。」

 

「☆「家族の標本」 作、柳美里 **角川文庫** **エ ッセイ** 作品の紹介・・・家族をモチーフにしたショートエ ッセイ 寸評もどき・・・短編小説にしたら、10は書けそう だと思った。 それくらい中味が濃いい。特に、第1章の作品群はできが良い。 幸せというのは何となく似通っているけど、不幸はその数だけの種類があると誰かが言っていたが、それを作品にしてしまったのが、このエッセイだろうか もちろん、すべて不幸を表現した作品ではない。幸 せなものもある。 でも、作者が家族とは不幸なモノという基本的なスタンスを持っていらっしゃるようで どうしても不幸物語が多くなる。 それにしても贅沢なエッセイだなぁと思った。 2002 8/17」

 

「☆「 自殺 」 作、柳美里  **文春文庫** **エ ッセイ** 作品の紹介・・・自殺をテーマにしたエッセイ。 寸評もどき・・・驚いた。とにかく驚いた。 前半、高校生への講義とディスカッションが中心な んですが どう考えても、こんな話しを高校生が聞いてプラス にならないでしょと思った。 別に、高校生をガキだと馬鹿にしているわけではな いんです。 話しが過激すぎて、話し手の意図が違う風にとらえ られるのじゃないかと思ったのです。 ただ、考えは過激ですが説得力がとてもあります。 たぶん、おっしゃっていることは正しいからでしょ う。 寒気を感じるほどの説得力でした。 自殺を肯定するというスタンスにどうも僕はなじめ ない。それで恐怖を感じているわけです。 思想的には、何となく五木寛之さんに似ている感じ です。 本文を引用すると「そのひとの生が美しければ、死 も美しい」 つまり、死と生は避けられない。故に、意識しよりよく生きよう、ということです。年をとり、大便や小便をたれ流し、何もわからなくなるなら死を選ぶという柳さんの言葉は重い。 それで本当に生きてるの?。確かに、そう思う。高年齢者の自殺率が高いのもうなずける。安楽死についても、何故、駄目なのか僕にも理解できない。たぶん、政権政党が、宗教団体や医療団体から、多額の献金を受けているからだと思う。 生きることの意味を考えず、ただ、時間をやりすごす、そんな人生は 死んでいるに等しいわけです。 だから、柳さんの死生観はよく理解できる。ただ、 あまりにも唐突だったので、焦ったのです。読み手にも、事前の知識が必要みた いです。 そういうことは普段、考えないのですから・・・・ 2002 9/1」

彼女のマハダシャー月期は、1976年頃〜1986年頃までであるが、ちょうど、8歳〜18歳ぐらいまでの間であり、おそらく「学校でのいじめ、両親の不仲、別居、離婚。何度かの自殺未遂、家出を繰り返し、高校中退」するまでの時期である。この頃は減衰する土星と4室支配の月がコンジャンクトしており、また月がナヴァムシャで減衰しているという非常に困難な時期である。この時期、何度も自殺未遂を繰り返したと書かれているが、火星のアスペクトやラーフのコンジャンクトがあったり、木星のアスペクトによる保護がなければ実際に自殺していたと思われる。

そして、高校中退後、劇団「東京キッドブラザーズ」に出会い、そこで人生の大きな転機を迎えているようだが、ここで、ちょうど、マハダシャー火星期にシフトしている。マハダシャー火星をラグナとすると、3室支配の太陽、5、12室支配の金星、1、4室支配の水星、6、11室支配の火星がコンジャンクトし、困難や闘争は多いが、ラージャヨーガも出来ており、比較的、自身の才能を開花させることが出来る環境にシフトしたと思われる。減衰する土星も火星から見て、9室支配であり、11室で2室支配の月とコンジャンクトし、ダナヨーガを形成している。

そして、1993年頃からマハダシャーラーフ期にシフトしており、ラーフを1室とすると、4室に惑星集中しており、2、9室支配の火星、6室支配の太陽、4、7室支配の水星、3、8室支配の金星がコンジャンクトしている。その為、家庭という象意が出てくるが、かなり困難であることが予想される。実際、彼女は不倫の相手との間に子どもを産み、相手の男が逃げてしまうという、またその後で、癌宣告を受けた劇団「東京キッドブラザーズ」主宰者の東 由多加氏と結婚するのである。4、7室支配の水星は機能的凶星であり、家庭と配偶者に問題が生じる傾向を示し、3、8室支配の金星は恋愛や結婚に対する困難や苦労、苦悩などを表している。6室を支配する太陽も争いや病気などを表し、非常に困難である。

暫くは困難な状況と闘いながら、文筆活動や子育てをしていく(家庭を守る)時期だろうと思われる。

 

そして、彼女の最もよい時期であることが予想される、マハダシャー木星期に2011年頃からシフトする。

この時期は、木星をラグナとすると、ラグナロードの太陽が、4、9室支配の火星と11室でコンジャクトし、2、11室支配の水星もコンジャンクトし、ラージャヨーガ、ダナヨーガを形成する。

また6、7室支配の土星と12室支配の月も9室で幸福、幸運の部屋に位置するため、減衰の凶意が緩和されることが考えられる。この時期は彼女の人生で比較的幸福な時期になることが予想される。

 

このように見てくると、彼女の人生が非常に困難に彩られ、壮絶な生き様であると言える。彼女を酷評する人物もいれば、彼女を好む人物もおり、その評価は両極端であるが、青春期に同じような体験で苦労し悩んでいる青年にとっては教祖的な存在であり、文筆を通じ、自己を暴露する生き様は精神的、奉仕的な価値も認められるのである。

この壮絶な体験とその体験を通じて悟りにいたるというパターンは、チベットのミラレパの生涯のように力強く、日常的な善悪の基準を超えている。因みに太陽、火星、金星は、アールドラーであり、その人生体験はアールドラーの象意に非常に適合している。

 

アールドラーの象意は以下である。

「番目の月 アールドラー <過去に縛られない開拓者> この人は偉大な指導者と天才的な悪人のどちらにもなり得る性質をもった人です。強い開拓精神と革新性をもっており、地味な仕事は向きません。この人は、古くなったものを吐き出し、来るべき新しいものの為の革命という仕事が宿命づけられています。とても深い愛情をもっているが故に、初婚で失敗する人が多いのもこの星座の特徴です。」

「額上星/アールドラー 過去にしばられない開拓者 <性格> 古典によると、涙の滴、浄化のための抑圧、最も平和的で最も恐ろしい者。完全な平静、知識と禁欲主義における全ての願望の至高の成就、至高の援助者、浄化者、悪の矯正者シヴァ神を象徴する。一方では、恐ろしいもの、圧迫するもの、苦しみを与えるものすべての象徴であるルドラ神とも言う。アールドラーの文字の意味は、「濡れた、湿った」です。太陽がアールドラーに入ると、地球の月経が始まると言われている。それは優しさ、感情、しっとりした温かさを意味します。現代的に解説すると、その心は苦しみのあまり人を欺く、虚栄心が強く人を傷つける、悪意が生じます。残酷、態度や物の見方がたいへん物質的で精神的な努力をすることは難しい。知的な人たちに搾取される、金使いが荒い。結果、貧困が支配的になりやすい。人生は苦難や大きな不幸に満ちている。と大変辛い傾向ですが、実はこれは古くなった物を吐き出す革命、開拓、月経の苦しみであり、この心を傾向を克服した人は、優しく、暖かく、思いやりがあり、平和で素晴らしい援助者、教育者になります。天才的な悪人か、偉大な治療者そのどちらにもなれる両刃の剣のようなハートの持ち主です。 <美容と健康> 内側の相反する力の相克で、バランスが崩れたときは子宮筋腫などの、手術の必要な病気になることがあります。普段は健康なので無理ができますが、その無理の蓄積が要注意なのです。神経の病気、腎臓の病気に気をつけましょう。パッと見には特別際立った美しさとか肢体の綺麗さを周りの男性は感じませんが、脱いだら綺麗なんですというタイプが多い。 <職業> 開拓精神が旺盛で革新的なことでも、平気で応じられる性質から、地味な仕事は向きません、企画、プランナー、短期研修教育者、マスコミ、イベント企画、スタイリスト、(革新的な)デザイナー、陶芸家、作家、プロモーター、悪の道のプロ、魔術士、巫女、治療の道のプロ <金銭> 仕事を持つと、良い収入がえられます。しかし、その仕事の傾向によっては、だまされたりだますはめになったりと、お金のでいりは烈しいでしょう。好きな男のために、貢はめになることだけは要注意です。 <恋愛> それが、どう働くにしても愛情が深い人なので、恋愛は深まるでしょう。初婚は失敗することが多く、再婚で幸福をつかむことが多い。当然、それは恋愛でも同じで失敗の連続の後の成功した恋愛がやってきます。 」

