占星コラム


2010/10/9 60分割図の活用について

インド占星術で分轄図を学習していくと、非常に興味深く思われるのが、パラシャラが示した各分割図の重要度の序列である。

各分割図に点数を振った中で、ラシチャート(出生図)と、ナヴァムシャ(D/9)が、それぞれ3.5点、3.0点と重要なのは分かるが、シャシティアームシャ(D/60)が4.0点と、ラシチャート以上に最も重要なチャートと位置づけられている点が非常に興味深いのである。

分割図名 D 意味 点数
ラシ Rashi D/1 肉体的特徴 3.5点
ホラ Hora D/2 富と繁栄 1.0点
ドレッカーナ Drekkana D/3 兄弟姉妹 1.0点
チャトルシャームシャ Chaturthamsha D/4 幸運と住居 0.5点
サプタームシャ Saptamsha D/7 子孫 0.5点
ナヴァムシャ Navamsha D/9 配偶者 3.0点
ダーシャムシャ Dashamsha D/10 職業 0.5点
ドヴァダシャームシャ Dwadashamsha D/12 父母 0.5点
ショダシャームシャ Shodashamsha D/16 乗り物の苦楽 2.0点
ヴィムシャームシャ Vimshamsha D/20 精神的追求 0.5点
チャトルヴィムシャームシャ Chaturvimshamsha D/24 教育・学習 0.5点
バームシャ Bhamsha D/27 強さと弱さ 0.5点
トリムシャームシャ Trimshamsha D/30 苦悩・困難 1.0点
カヴェーダムシャ Khavedamsha D/40 慶弔 0.5点
アクシャヴェーダムシャ Aksha-vedamsha D/45 全部 0.5点
シャシティアームシャ Shashtyamsha D/60 全部 4.0点
20点

参考文献:
『ラオ先生のやさしいインド占星術』 (原題:Learn Hindu Astrology Easily) p.180-181
『ラオ先生のインド占星術-運命と時輪-』上巻 (原題: Astrology,Destiny, and the Wheel of Time)p.124-125

『運命と時輪』上巻P.124には以下のように書かれている。

経験豊富な占星術家なら誰でも、出生図、ナーヴァンシャ、シャスティヤーンシャ(60分割図)を使います。これこそが、もっとも重要な3つのホロスコープです。

シャシティアームシャ(60分割図、以下、D/60と表記)は、出生図(D/1)上の一つの星座を60分割するため、30°÷60=0.5°の幅を持っている。

ラグナが1°移動することが時間にして4分に該当する為、0.5°の幅というのは時間にして2分の幅である。

つまり、出生時間が分単位まで正確で、特に60分割のそれぞれの境界線付近にラグナが位置する場合には、秒単位まで出生時間が特定されていないと使えない分割図である。

このように出生時間を分秒単位まで正確に修正できていないと使えない分割図であるため、ジョーティッシュを学習する者でも、最初のうちは全く意識していない分割図であり、自分のチャートの60分割図を見たことがない人も多いのではないかと思われる。

分割の細分化が進めば進むほど、特殊な事柄を見る場合に使うといった用途も専門化が進むようであるが、この60分割図は、【全部】(All Area)を見るチャートであるとの意味が注釈されている。

この細分化が進んだ60分割図が、パラシャラが、ラシ、ナヴァムシャよりも重要と位置づけていることが非常に興味深いのであるが、それは何故なのか?どのようにして、ラシ、ナヴァムシャよりも重要であるのか?当初、ジョーティッシュの学習を進めていく過程で、浮かんできた疑問である。

然し、自分の60分割図を検討してみて、やはり、この分割図はD/9などと同じように自分の本質を表しているチャートで、ラシと同じように解釈できるのではないかというのが最近の印象である。

最近、鑑定に来られたクライアントの方で、双子の一卵性双生児の方のチャートを見る機会があったのであるが、まさに60分割図の使い方について考察するのに非常に興味深い事例があったのである。

