| 2007/12/30  ブット元首相暗殺について 
 8年ぶりに帰国し、政権への復帰を目指していたパキスタンのブット元首相が27日、イスラム原理主義者の自爆テロで、暗殺された。産経新聞の記事を以下に引用する。 
           
            | ブット元首相暗殺 懸念現実 パキスタン情勢重大局面 12月28日8時1分配信 産経新聞
 
 【バンコク=菅沢崇】 パキスタンの首都イスラマバード近郊のラワルピンディで27日、支持者らの集会に参加したブット元首相(54)の近くで自爆テロとみられる爆発や発砲があり、フランス通信(AFP)は内務省当局者の話として、元首相が死亡したと伝えた。治安当局が厳戒態勢をしくなか、元首相の出身地、南部シンド州で放火などの暴動が起きたとの情報もある。 
              民主化を求めてきた元首相が暗殺されたことで、来月8日実施予定の総選挙を含め、パキスタン情勢が混迷の度を深めるのは確実だ。ブット元首相はこの日、ラワルピンディの集会会場で支持者らを前に演説を行っており、爆発は演説の終了前後に起きた。警察当局によると、自爆テロ犯は爆弾を爆発させる前に元首相に対して発砲したとみられ、元首相は首に被弾していた。元首相は直後に病院に搬送されたが死亡した。 
               爆発により、元首相のほか集会の参加者や警察官ら約20人が死亡、多数が負傷した。現場周辺にはばらばらになった被害者らの体の一部が散乱、爆発の威力の大きさをうかがわせた。ブット元首相暗殺の報を受け、米英や隣国インドなどが一様にテロを非難、国連安保理は緊急会合を開く見通しだ。現地からの報道では、パキスタンのムシャラフ大統領はテロを強く非難するとともに、関係閣僚と緊急会合を開き、今後の対応を協議した。 
               パキスタン人民党(PPP)を率いるブット元首相は総選挙への出馬を目指し、10月18日に8年以上にわたった事実上の亡命生活を終えて帰国した。米国の仲介でムシャラフ大統領との連携を模索する一方、11月下旬に辞任するまで陸軍参謀長を兼務してきた大統領の強権姿勢を批判、民主化を求めていた。 
               7月に首都イスラマバードでモスク籠城(ろうじょう)事件が起きた際、元首相は立てこもったイスラム過激派への武力行使を支持し、過激派とも敵対関係にあった。帰国直後には元首相のパレードの車列を狙ったとみられる自爆テロで約140人が死亡、500人以上が負傷しており、常に襲撃される危険にさらされていた。 
               ラワルピンディでは27日、シャリフ元首相が率いる別の野党集会でも発砲が起き、4人が殺害された。
 |   米国版 wikipediaで確認すると、彼女の出生データは、[ 1953 / 6 /21 Karachi, 
          Pakistan (67E03 24N52) 時間不明 ]であることが分かる。出生時間が分からないため、12:00で作成すると、現在、彼女はマハダシャー土星期である。
 これは出生時間が変わっても同じである。
 
 このように出生時間が分からないでも、現在、マハダシャーが何であるかを検討することは可能である。
 そして、アンタルダシャーがどこかを検討する前に、今回の暗殺のような場合、まず、火星や土星、そして、6室、8室、そして、マラカの2室、7室などが絡んでいることが予想できるのである。
 特に経歴を見た場合に、彼女の父親は軍事クーデターを起こした政権によって処刑されており、その9室の象意が非常に傷ついている印象である。そこで、8室(9室を損失)の象意が強いのではないかと見当がつくのである。そして、暗殺やスキャンダル、政治的失脚などは8室がその象意である。彼女は過去に汚職によって、国外逃亡を図っているため、その辺りでも8室の象意は繰り返し表れてきているのである。
 
 そこで、ダシャーを確認すると、直近に土星/火星期があるので、おそらく、この土星/火星期辺りが彼女が暗殺された時期ではないかと見当がつくのである。
 
 土星と火星はそれぞれ、6室と8室のカラカでもあり、相互にアスペクトしあっていて、激しく傷つけあっており、それが月にも絡んでいることから、ぱっと一目見た感じでもこの土星と火星が暗殺に絡んでいることが想像できるのである。
 
 そして、チャンドララグナで、月とマハダシャーロードの土星から見て、火星は8室の支配星である。その8室支配の火星と6室支配の土星が相互アスペクトして、月と太陽とダシャーロードから見た1室に絡んでいる。太陽は肉体のカラカである。太陽からみて火星は6、11室を支配して凶悪化しており、8室支配の土星と絡んで、ここでも6室と8室の絡みが見られるのである。
 
 アンタルダシャーやプラティアンタルダシャーが8室の支配星で、6室の支配星や凶星によって傷ついていれば、犯罪に巻き込まれたり、政治家であればスキャンダルによる失脚や暗殺を表す可能性が高いのである。
 