 

上記の象意に「偉大な指導者と天才的な悪人のどちらにもなり得る性質を持った人です。」とあり、また「古くなったものを吐き出し、来るべき新しいものの為の革命という仕事が宿命づけられています。」とあるように平凡で人間の基準を超えた個性をもっていることが良く分かる。

また、家族幻想という魚座の時代が築き上げた構築物を破壊、浄化し、新しい人間の関係のあり方を示す革命の人でもあることが良く分かる。

またアールドラー以外に注目すべき点は、月がバラニーであるという点である。バラニーも世間の権威や常識に従わない傾向があり、この点でも彼女は強烈であると言える。

 

バラニーの象意は以下である。

「2番目の月 バラニー <正義の心を授けられた裁判官> この人は意志が固く誠実で、秩序正しいことを良しとします。いい加減なことや、だらだらした人に憤りをおぼえます。気性が烈しく、また決断力もあります。歯に衣着せず話すので、時には人の弱みをついて傷つけてしまうこともあります。とても純粋な心の持ち主で、また自分を律する強さももっています。「水清ければ魚住まず」の例え通り、もう少し柔軟性をもつことも必要です。 」

彼女は小説の中で自分を飾らず、自分の嫌な所も全てをありのままに暴露するという厳格な正直さがあり、それは歯に衣着せず話すというバラニーの象意が非常に出ているのが分かる。

 

 

作品群

「家族シネマ」

「グリーンベンチ」

「ゴールドラッシュ」

「水辺のゆりかご」

「世界のひびわれと魂の空白を」

「命」

 

(資料)