このクライアントの方の許可が得られたため、今回、この双子の姉妹(姉:Aさん、妹:Bさん)のチャートについて検証して見たいと思うのである。

まず、AさんとBさんは双子の姉妹で、誕生時間も18:55と19:03と8分しか違わず、同じ獅子座ラグナで、分割図も、 ダーシャムシャ(D/10)までラグナの位置は全く同じである。

今回は、Bさんから、何故、誕生時間がほぼ同じにも関わらず、Aさんは結婚して子供も2人産んでいるが、Bさん自身は結婚もしていないし、子供も産んでいない、その違いは、分割図に表れているのか、調べて欲しいという依頼であった。

Aさんは、月/月期に結婚しているが、月はナヴァムシャの7室に在住しており、7室にダブルトランジット(以下、DTと表記)していたことから、結婚のタイミングであることが分かる。

第一子出産が月/火星期で、マハダシャー、アンタラダシャー共に5室、9室に絡んでおり、9室にDTが形成されており、出産のタイミングである。

(※因みに、もし乙女座ラグナであるとすると、月は11室支配で4室に在住し、火星は3、8室支配で12室に在住し、8室にDTが生じるため、この時点で、乙女座ラグナでは全くないことが分かる)

日付 出来事 V.Dasha 考察 Chara Dasha 考察 Transit

1994年11月30日

結婚 月/月 月はD/9で、7室に在住 射手座-射手座 説明不可
(※射手座から7室にAKの火星がアスペクト?)
〜11/9まで
木星=3室、土星=7室
DT=7室、9室
1995年9月29日 長女出産 月/火星 月は5室に在住し、火星は9室の支配星 山羊座-射手座 射手座から5室にAmkが在住し、PK、DK、AKがアスペクト 木星=4室逆行
土星=7室
DT=9室
2001年7月27日 次女出産 月/水星 水星は9室支配の火星からアスペクトされている 山羊座-双子座
山羊座-牡牛座(7/27〜)
双子からみて5室にAK、DK、PKがアスペクト
双子からみて9室にAmkがアスペクト
木星=11室
土星=10室
DT=9室
1998年5月末 入院 月/木星 木星は8室の支配星 山羊座-乙女座 乙女からみてAmkが8室
乙女からみてAKが12室
乙女からみてDK、PKが6室
5/30〜
木星=8室
土星=9室
DT=8室(原因不明)

第二子出産が月/水星期であり、月は5室に在住し、水星は9室支配の火星からアスペクトされている。
DTが9室に形成されており、この時期も出産のタイミングであることが分かる。

このようにAさんの結婚、出産は、ダシャーとトランジットから説明可能である。

乙女座ラグナに設定しても全く説明できないことから、少なくともラグナは獅子座で間違いなく、またナヴァムシャのラグナも射手座で問題ないはずである。ナヴァムシャ(D/9)の幅は3°20'あり、時間にすると13分20秒である。

ナヴァムシャのラグナが射手座だと、月/火星期に出産したのは、MDLの月が5室支配の火星からアスペクトされており、ADLの火星は5室の支配星であり、出産を説明できる。

然し、ナヴァムシャのラグナが山羊座だと、火星は4、11室支配で、12室に在住し、月は7室支配で6室に在住するため、全く説明できなくなってしまう。

更にナヴァムシャのラグナを蠍座にすると、月/月期に結婚した理由が説明できなくなる。


このようにおそらく出生時間は正確なのであり、AさんとBさんは、ダーシャムシャ(D/10)まで、全く同じチャートの為、何故、Aさんは結婚し、出産して、Bさんは結婚も出産もしていないかをラシ(D/1)やナヴァムシャ(D/9)では説明できないのである。