■『石に泳ぐ魚』のモデルにまつわる裁判  「石に泳ぐ魚」…1994(平成六年)、文芸月刊誌 「新潮」9月号に発表された、柳美里さんの処女小 説。  この小説のモデルとされる柳さんの知り合いの女 性が、名誉やプライバシーを侵害されたとして、柳 さんや新潮社に損害賠償と小説を単行本として出版 しない事などを求めていた。 ----------------------------------------------- --------------------------------- ○1999.6.22(火)第一審@東京地方裁判所(NHKテレビ のニュースより)  判決で、小池信行裁判長は、「小説の中の虚構の 人物であってもモデルが誰なのかが読者に分かり、 書かれた内容が事実なのかフィクションなのかがは っきり区別できないときにはモデルのプライバシー が侵害される場合がある」と述べた。そのうえで、 この小説については原告の女性の特徴や経歴がその まま登場人物に与えられていて、知り合いの人が読 めばモデルが誰かが簡単に分かり、顔に病気がある ことは公表されたくない事で、プライバシーの侵害 にあたるのは明らかであると述べた。  判決  プライバシーの侵害や名誉毀損を理由に130万 円の支払いを柳さんや新潮社に命じた。さらに柳さ んや新潮社が小説の単行本を出版することはないと 約束した事を理由に、単行本の出版・映画化などを 禁止する判決を言い渡した。  柳美里さんのコメント  私は、事実そのものを書いた部分は『石に泳ぐ魚 』の部分にはないと思っていて、あくまで作者の「 私」の目を通したフィクションだと思っている。「 ここは虚構でここは事実だ」というように判決文は 一つ一つ取り出して断定していますが、そのような 読み方自体私としては不本意だ。これによって日本 でながく続いている私小説というジャンルが書きづ らくなり、すべての小説家などにとって重大な問題 だと思う。  原告側の弁護士のコメント  損害賠償だけでなく、出版も禁止された事で主張 がほぼ全面的に認められ、特に文学でもプライバシ ーを侵害する作品の出版は許されないという判断を 判決が示した事は高く評価したい。  原告の女性の談話  断りも無く小説に利用されて受けた苦痛は、忘れ る事はできません。 ----------------------------------------------- --------------------------------- ○1999.7.5柳美里さん側が控訴  ----------------------------------------------- --------------------------------- ○2001.2.15控訴審@東京高等裁判所(毎日新聞より )  戦後初めて小説の出版差し止めと130万円の慰 謝料支払いを命じた東京地裁判決を支持し、柳さん 側の控訴を棄却した。 ----------------------------------------------- --------------------------------- ○2001.3.1柳美里さん側、最高裁に上告 ----------------------------------------------- ---------------------------------  その他関連記事 ・「新潮45」99年8月号に柳美里の主張が掲載。[プ ライバシー裁判血風録 「朝日新聞」社説と「大江 健三郎氏」に問う] ・『窓のある書店から』の中の<表現のエチカ>。 ここではモデルとなったKさんとの出会い、初めて小 説を書いたときのエピソード、表現の自由にまつわ る裁判についての考えなどが書かれている。 未完の新聞連載、文芸誌で  柳美里さん「8月の果て」  新潮社は6日、作家柳美里さんが朝日新聞で連載 し、未完のまま終了した小説「8月の果て」につい て、文芸誌「新潮」で連載を引き継ぐと発表した。 「完結部」として5月号と7月号に掲載、完結後は 単行本も出版する予定という。  「8月の果て」は柳さんの祖父をモデルに、戦中 ・戦後を生きた朝鮮半島出身の家族を描く小説。朝 日新聞で一昨年4月から連載が続いていたが、3月 16日に「作者の構想がふくらみ、新聞掲載による 完結が不可能になった」などとする社告を掲載して 、未完のまま終了していた。 柳美里が「瀬戸際の10代」に届けるANニッポン  芥川賞作家、柳美里(ゆう・みり)さん(35) が5日放送のニッポン放送「オールナイトニッポン 」(深夜1・0)に5年ぶりに生出演する。作詞と プロデュースを手掛ける歌手、奥田美和子(22) と一緒にパーソナリティーを務め、心に傷を持つ若 者たちを救うべく立ち上がった。柳さんは「生きる ことも死ぬこともできない、瀬戸際の10代に届け たい」と熱い胸の内を明かした。〔写真:5年ぶり に「オールナイトニッポン」のパーソナリティーを 務める柳美里さん〕 ◇  「家族シネマ」「命」など家族や人間の生死をテ ーマにした作品で知られる柳さんが、「柳美里と奥 田美和子のオールナイトニッポン」と題して5年ぶ りに生出演する。前回(平成11年1月)出演した 際には、生きる力を失いかけていた10代の若者に 希望を与え、500通を超えるファクスが殺到、電 話回線が一時パンクするほどの大反響を巻き起こし た。  以来、ニッポン放送には柳さんの出演を望む声が 数多く寄せられていたが、柳さんが作詞とプロデュ ースを担当した奥田の新曲「歌う理由」(3日発売 )をリスナーに届けたいという柳さんの思いと合致 し、実現した。  このほど都内で取材に応じた柳さんは「高校を中 退した時、外の世界と閉ざされた状態だった私は、 毎日ヘッドホンでオールナイトニッポンを聴いて、 恩恵を受けていた1人。恩返しになれば」と語り、 「手首を何度も切ったり…生きることも死ぬことも できない、瀬戸際の10代にどれだけ届けられるか ですね」と、悩めるリスナーに決して1人ではない ことを伝えたいという。  奥田が柳さんとの出会いによって変わったことか ら、テーマは「私を変えた出会い」。リスナーから “出会い”“別れ”“再会”についてのメールを受 けつつ、進行していく。柳さんは「奥田さんと私が やりとりするというよりは、布団の中に入って親に 内証で聴いている人と、やりとりしたい」と思いを 馳せる。  新曲「歌う理由」についても、「購買層は私の小 説の読者より若い10代が中心だと思う。気持ちが 落ち込んだ時は活字が読めないけど、歌は聴ける。 何もしたくない、しゃべりたくない、そういう人に 有効的だと思うんです」と歌の持つ力についても力 説した。  柳さんが奥田と二人三脚で歌とメッセージを通し て、心に傷を持った悩める10代の命を救う。 ★作詞した「青空の果て」は15万枚のヒット  柳さんと奥田の出会いは昨夏。小説「命」に感銘 を受けた奥田が、自分の生い立ちから現在の心境ま でを綴った手紙を送り、作詞を依頼。柳さんは「小 説に専念したい」と1度は断ったが、両親の離婚や 高校退学など自らの境遇と重なる部分が多く、引き 受けた。  そこで完成したのが昨年11月に発売された「青 空の果て」。奥田の手紙の返信という形で詞が書か れ、CDジャケットやプロモーションビデオなどの プロデュースも務めた。絶望の中の希望を歌った同 曲はTBS系「ヤンキー母校に帰る」のエンディン グテーマ曲に起用され、15万枚を突破するヒット になった。 柳美里さんデビュー小説、新潮社が改訂版出版  芥川賞作家、柳美里さん(34)のデビュー小説 「石に泳ぐ魚」が最高裁で出版差し止めを命じられ た問題で、出版元の新潮社は25日、同作の改訂版 を31日に出版すると発表した。柳さんは同社で会 見し「複雑な心境だが、処女作がようやく出版でき るのは意味のあること」と話した=写真。  同作は平成6年9月号の雑誌「新潮」に発表され たが、モデルの女性がプライバシー侵害などを主張 し出版差し止めを求め提訴。その過程で、モデル女 性の意向に沿う形で修正した改訂版を、東京地裁に 提出した。  元の作品は今年9月の最高裁判決で出版差し止め を命じられたが、改訂版の差し止め請求は地裁で棄 却。新潮社側も「改訂版なら法的に問題はない」と している。  柳さんは一貫して固い表情を浮かべ、「出版自体 を諦めかけていた。作品が発している悲鳴が読者に 響いてほしいとの祈りを込めて出版したい」と話し ていた。 柳美里さん&奥田美和子ラジオパーソナリティー オールナイトニッポン 今月5日一夜限り共演 “初対面”柳さん「楽しみ」  芥川賞作家の柳美里(ゆう・みり)さん(35) が初めて作詞を提供した歌手・奥田美和子(22) とのコンビでラジオのメーンパーソナリティーを務 めることが29日、明らかになった。ニッポン放送 「柳美里と奥田美和子のオールナイトニッポン」( 5日深夜1時)で、CDジャケットでも素顔を公開 していない奥田はパーソナリティー初挑戦。柳さん とのコンビで本音トークを展開する。  奥田は昨年11月発売した「青空の果て」が約1 5万枚のヒット。柳さんの詞と奥田の歌声が若者を 中心に共感を呼び、悩みや思いをつづったはがきが 約5000通も送られてきた。  一夜限りとなる今回のラジオのテーマは「私を変 えた大きな出会い」。柳さんと奥田が「出会い」に ついて語るほか、メールで寄せられた悩みに答える 。  奥田は柳さんの「命」を読んで感銘を受け、作詞 を依頼。2人は手紙と詞の返信という形でやり取り をしており、本格的に会話するのは今回が初めて。 柳さんは「アドバイスすることはないけど、楽しみ です」。ラジオパーソナリティーは5年ぶりの柳さ んは「私自身、高校を退学になって、自分の部屋で 『オールナイトニッポン』を聞いていた。ラジオは “居場所がない人”にとって最も強いメディア。部 屋にこもって布団をかぶって聞いている人の心に届 かせたい」と意気込んでいる。  3日には柳さんが作詞した奥田の第2弾シングル 「歌う理由/はばたいて鳥は消える」が発売される 。  ◆奥田 美和子(おくだ・みわこ)1982年2 月13日、鳥取・米子市生まれ。22歳。高校1年 で中退し、2000年に「しずく」で歌手デビュー 。03年、TBS系「ヤンキー母校に帰る」の主題 歌になった「青空の果て」がヒット。 「ゴールドラッシュ」 柳美里 (1998) 風俗店が並び立つ黄金町で育った14歳の少年は、 中学を登校拒否してドラッグに浸っている。家庭崩 壊の中、なんでも金で解決しようとする父に対し少 年は・・・・・。 柳美里の14歳の少年の描写はすごい。作者自身の 心の闇と少年の心の闇がリンクしているためなのだ ろうか・・・・・。 柳美里X渡辺真理対談 婦人公論(10/22号)「私たちの友情の形」10/9 2001     いつも食事をしたり、ショッピングを楽しんだりす るのが友情ではない。と語る柳と渡辺。本当に辛い とき、悩んでいるとき必要なのが親友という存在と 、対談で話す二人。仲の良さが文章から伝わってき た。 ぜひ、女性の方に読んでもらいたい。 1968年 神奈川県出身の在日朝鮮人。1988年18歳で 劇団「青春五月党」を旗揚し、劇作家兼演出家とな る。同年8月「水の中の友」で旗揚げ公演を果たす。 その後1993年「魚の祭」で第37回岸田國士戯曲賞を 最年少で受賞。1996年「フルハウス」で第24回泉鏡 花文学賞、第18回野間文芸新人賞、1997年「家族シ ネマ」で第116回芥川賞を受賞。著書は「水辺のゆり かご」「仮面の国」「ゴールドラッシュ」「命」「 魚が見た夢」など多数。 右翼を名乗る男性からの脅迫電話によってサイン会 が中止に追い込まれたり、デビュー小説「石に泳ぐ 魚」のモデルになった知人女性に「プライバシー侵 害である」として出版差し止めの訴訟を起こされ敗 訴したり、などといった事件も。 1968年 神奈川県出身。 学校でのいじめ、両親の不仲、別居、離婚。何度か の自殺未遂、家出を繰り返し、高校中退後たどり着 いたのが、劇団「東京キッドブラザーズ」。主宰者 、東 由多加氏と恋に落ち、戯曲や小説を書くことを 勧められる。  1988年18歳で劇団「青春五月党」を旗揚し、劇作 家兼演出家となる。同年8月「水の中の友」で旗揚げ 公演を果たす。その後1993年「魚の祭」で第37回岸 田國士戯曲賞を最年少で受賞。1996年「フルハウス 」で第24回泉鏡花文学賞、第18回野間文芸新人賞、 1997年「家族シネマ」で第116回芥川賞を受賞。「週 刊ポスト」(小学館)にて命シリーズの続編を連載 した。 柳美里(YU MIRI) ----------------------------------------------- ---------------------------------  昭和43(1968)年、神奈川県横浜生まれ。 6月22日生まれ。蟹座。A型。  横浜共立学園高等学部を中退後、劇団「東京キッ ドブラザーズ」を経て、昭和63(1988)年、 18歳で単身、劇団「青春五月党」を旗揚した。劇 作家兼演出家となる。  平成5年(1993)年、『魚の祭』で第37回 岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。 平成8(1996)年『フルハウス』で第24回泉 鏡花文学賞、第18回野間文芸新人賞、 平成9(1997)年『家族シネマ』で第116回 芥川賞を受賞。   柳美里の小説は痛い。 どういう風に痛いかと言うと、釣り針が胃壁か何か に突き刺さったような痛さだ。 どうして、彼女はこれほどまでに自分を曝け出し、 痛めつけるのか。 彼女の作品の大半は私小説だ。 特に、「水辺のゆりかご」の中において、自分のい じめ体験や性的いたずらを受けたこと、どうしよう もない家族。そして、非行歴なども赤裸々に暴露し ている。ここまでやるかって作品だ。 もちろん、すべてが真実ではないだろう。しかし、 何がここまで彼女をかきたてるのか。 エッセイ、「仮面の国」における政治評論もしかり である。どうして、そこまで廻りと戦わねばならぬ のか。それは在日朝鮮人だからか。それとも柳さん の生き方なのか。生き方だとしたら悲しすぎる。 「命」においては、自分の不倫と父親のいない子供 を産んだ過程まで暴露し、『家族シネマ』や『フル ハウス』では、屈折した形で家族への憧れを表現し ている。 また、彼女の露骨な性描写は男性作家のようであり 、たぶん、女性から嫌悪のまなざしで受け取られる のであろう。 でも、彼女はその露骨な表現を続ける。少年の心理 を描くなら、男になって書いてやる。私は男だと叫 んでいるようにすら僕には思える。 とにかくスゴイ作家だ。 近来稀に見る才能の持ち主だ。彼女の中に、若き日 の中上建次を見るのは僕だけだろうか?。   柳美里さんの作品(僕が読んだ物です) 家族シネマ 芥川賞作品 ★★★★★ タイル ★★★ ★★ フルハウス ★★★★★ 命 ★★★☆☆ 水辺のゆりかご ★★★★★ 魚の祭 ★★★☆☆ 仮面の国 ★★★★★ ゴールドラッシュ ★★★★★ 家族の標本 ★★★★★ 自殺 ★★★★★ ★4つ以上はおすすめ作品です。      柳美里作品ベスト5  1位 水辺のゆりかご 2位 フルハウス 3位 自殺 4位 ゴールドラッシュ 5位 家族シネマ   柳美里作品の書評 ----------------------------------------------- --------------------------------- ★「 自殺 」 作、柳美里  **文春文庫** **エ ッセイ** ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介・・・自殺をテーマにしたエッセイ。 寸評もどき・・・驚いた。とにかく驚いた。 前半、高校生への講義とディスカッションが中心な んですが どう考えても、こんな話しを高校生が聞いてプラス にならないでしょと思った。 別に、高校生をガキだと馬鹿にしているわけではな いんです。 話しが過激すぎて、話し手の意図が違う風にとらえ られるのじゃないかと思ったのです。 ただ、考えは過激ですが説得力がとてもあります。 たぶん、おっしゃっていることは正しいからでしょ う。 寒気を感じるほどの説得力でした。 自殺を肯定するというスタンスにどうも僕はなじめ ない。それで恐怖を感じているわけです。 思想的には、何となく五木寛之さんに似ている感じ です。 本文を引用すると「そのひとの生が美しければ、死 も美しい」 つまり、死と生は避けられない。故に、意識しより よく生きよう、ということです。 年をとり、大便や小便をたれ流し、何もわからなく なるなら死を選ぶという 柳さんの言葉は重い。 それで本当に生きてるの?。確かに、そう思う。 高年齢者の自殺率が高いのもうなずける。安楽死に ついても、何故、駄目なのか 僕にも理解できない。たぶん、政権政党が、宗教団 体や医療団体から、多額の献金を受けているからだ と思う。 生きることの意味を考えず、ただ、時間をやりすご す、そんな人生は 死んでいるに等しいわけです。 だから、柳さんの死生観はよく理解できる。ただ、 あまりにも唐突だったので、 焦ったのです。読み手にも、事前の知識が必要みた いです。 そういうことは普段、考えないのですから・・・・ 2002 9/1 ★「家族の標本」 作、柳美里 **角川文庫** **エ ッセイ** ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介・・・家族をモチーフにしたショートエ ッセイ 寸評もどき・・・短編小説にしたら、10は書けそう だと思った。 それくらい中味が濃いい。特に、第1章の作品群はで きが良い。 幸せというのは何となく似通っているけど、不幸は その数だけの種類があると 誰かが言っていたが、それを作品にしてしまったの が、このエッセイだろうか もちろん、すべて不幸を表現した作品ではない。幸 せなものもある。 でも、作者が家族とは不幸なモノという基本的なス タンスを持っていらっしゃるようで どうしても不幸物語が多くなる。 それにしても贅沢なエッセイだなぁと思った。 2002 8/17 ☆ ゴールドラッシュ 作、柳美里 **新潮文庫** ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介 ・・・神戸で起きた14歳の少年Aの事件 をモチーフにした親殺し小説。 寸評もどき・・・ 「人を殺しては何故いけないの? 」改めて問われると答えにとまどってしまう。 こんな社会で、大人たちは子供を納得させる論理(抽 象的なものではなく)を提出できるのだろうか?。 少なくとも柳さんは、少年Aの視線でその問題を表に 出した。それがこの作品だ。成功したかどうかはさ ておき、この実験的な試みは尊敬に値する。 父を殺しても罪の意識をまったく持たない少年に、 僕は恐怖すら感じた。これは物語だ、だから、こう なんだと何度も何度も自分に言い聞かせてページを めくった。 人は、一皮剥けば誰しも自分勝手なところを持つ。 その仮面を被っているのは社会通念であったり、モ ラルであったり、両親・兄弟などの親族の情であっ たり、時には自己の保守的な思考などであったりも する。 だから、人はたいていの場合「殺したい」とか「殴 りたい」などという欲求を押し込める。 