また、 サプタームシャ(D/7=子孫)でも説明できないため、おそらくD/7は重要な分割図ではないのである。

パラシャラもD/7には、0.5点しか与えていないようである。

それではこの違いはどこに現れたかというと、シャシティアームシャ(60分割図)を見ると、 Aさんはラグナロードの土星が5室に在住し、5室支配の水星と接合している。

月から見ても5室定座に金星が在住しており、5室(子供)の象意が強いことが分かる。

また7室を見ると、木星が在住しており、7室支配の太陽が高揚して、7室に在住する木星からのアスペクトを受けている。

7室に木星が在住していることから、配偶者に恵まれることをチャートは強く表示している。

一方、Bさんは、ラグナロードの水星が1室に在住し、9室支配の土星が1室に在住して、1室で、1−4、1−9のラージャヨーガを形成している。

これは1室と9室との関わりがあるため、宗教や精神性(9室)を求めたり、グル(9室)を求めて、自己実現(1室)を追求する配置である。

また5室にはラーフが在住し、3室支配の太陽と、減衰する6室支配の火星からのアスペクトを受けており、5室支配の金星が12室に在住しているため、5室に凶星が絡んで、5室(子供)の象意が傷ついていると言えるのである。5室支配の金星が太陽、土星から挟まれてパーパカルタリヨーガを形成していることもこの傾向を更に強めている。

またラグナからみた7室には木星が在住していないことも、結婚しなかった理由として考えると納得できるのである。

Aさんの60分割図 Bさんの60分割図

Aさんにとっては子供運として働いた土星や水星の絡みが、Bさんにとっては、霊的探求や自己実現として表現されたようである。

Bさんに過去の経歴を伺うと、宗教や霊的探求に熱心で、自己啓発など、自己実現というテーマの中で、人生を歩んでいるようである。

例えば、マハダシャー月期は月が12室支配で5室に在住しているが、この時期にAさんは、2人の子供を出産し、子育てに没頭したのである。

然し、Bさんは マハダシャー月期には気学や滝業をやったり、1995年のマハダシャー月期に入った直後から7年間、野口晴哉氏の整体を勉強していたそうである。 また次のマハダシャー火星期には、ナポレオンヒルの成功哲学やマーフィー博士の潜在能力開発などの教材で、自己啓発的な活動に取り組んだそうである。

つまり、Bさんは、マハダシャー月期のほとんどを、気学や滝業、整体などの霊的な関連領域の教えの学習に費やしたようである。

これは12室支配の月が5室に在住している象意であり、 気学のような微細な霊的教え(12室)、医療補助的な知識(月)、滝業(密教や修験道、神道の修行方法の一つ=12室)に関する学習(5室)をした時期である。

Aさんが出産した時はいずれも9室にダブルトランジットしていたのであり、Bさんがその時、グルについて霊的実践(9室)を行なって学習(5室)をしていたとしても、パラシャラのロジック的には全く矛盾はないのである。

このシャシティアームシャ(D/60)において、AさんとBさんの生き方、人生に大きな違いが生じたと考えると、D/60は、究めて重要なチャートであるといえる。

霊的な目的がある人は、結婚や出産をしない人生をあえて選択するということがよく言われることである。

シャシティアームシャ(D/60)にそのような人生の根本的かつ、重要な違いが確認できるとすると、この分割図にパラシャラが4.0点を与えている理由が分かってくるのである。

こうした上記の分析が正しいのか、間違っているのか確証はないが、このケースは、出生時間が18:55、19:03と、非常に正確で信頼できそうな印象を与えるデータであるため、今回の検証はかなりの確率で正しいのではないかと思われる。

因みにAさんとBさんは舞台や音楽など、趣味の趣向などは非常に似通っているそうである。

こうした特徴は、ラシ、ナヴァムシャで確認できる特徴を共有していると思われるが、もっと深いレベルの根本的な生き方の部分における識別において、全くラシや、ナヴァムシャチャートは役に立たなかったということである。

占星術師は、出生時間の分単位まで特定し、必要ならば秒単位まで修正して、D/60も見るべきである。



(参考文献)

『ラオ先生のやさしいインド占星術』 (原題:Learn Hindu Astrology Easily) p.180-181

『ラオ先生のインド占星術-運命と時輪-』上巻 (原題: Astrology,Destiny, and the Wheel of Time)p.124-125