しかし、この少年の場合、家族の愛情も受けず、甘 かされて育ち、また、精神的な未発達な所もあり また、同情すべきは父親が人間の顔をした悪魔のよ うな人物であったことも関係し、ついに父親を殺害 してしまう。 物語の半分は、父を殺してからの部分である。少年 は父に代わって家族を支配し会社を支配しようと試 みる。 性欲に溺れ、人間不信にさいなまれ、だんだん、精 神を疲弊していく。 そのディテールの細かさは物語にリアリティを与え ている。 この作品は、柳さんの代表作の1つといえるだろう。 ☆ 家族シネマ 作、柳美里 ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介・・・20年前に分裂した失われた家族を 求め、映画出演を決めたある家族を描いたもの私小 説っぽい作品。 寸評もどき・・・とにかく話しに、いきなり引き込 まれてしまう。ノンフィクション映画で家族団欒を 演じる親子。個々の複雑な気持ちがうまく表現され てあり、胸に染み入る。ただ、陶芸作家の老人と主 人公の女性との奇妙な関係には、嫌悪感を感じた。 ☆ フルハウス 作、柳美里 ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介・・・私小説だと思われる短編が2つ。 寸評もどき・・・正直言うと、在日韓国人作家の書 く作品は、どこか陰気で屈折してて嫌なんだけど、 唯一例外的に読んでいる作家が柳さんだ。少し、前 から彼女の作品を読みはじめている。 この作品で3作目になります。 この短編集は、「もやし」と表題作の「フルハウス 」の2つの短編からなります。 「もやし」は不倫を描いた作品でした。柳さんっぽ いなぁという作品。 「フルハウス」こちらの作品は、ちょっとびっくり させられた。というか、久々に才能というのを見せ つけられた気がした。ストーリーは、単純、家をた てた父が崩壊している家族とそこに住もうとするが 、娘たちは嫌がる。 そして、なぜか父親は見知らぬホームレスを、その 家に住まわせる。そのホームレスたちが、一日ごと にその本性を露にしていく様は、純文学というより かホラー小説している。だいたい、柳さんの文章は 暗くじめじめしているので、こういう奇妙な世界を 描かせたら、ほんとピカいちなんだ。 とにかく、読んで欲しい。この作品だけなら、2時間 もかからない。でも、その内容は赤川次郎の小説10 冊分にも相当するだろう。とにかく、強烈なインパ クトだ。心にいやおうなしに押し寄せてくる物があ る、そんな作品です。いや、とにかくびっくりしま した。 ☆ タイル 作、柳美里 ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介・・・マンションの部屋にタイルをしき つめる男と、その部屋の大家で、時間と金をもてあ ました盗聴が趣味の老人が゜、ある女流作家を殺す という話し。 寸評もどき・・・読んでる時、ずっと、この作品の 作者が女性の柳美里だということを忘れていた。男 性のそれもかなり濃い花村萬月のような人を思い浮 かべていた。それくらいスゴイ!。 この作品の主人公の男は、かなりイカレてる。どう いう風にかというと、男は借りているマンションに タイルをしきつめようとするんだけど、その作業を する為に水着を買うんだ(この時点ですでに変である )。 デパートに行く、そして男は真っ赤な水着を手にと り試着する。店員に下着の上から、試着してくださ いと言われるが、じかに履く、更衣室から出た彼は 、それを買うのだが、商品はどこにもない。店員が 尋ねると、履いているというのだ。そういう異常さ を見せつけるエピソードが満載なんです。 読み物として、はっきり言って面白い、それに珍し い。柳さんの文章は力強い。だから、伝わってくる モノも強烈だ。これを純文学と読むか、それともホ ラーと読むか、それは個人の自由だと思うのですが 僕は、そこのところがよくわからなかった。モチー フが絞れない。でも、とにかく強烈な作品だった。 ☆ 魚の祭 作、柳美里 ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介・・・あまりおもしろくなかった。 ☆ 命  作、柳美里 ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介・・・作者の出産と東京キッドブラザー ズの演出家東由多加の死を描いた私小説。 寸評もどき・・・普段、女性作家の出産物や結婚ス トーリーは馬鹿馬鹿しいので読まないことにしてい る。 最初、この本もそういう理由で回避していたのです が、一月ほど前に偶然つけたテレビ番組「知ってる つもり」で、この本の内容が紹介されており、感動 したんです。それで読むことにしました。 この小説はかなり作者の正直な気持ちが書かれてい ます。だから、柳さんのことをよく思わない人も出 てくるかもしれないし、確実に柳さんの子供の父親 には敵意を抱くことでしょう。かなり最低な不倫野 郎です。 そんな男の子を産むほうも問題ありですけど。 そんな最低、嫌なことから逃げ逃げ男について、柳 さんはこんなことを言っている 人間ひとついいところがあれば それでいいのだ このダメ男の場合。子供を認知したことなんだろう 。ぐさっとくる言葉です。そんなダメダメトリプル 不倫男と別れた彼女は、余命8ヶ月と宣告された癌患 者東京キッドブラザーズの演出家東由多加と、どう いうわけか同棲生活をはじめる。この人が実に魅力 的なんです。この人なくしては、柳さんだけでは子 供は育てられなかったと思います。 散り行く生と与えられた生。この相反する概念のシ ンクロ。そこにこの小説の真髄があります。さて、 実際に読み終わると実は、テレビほどは感動はあり ませんでした。所詮テレビは作り物でしかありえま せん。いい所だけをつなぎ合わせているのです。 それに対して、この小説はありのままの自分をさら けだしてます。だから、読者は作者の柳さんに嫌悪 感を感じることもあり、子供の父親の不倫男に男の 情けなさを見ることでしょう。そこには濃密な時間 があり、空間がある。ありのままの感情の断片が剥 き出しに転がっている。変な例えをするならば、テ レビは買ってきたばかりの綺麗なパンティ。鑑賞に 耐える物です。そして、この本はさっきまではいて たパンティ。その生々しさに驚くことでしょう。そ んな風に僕にはこの作品は映りました。興味のある 人は読んでください。 ☆ 水辺のゆりかご 作、柳美里 ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介・・・在日朝鮮人作家が、自分の半生を 飾ることなく綴った私小説。内容は、かなり強烈。 寸評もどき・・・驚いた、言葉が出てこない、この 作品はそういう種類の作品です。 作者は、私小説を書く場合、多少なりとも無意識に 自己弁護するものです。自分に都合の悪いことは削 除したり、自分の都合のいいように解釈したり、し かし、柳美里にはそれがない。そこがこの作品の恐 ろしいところです。 まるで、この作者は自分にナイフを突きつけて、そ の流れ出る血を見て喜んでいるようにすら思えます 。 壮絶な両親との確執、悲惨としかいいようのないイ ジメの連続、性的いたずらをされた過去、自己の奇 行。 他人の数倍の人生を一瞬にして駆け抜け、傷つき、 ぼろぼろになっても立ちあがる。 自分の中の心の屈折を隠そうともせず、自己弁護せ ず・・・・ その取り組み方に、読んでいるこちらまで胸が苦し くなる。この作品はそんな作品でした。 ☆ 仮面の国 作、柳美里 ----------------------------------------------- --------------------------------- 作品の紹介・・・小説家の書いた政治コラムです。 独自の視点が新鮮。 寸評もどき・・・サイン会中止事件に端を発し、従 軍慰安婦問題、教科書を作る会、酒鬼薔薇聖斗・・ ・等々。 いろいろな政治問題を独自の視点で語っている。 個々の内容については、首をかしげたくなるような ものもありますが、読んで損のないコラム集でした 。 自分のために生きる、自分のために書くというのは くだらないなと思い始めたんです。  私が抱えている闇で、誰かの闇を照らしたいとい う気持ちはありますね。  それは光ではないんです。  私の闇で、今こう闇の中にいて出れない、出られ ない人を照らしたいなという気はしますね。    生きているってことは、私にとって書くこと、し かないんです。                 平成16年1月  NHK番組「わたしはあきらめない」にて  憎しみというのを考えます。  徹底的に憎しみあった者同士に和解があり得るの だろうかと。  たとえば、韓国と北朝鮮。イスラエル、パレスチ ナ。  憎しみというのは、とても強いもので、人の精神 を支える杖にもなり得ると  思うんだけれども、その杖を離した時に歩けるの かと。  その杖を離した手で抱き合えるのかと。  ということを考えるし、見ていきたいと、自分で 実践したいなと思います。           2001年1月 NHK番組 「21世紀旅立ちの日」にて  「家族シネマ」 「グリーンベンチ」 「ゴールドラッシュ」 「水辺のゆりかご」 「世界のひびわれと魂の空白を」 「命」 わたしは機械が大嫌いです。戯曲を書きはじめたこ ろはもちろん手書きだったんですが(原稿用紙も好 きじゃなくて、罫線のない真っ白なラクガキ帳に書 いてました)、コピーして役者たちに配ったところ 、本読みの最中に「この台詞、なんて書いてあるん ですか?」と頻繁に訊ねられ(悪筆なんです)、自 分の書いた台詞を音読するという恥ずかしさに堪え られず、丸井自由が丘店でワープロを購入したのは 、忘れもしない20歳のときでした。  5年間は失敗の連続で、全文削除のキーを押してし まっては、製造元のパナソニックに電話して、「ど うしたら消えた文章が出てくるんですか? 原稿用 紙50枚なんですよ。なんとか出してください」と涙 声で訴え、キーボードにジュースや日本茶をこぼし ては(飲みながら書くんです)、ドライバーでネジ をはずして分解し、キーボードの裏まで達した水気 をティッシュペーパーで拭き取ったものの、どのネ ジをどこに入れていいかわからずパニックになり、 号泣しながらワープロをぶん投げ(当時は何ヶ月も 温泉旅館にこもって書いていた)壁を凹ませて弁償 したり──、というようなことばかりでした。  ファックスを購入したのは「週刊朝日」の連載エ ッセイ(『家族の標本』)がはじまった25歳のとき です。原稿を送るだけだったらコンビニのファック スで十分だったんですが、ゲラのやりとりをしなけ ればならないといわれ、ワープロを買った丸井の家 電売場で購入しました。  ケイタイを持ったのは、インタヴューや対談など の待ち合わせ場所にタクシーで向かって渋滞に巻き 込まれた場合、必要不可欠だと思ったからです。電 話嫌いなので、基本的にはかけないし、鳴っても出 ないし、留守電も気が向いたときにしか(ひと月に 1度くらいかな?)チェックしません。  前置きが長くなってしまいましたが、わたしがい かに機械嫌いかということは解っていただけたので はないでしょうか。  だから、パソコンとは一生縁がないと思っていま した。作家という作家がひとり残らずパソコンを使 うようになっても、わたしは使うつもりはないし、 使うことなどできないと見向きもしませんでした。  しかし、ある事件がきっかけで、パソコンを使わ ざるを得ないはめに陥ってしまったんです。当時『 命』を連載していた「週刊ポスト」の飯田昌宏さん 宛てに私信をファックスしたところ、編集部の何者 かがそれをそのまま「噂の真相」に転送し、翌月に 全文が掲載される(手紙の写真まで載せられた)と いう事件が起きたんです。  編集部はわたしに謝罪し、別室に専用ファックス を置くなどの措置を講じたのですが、万全ではない とのことで、今後のやりとりはすべてメールにして ほしい、とパソコンが送られてきたんです。飯田さ んにメールの送受信のやりかたを教えてもらってい る最中に(おおげさではなく)何度も泣きそうにな り、そのたびに「柳さん、慣れれば簡単ですよ。泣 かないでください」と励まされました。  結局、原稿をパソコンで書くことも、インターネ ットサイトをひらくこともできず、メール専用とし て使いはじめたのですが、原稿の催促メールしか送 られてこないので、4、5日電源を入れないこともザ ラでした。  はじめて自分の名前をネットで検索したのは、 2002年9月24日に処女小説『石に泳ぐ魚』裁判の最高 裁判決が下った直後です。マスコミではなく、読者 がどのように思っているか生の声を知りたいと思っ たからです。そして偶然、「らばるす」というHNの 男性が開設していた『らばるすさんち』というHPに 辿り着いたのですが、あまりにもわたしの容貌や国 籍をあげつらった差別的な内容の書き込みが多かっ たので、読むに値しないと思ってひらくのをやめた んです。  翌月の深夜──、自死を考えていました。  だれかの声を聞きたくて、アドレス帳の名前を読 みました。  仕事相手ばかりで、電話できるひとがひとりもい ないということに愕然としました。  だれもいない。  だれかいない?  だれか!  無意識のうちにインターネットにアクセスして、 「淋しい」「助けて」と打ち込んでは検索している うちに、ふっと『らばるすさんち』を思い出し、ア クセスしてみたんです。  ──HPは閉鎖されていて、<引越し先>をクリッ クすると、掲示板に「管理人さんが自殺したそうで す。ご冥福を祈ります」というような書き込みがい くつもしてありました。  その瞬間、指先を通してなにかが伝わってきたん です。  それは、わたしを押し潰そうとしているのと同じ もののような気がしました。  数日後に、らばるすさんの弟のHAKKAさんから手紙 が届きました。   まず最初に、このようなお手紙を突然、お送り する無礼をお許しください。   この11月に兄が他界しました。  手紙には、自殺の状況、らばるすさんがわたしの 作品を愛読していただけではなく、サイン会に出掛 けたり、過去のインタヴューや対談などの掲載誌ま でネットオークションで買い集め、死後も、わたし がゲストとして登場した『おごってジャンケン隊』 が掲載されている「ビッグコミックスピリッツ」が 届いたということなどが書かれていました。   最後になりましたが、私が兄にしてあげられる 事として、真っ先に考えつ  いた事は柳さんにお弔いの言葉を頂けるようにが んばる事でした。   おねがいします。   一言で結構です。兄に弔いの言葉を頂けないで しょうか。  わたしは同封されていた(らばるすさんが書いた )わたしとわたしの作品についての文章を読みまし た(近い将来、このサイトでコンテンツに加える予 定です)。そして1日置いて何度も読み返し、深呼吸 をしてから返事を書きました。   わたしは、あなたのお兄さんについてなにも知 りません。弔辞を書くこ  とはある意味で容易いですが、なにも知らないの に弔辞を書くことは死者  に対して失礼ではないでしょうか。来年2月ごろに は時間ができると思い  ますので、是非、お墓参りをさせてください。そ してご遺族のみなさまに  お許しいただけるのであれば、彼の部屋に立ち入 らせていただき、そこで  生前のお話をおうかがいしたいです。彼は亡くな ってしまったのですから  知り合うことはできませんが、わたしが彼を知る ことはできます。  2002年2月、らばるすさんの部屋とお墓がある山口 県の萩を訪ねました。  そして、弟のHAKKAさんとの文通がはじまったんで す。  らばるすさんの死後、HPがアップされていたサー バの電源が落ちアクセス不能になってしまったそう ですが、掲示板(柳美里ファンBBS)だけはHAKKAさ んが管理を引き継いで生きていました。けれど、ら ばるすさんがこまめにレスを入れることによって成 立していた掲示板だったので、出入りするひとはめ っきり減り、廃れ果てていました。  5月の最後の日にHAKKAさんから手紙が届きました 。   HPの掲示板の件ですが、最近2chの人が減ってき たので落ち着いています。  書き込みしたい内容をメールしてもらえれば管理 人の名前を使って処理しま  す。最初だけその方法を使って、後は直接書き込 んで頂ければと思います。  きっと兄も参加してほしかったと思うので喜ぶと 思います。是非掲示板に参加  して下さい。  それから、毎夜眠る前に掲示板をチェックするよ うになり、書き込もう、とこころの準備が整ったの は、4ヶ月後の9月18日でした。  その後の、今日に至るまでの顛末は、「名づけえ ぬものに触れて」に書いてあります。  オフィシャルサイトLa Valse de Miriを開設する にあたって、わたしの願いは3つでした。  1) サイト名に「らばるす」を入れてほしい。  2) 彼が生前HPに載せていた文章を蘇らせてほしい 。  3) サイトオープンは、らばるすさんの誕生日の1 月7日にしてほしい。  サイトの制作・運営スタッフ(全員ボランティア です)がアイデアを出し合ってくれて、サイト名は La Valse de Miriに決まりました。  La Valse de Miri=美里の円舞曲。  ひとびとの円の中心で、わたしとらばるすさんが 踊る、くるくるくるくる、とても楽しそうに、くる くるくるくる、とても哀しそうに──。  わたしがこのサイトになにを求め、どのように関 わっていくのかは、これからすこ しずつ増えていく であろうコンテンツで判断していただくしかありま せん。  La Valse de Miri──、音楽が流れはじめました 。  わたしは、死者であるらばるすさんの手をとって ステップを踏んでいます。  あなた自身の思いに耳を近づければ聴こえるはず です。  あなた自身の想いに目をひらけば見えるはずです 。  さぁ、あなたも……。 2004年1月7日 3月6日A.M.1:00〜3:00にニッポン放送系列で、「柳 美里と奥田美和子のオールナイトニッポン」が放送 されました。当日のフォトレポートをお届けします 。 Photo&Text by Masaki Enomoto  新橋から新交通システムゆりかもめに乗って、静 寂に満ちた深夜のお台場をニッポン放送へと向かう 。窓から見える夜景が美しい。「お台場海浜公園」 から「台場駅前」に至る臨海地域は、お台場の中で もっとも美しいスポットのひとつだ。レインボーブ リッジを串刺しにするかのようにそびえ立つ東京タ ワーが遠望できる台場駅前の広場を横切り、ニッポ ン放送へと向かう。午後10時45分。待ち合せの時間 より早めの到着だ。  11時15分、柳美里さんニッポン放送入り。柳さん と会うのは、『石に泳ぐ魚』出版直後にインタビュ ーをするために鎌倉を訪ねて以来のことになる。以 後、柳さんとはメールや電話でコミュニケーション をとってきたが、約十五か月ぶりの再会がLa Valse de Miriのコンテンツのための取材になるとは、思い もしなかった。昨年から議論を重ね、オープンにこ ぎ着け、現在は軌道に乗りつつあるLa Valse de Miriだが、今回のレポート企画は柳さんの提唱に端 を発し、その後のサイト運営者間での議論と関係者 の全面的な協力によって実現したものだ。  柳さんや奥田さんのスタッフの方々とロビーで挨 拶を交わし、入館手続きを済ませたあと、局内へ。 案内された控室には奥田美和子さんを始め、所属事 務所やレコード会社の関係者、ニッポン放送の方々 など、多くの人たちがすでに待機していた。局に入 った時点から同行取材は始まっている。柳さんに密 着する形でビデオは回され、デジカメによる撮影も 開始された。  今回の取材では、現場にモバイル環境を持ちこみ 、サイトのトップページにリアルタイムで写真をア ップするという試みが行なわれた。デジカメで数シ ョットを撮影後、写真データをSDカード経由でノー トパソコンに転送、写真をセレクトし、画像ソフト で写真をリサイズ&色補正し、htmlのソースを書き 換え、ftpでデータをサイトにアップする。PHSのデ ータ通信を使ってサーバに接続できるかどうかが最 大の問題点だったが、深夜の時間帯ということもあ り、まったく問題なく64kbpsの速度でアクセスする ことができた。ノートパソコンと通信環境さえ整え ば、現場レポートが簡単に実現できることを、今回 証明できたように思う。確実な回線の確保は、写真 のリアルタイムのアップだけでなく、現場から「お しゃべり喫茶 じきる」にアクセスし、チャットに参 加するという試みも可能にした。こうした実験的挑 戦をさらに推し進めていけば、チャットとリンクさ せたインタラクティブな番組企画の可能性につなが っていくのではないか。そんな思いにとらわれた。    関係者一同、控室からスタジオへ移動。といって も、編成局とスタジオはつながっていて、オフィス の片隅にスタジオが併設されているような感じ。ス タジオは放送機材が設置されているコンソールルー ムと、防音ガラスで隔てられたブースとに分かれて いる。すでに番組スタッフはコンソールに向かい、 事前準備の作業を行っていた。ここで、本日の放送 担当者の方々にご挨拶。番組のディレクションを執 られるのは製作部の松島宏さん。本番まで1時間15分 を切り、柳さん、奥田さん、松島さん、そしてブー ス内で指示を出す担当者の4人で、さっそく事前打ち 合わせに入った。張りつめた緊張感はまだないが、 On Airに向けて徐々に期待が高まっていく。柳さん と奥田さんの関係者の数は10名ほど。全員がスタジ オ内を自由に移動し、状況を見守っている。  台本の流れが確認され、注意事項やポイントが、 ディレクターから柳さんと奥田さんに一つひとつ丁 寧に伝えられていく。CM入りの際に使用する、曲に 乗せたタイトルコールが数パターン、音楽担当者に よって作られていく。動きに少しの無駄もない。今 回の取材で感じたのは、ラジオ放送の現場で働く人 たちのプロ意識の高さ、無駄のない動きによってひ とつの番組を少人数で作りあげていく連携力の強さ であった。    時間は刻々と、番組開始時間の午前1時に迫ってい く。柳さん、奥田さんとも台本に書き込みを入れ、 読むべきコメントや本番の流れなどを入念にチェッ クしあい、集中力を高めていることがうかがい知れ る。その緊張感が、スタジオにも徐々に伝播してく る。オープニング部分のリハーサルが行われたが、 ふたりの息はぴったり合っている。本番3分前、スタ ッフ以外はブース外に退出。いよいよOn Airである 。  番組で最初に流された曲は奥田さんの『青空の果 て』。「南校舎」「保健室」「校庭」など“学校を めぐる風景 ”に絡めつつ、『青空の果て』は「16の わたし」の思春期固有の情動を静かにうたいあげる 。居場所を求め続ける「わたし」の姿には、『水辺 のゆりかご』の世界を彷彿とさせるような切実な青 春像が集約している。ブランコの揺れに重ねあわせ るようにして、生と死のはざまをたゆたう「わたし 」の心情を囁きかけるような歌声とアコースティッ クな曲調に乗せて表現したカップリング曲『ブラン コに揺れて』ともども、柳さんの初プロデュース、 シングルCDの中心にあるのは、生と死の微妙なバラ ンスの上に成り立った危うげな生の定義とでもいう べきものだ。  ここにあるのはまさに柳美里的世界であり、奥田 美和子という身体を通して、柳さんは固有の表現世 界をつくりあげている。柳さんはあるラジオ番組で 、かつて劇団を主宰していた経験をもとに、戯曲を 書き演出を行い俳優の身体を通して表現活動を行う ことと、歌詞を書きみずからプロデューサーとして 関わり、歌い手の身体を通して世界を作りあげる作 業の共通性について語っていたが、作家柳美里が歌 手奥田美和子にコミットする動機の中心には、他者 の身体を介した表現への欲望といったものがあるの かもしれない。 「柳美里と奥田美和子のオールナイトニッポン」の テーマは、「わたしを変えた出会い」。柳さんと奥 田さんのもはや伝説化されつつある、劇的な「出会 い」を踏まえて設定されたテーマだと思われる。柳 さんと奥田さんは、このようなテーマ設定でありが ちな感動的な出会いではなく、「ちょっとヤバイ」 「ちょっとアブナイ」出会いについてのメッセージ を期待する呼びかけをリスナーに行った。  ブースを臨むコンソールの右側には松島さん、そ の左にミキサー担当者、さらにその左には番組で流 す曲の音源を準備する担当者が控えている。コンソ ールから離れた右側の壁際にはインターネットに接 続した端末が置かれていて、リスナーから寄せられ るメールをリアルタイムでチェックする担当者が作 業をしている。メールをチェックするごとに、メー ルソフトEudoraの受信告知音がコンソールルームに 鳴り渡る。具体的な数はわからないが、番組中、そ して終了後も常にメールは届いていた。ファックス 分を合わせ、メール担当者が番組で使用できそうな メッセージをピックアップしていく。  この日、電話出演したリスナーは、風俗で働く女 の子との関係に悩む男性、昔恋人だった男性との友 情をキープしていく難しさを訴える女性、子供が生 まれて初めて家族を実感することができた主婦の3名 。中でも印象に残ったのが、最初に登場したヒロマ サさん。彼はある風俗嬢の元に客として通い始める が、彼女の個人的な悩みを聞いたりしているうちに 次第に心魅かれていく、そうした中、彼女に200万円 の借金があることが判明し…、というシリアスなス トーリーだった。ディレクター側では、話の結論と して「これは恋愛なのか」という方向にナビゲート したかったようだが、実際には「彼女のために200万 円働いて稼げ」という突拍子もないアドバイスに落 着してしまった。これにはスタッフ一同大ウケ。一 気に場が和む。  リスナーからの投稿によって成り立つ深夜番組の 性格上、リスナーのメッセージに比重が置かれるの は当然だが、個人的には柳さんと奥田さんの対話に 期待していた。奥田さんに手紙のような歌詞を書く 柳さん。その歌詞をうたうことで柳さんへのレスポ ンスとする奥田さん。メールや電話でコミュニケー ションすることはほとんどなく、今回の放送がこれ まで語り合った中で最長時間になるだろうと番組の 中で話していたふたりだが、彼女らの関係は楽曲の リリースという共同作業に純粋に集約しているとい う点で特筆されるべきかもしれない。  番組中、柳さんは奥田さんについて多くを語った が、その中でもっとも強く心に残った言葉がある。 それは、「奥田さんには自意識がない」というひと 言だ。過剰な自意識と格闘せざるを得ない演劇や文 学の世界で表現活動を行ってきた柳さんにとって、 まっさらな状態で歌に向かう奥田さんの姿は新鮮な 驚きだったのだろう。「自意識がない」とは換言す れば「葛藤がない」ということであって、その何も のにも染まりうる奥田さんのニュートラルな精神の ありようが、柳さんとのコラボレーションをプラス に方向づけたというふうに考えることができる。  今回のオールナイトニッポンは、奥田さんのニュ ーシングル『歌う理由/はばたいて鳥は消える』の プロモーションの要素を含んでいる。「あなた」と の幸福な日々を囁くような声で切々とうたう前半。 一転して、「あなた」との別れを経た「わたし」が 、激情をこめて「歌う理由」についてうたい上げる 後半部分。『歌う理由』は、歌うことを宿命づけら れた歌手がまさに歌う理由を歌によって語りあげる という、きわめてアイデンティカルな楽曲である。 ここでの「歌う」とは、「書く」という言葉に等号 化されうる。この曲は、柳さんにとっての「書くこ と」の意味が重層的に織りこまれた作品として聴く こともできるのではないだろうか。  通常のシングルCDのような曲と曲の間のタイムラ グがほとんどなく、『歌う理由』と連続した曲のよ うな印象を与える(もちろんこれは、制作者によっ て採用された仕掛けだろうが)『はばたいて鳥は消 える』は、「ぼく」の魂の叫びを痛切に伝える。「 引き裂かれ」「突き刺され」「切り取られ」「押し 潰され」「磨り減らされ」「打ち砕かれ」といった 世界からの抑圧を意味する受身の複合動詞の反復的 な連鎖、「〜しろ」「〜するな」という命令形の活 用、そして断定的な文末表現が特徴的な歌詞だ。小 説家柳美里がもつ言葉の強度をここかしこに認める ことができるすばらしい詞だと思う。自身を鼓舞す るかのような、時に凛々しささえ感じさせる意志に 満ちた言葉の束は、「ぼくは歌う」というフレーズ めざして突き進んでいく。ここに『歌う理由/はば たいて鳥は消える』という、「/」で区切られつつ も連続した両A面でリリースされた最新シングルの共 通テーマは読みとられるべきであると思う。  番組の後半で、柳さんは番組のテーマを締めくく るかのように、自身の現在的出会いについて語った 。個人的なことであるし、いずれ柳さん自身によっ て語られるはずなので、われわれはその時を静かに 待つべきだと思う。柳さんと奥田さんの出会いが単 なる出会い以上のものであったように、柳さんと「 彼」の出会いも偶然だけに委ねられたものではなか ったはずだ。村上龍の『KYOKO』の中に、私の好きな 次のようなフレーズがある。「何かを探し求めてい る奴だけが、何かに出会う」。そう、外部を意識し ない限り、他者との出会いはない。柳さんも奥田さ んも、他者との出会いへの意志を常にキープし続け た。その結果として、ふたりのコラボレーションが あり、今回の放送の実現があり、ふたりとリスナー たちの出会いがあり、さらに付け加えさせてもらう ならばLa Valse de Miriの私のレポートがある。そ れらすべてを、ひとつの奇跡として受けとめたい。 それが、同行取材に臨んだ私の現在の率直な「感想 」である。 1968(昭43)年6月22日、神奈川県生まれ。 高校中退後、劇団「東京キッドブラザース」に入団 。女優、演出助手を経て、86年、劇団「青春五月党 」を結成。 93年、『魚の祭』で、第37回岸田國士戯曲賞を最年 少で受賞。 94年、初の小説作品「石に泳ぐ魚」を、「新潮」に 発表。 96年、『フルハウス』で、第18回野間文芸新人賞、 第24回泉鏡花文学賞を受賞。 97年、「家族シネマ」で、第116回芥川賞を受賞。 99年、『ゴールドラッシュ』で、第3回木山捷平文学 賞を受賞。 01年、『命』で、第7回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリ ズム賞作品賞を受賞。 戯曲として、『静物画』(91年)、『向日葵の柩』 (93年)、『魚の祭』(96年)、『グリーンベンチ 』(94年)が、小説として『フルハウス』(96年) 、『家族シネマ』(97年)、『水辺のゆりかご』( 97年)、『タイル』(97年)、『ゴールドラッシュ 』(98年)、『女学生の友』(99年)、『男』(00 年)、『命』(同)、『魂』(01年)、『生』(同 )、『声』(02年)、『ルージュ』(01年)、『石 に泳ぐ魚』(02年)が、エッセイとして『家族の標 本』(95年)、『柳美里の「自殺」』(同)、『私 語辞典』(96年)、『窓のある書店から』(同)、 『仮面の国』(98年)、『言葉のレッスン』(同) 、『魚が見た夢』(00・10)、『言葉は静かに踊る 』(01年)、『世界のひびわれと魂の空白を』(同 )が、福田和也氏との共著として『響くものと流れ るもの』(02年)などがある。 柳美里(YU MIRI) ----------------------------------------------- ---------------------------------  昭和43(1968)年、神奈川県横浜生まれ。 6月22日生まれ。蟹座。A型。  横浜共立学園高等学部を中退後、劇団「東京キッ ドブラザーズ」を経て、昭和63(1988)年、 18歳で単身、劇団「青春五月党」を旗揚した。劇 作家兼演出家となる。  平成5年(1993)年、『魚の祭』で第37回 岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。 平成8(1996)年『フルハウス』で第24回泉 鏡花文学賞、第18回野間文芸新人賞、 平成9(1997)年『家族シネマ』で第116回 芥川賞を受賞。 気になるキャラクターは? (Qoo、スヌーピー、 アニメ、etc...) ●「ゆびのりピピ」の「くろまめ っピ」。 行ってみたい国は? またその理由。●南極。北極 。  ひとがいそうもないから。国に属してないから。 最近のオダギリジョー(exドラマ「ビギナー」等 )の髪型についてどう思いますか?●だれ?(テレ ビ観ない) 得意料理は?(「お惣菜コーナー」、「コンビニ」 etc...、という回答もアリ)●卵焼き。 お気に入りの映画は? またその理由。●パトリス ・ルコント監督「歓楽通り」。 「仕立屋の恋」「髪結いの亭主」などで物語や映像 をひねりまくったルコントが、主旋律だけで表現し ていると思うのだが、そのシンプルさが好きだし、 単純に映画は哀しくなければ観る気がしないので、 最近観たなかではいちばん哀しい映画です。 お気に入りの自作は? またその理由。 ●答えられ ません。  たとえば、子どもが10人いるとして、「どの子 がお気に入り?」と訊かれて答えられないのと同じ 。 自分の身体でチャーミングだと思う場所。●自分で 自分の身体をチャーミングだといえるひとは嫌い。 自分のことが作品に影響していたりしますか。●こ ういう質問は嫌い。 作品の中の人物は自分の中ではどうなっているので しょう。●わからない。 朝起きて最初にすることは何ですか。●自己嫌悪に 陥る。 初めての小説を書き上げたときや、物書きとして生 きていこうと決心したとき、どのような気持ちでし たか?●こういう質問も嫌い。 文章を書く以外の仕事をしろ、と言われたらどんな 職を選びますか? 一度は体験してみたい職業があ ったら教えて下さい。●選ぶんだったら、絵描き、 昆虫蒐集家、専業主婦。  一度だけ体験できるんだったら、小説家以外のす べての職業。 いままで発表した作品の中で、一番気に入ってる場 面、言葉はありますか?●本になった作品はひとり ひとりの読者のものだと思うので、作者であるわた しが口にしてはいけないと思う。 柳さんの記憶の中にあるもっとも古い情景について 教えてください。●幼稚園の夏休み、虫カゴもアミ もまだ持っていなくて、手づかみでアブラゼミを獲 ろうと思って、一歩一歩大きな木に近づいている・ ・・・・・。 インターネットにどのようなイメージをもっていま すか。●わたしにとっては、真夜中に窓を開けて、 誰か助けて、と叫ぶことに似ている。 四季の中で、いちばん好きな季節を教えてください 。その理由も。●真夏。蝉時雨を聞きながら息絶え る気がする。 SEX抜きの恋愛というのは考えられますか。●相手に よるな。 これまでの人生の中で、いちばん恐ろしい体験は何 ですか。●現実のなかで口に出せないから、虚構の なかに刻みつけている。 好きな音楽のジャンル、あるいはミュージシャンは ?●ビリー・ホリデー。ジャニス・ジョプリン。 いま一番魅力を感じる人は? (同性でも、異性でも )●ナイショ。 同時代の作家の中で気になっている人を教えてくだ さい。●ナイショ。 24時間だけ、なんのしがらみもない身になれるとし たら何をしたいですか?●好きなひとといっしょに いたい。 今までに出会った人の中で、一番自分に近しいと思 えた方は誰?●東由多加。 好きなブランドは(洋服、コスメ、万年筆、など思 い浮かぶ限り)?●ブランドでは選ばない。 具体的な読者をイメージして作品を書くことはあり ますか。●ない。 もし世界にあなた一人しか居なかったら、何をして 過ごしますか?●生まれてからいままでのことを振 り返る。 好きな味は?(甘い、辛い、苦い、塩辛い、酸っぱ い等)●駄菓子の味。お茶漬けの味。 新しく挑戦してみたいことなどありますか(再挑戦 も含む)?●役者(再挑戦)。 いま居る場所の空模様を教えてください。●夜だか らわかんない。 自分を漢字一文字で表すとしたら?●「私」 『フルハウス』 柳美里 by YU Miri ISBN4-16-316310-7 amazonで見る 1996年/文藝春秋 1165円+税 装幀:中島かほる 装画:望月通陽柳美里の本を読むのは実は初めて。作 品について知る前に先に彼女自身についての情報が あまりに入ってきてしまったせいかもしれません。 自殺マニア、不倫、親との不仲……なんかどれもケ ッという感じだった。だいたい作家がそこまで自分 を出してくるなよ。本書も口絵に篠山紀信によるポ ートレートがあるけれど、これまたケッという感じ 。 高校で図書館司書をしている知人Z嬢が以前「この 人って典型的ないじめられっ子の顔をしている」と 言っていたけれど、確かにそんな気がする。いじめ られたのは民族的な理由だけじゃないと思うよ。 と、まあ敬遠していたのだけれども、買わないよう な本を読めるのが図書館のいいところ。最初にこれ を選んだのは、たまたまこれしかなかったから。人 気あるんですねえ。 で、読んでみる。「フルハウス」と「もやし」の2 編。「フルハウス」は例の、お父さんが勝手に家を 建てて、そうすれば家族が一緒に暮らすと思ってい るという、柳の家の話。読んでいないけれど『家族 シネマ』もこのネタなんですよね? 私生活をネタ にする作家はたくさんいるし、別にそれは悪くない 。宮尾登美子の女衒の話なんて、部外者には書けな いし、先月読んだ伊藤比呂美も然り。でも伊藤の家 が、「子どもたちはどうなったんだろうか」とか心 配になってその後を読んでほっとしたりするのに対 し、柳の家は「もう、その件はいいよ」という気分 になってしまう。 言葉の使い方もなんかうっとうしい。「胡乱に思う 」なんて普通使うか? でもこのいちいち気に入ら なく思ってしまうところが、Z嬢の言ういじめられ っ子の要素なのか? 「もやし」の方は不倫物。で、また著者の話か?と 思ってしまう。これがまた、不倫、おかしくなった 妻、世間体を気にする姑、見合いの相手は精神薄弱 のマザコン、その母は占いを信じ……とよくもまあ 不快になるようなものをこんなに集めてきたな、と いう感じ。小説がエンターテインメントだとしたら 、こんな不快なものはイヤだな私は。 と、初めての柳美里は気に入らなかったのだけれど 、作家を評価するには最低でも2冊は読むようにし ているので(それで山田邦子も横森理香も2冊ずつ 読んだ、2冊読んでも評価は変わらず)……でもす ぐ次を読む気にはちょっとなれません。またいずれ 。 そういえば最近週間ポストで、「妊娠実況中継」み たいなことをやってますが……またまたケッ。