 火星は8室の支配星で10室(父親)に在住して、父親のカラカである太陽と接合して、土星からアスペクトされている。太陽は激しく傷ついており、このことは、父親が軍事政権によって処刑されたことを表していると思われる。あるいは彼女のキャリア上で何か大変な暴力的な出来事や困難な出来事が起こることが表されている。彼女は権力の地位につきながらも何度も失脚したり、復帰したりを繰り返しているのは、この太陽の傷つきによるものではないかと思われる。あるいはこれはキャリア上の活動途上における、今回の暗殺を表している。
  10室が絡むため、このニュースは全世界に報道され、安全保障理事会は緊急会合を開き、非難声明を発表した。10室のことはよくも悪くも有名になってしまうのである。
 事件のあった2007年12月27日が土星/火星期に含まれるように調節すると、ラグナは牡牛座10〜15°前後になるのではないかと思われる。
 
 
           
            | 出生時間を以下に仮定した場合 | 土星/火星期の開始時期 | ラグナ |   
            | :00:01:00 | 2009/6 〜 | 水瓶座 |   
            | 23:59:00 | 2002/5 〜 | 水瓶座 |   
            | 04:24:55 | 2007/10 〜 | 牡牛座16°20' |   アンタルダシャー火星期を事件の起こった12月27日が含まれるように設定すると、牡牛座ラグナである。彼女は牡牛座ラグナである可能性が高いと言える。
 牡牛座ラグナと仮定して再度、検証すると、7室支配のマラカの火星がマラカの2室に在住し、土星からアスペクトされているのである。そして、27日のトランジットの図は以下である。
  
 死を誘発するマラカの火星に火星がトランジットしている。
 そして、木星は8室に在住して出生の火星にアスペクトしているが、もともと出生図上で、ラグナからみて8、11室の支配星で凶星化しており、月、太陽、ダシャーロードの土星から見ても、機能的凶星で、7室の支配星としてマラカとして機能しており、チャートを保護する要素となっていないようである。
 そもそも、太陽はラグナから8室をトランジットしており、8室に惑星集中して、2室にアスペクトしている。8室はもっとも不運なハウスであり、何か問題が生じるハウスである。太陽が8室をトランジットするタイミングは、何か突然のトラブルが起こるタイミングである。
 
 このようにしてみると、ブット元首相は牡牛座ラグナの可能性が高いと思われるのである。
  彼女はパキスタン人民党の総裁に選ばれ、何度か、首相の座に就いているが、汚職疑惑などで、国外逃亡することなどを繰り返しており、木星期の象意がよくないことを考えると、木星は8、11室の支配星として、傷ついていることが予想されるのである。 また彼女は木星が射手座をトランジットしたり、射手座に土星と木星のダブルトランジットがある時に、あまりよい象意を経験していない印象である。1984年にはイギリスへの亡命先でパキスタン人民党の党首に就任しているようであり、これは父親が処刑されたため、彼女が父親の政治的なカリスマを相続した印象である。 また、1996年には首相を解任されており、これも突然の変化であり、政治的失脚を経験している。そして、今回の暗殺にいたっても、木星が射手座に入室した後の出来事である。
 
 これらのことから木星が射手座に在住する場合にあまりよい体験をしていないため、木星が最大限に傷つく、牡牛座ラグナの可能性が高いのである。
 
 また、これは私(筆者)の経験であるが、最近、牡牛座ラグナで、8室射手座に木星が在住している人がいるのであるが、トランジットの木星が射手座に入室して、木星がリターンした今年の11月22日以降、調子が悪くなって物事がうまくすすまず、今まで順調にいっていた事が全て中断してしまったと訴えており、やはりそうした体験から考えても、牡牛座ラグナの人にとっては、木星が射手座に入室することは、機能的凶星の木星が射手座で強くなる分だけ、返って凶星としての働きを増しているとも考えられ、通常、木星が8室を通過する際の、良くない傾向をさらに増している可能性があるのである。
 情報によれば彼女は至近距離から銃撃されたようであり、10月に彼女を狙った爆弾テロにより140人が死亡していることとも合わせて、凄まじい暴力の象意が確認できるのである。爆発や銃撃というのは火星の象意であり、これが7室支配で2室に在住する強力なマラカとなっていると考えられるのである。 そして、国際ニュースの記事によると、彼女の息子が政治的立場を引き継ぐ可能性があるが、彼女がもし牡牛座ラグナであれば、彼女の5室をラグナとした場合に5室にはやはり、土星と火星が絡んでおり、彼女の息子にも悲劇が起こりうる可能性が高いと思われるのである。 
           
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            | 2007年12月28日、パキスタンのラルカナ(Larkana)地方の村Ghari Khuda 
              Bakshのブット家の墓地で、暗殺されたベナジル・ブット元首相の葬儀に参列する夫のアシフ・ザルダリ(Ali Zardar)氏と長男のビラワル・ブット(Bilawal 
              Butto)氏(右)。(c)AFP/Asif HASSAN (国際ニュースコミュニティーより引用抜粋) |  
 
           
            | ブット氏長男がトップ継承か=総選挙参加是非など党が協議−パキスタン 
                12月30日20時0分配信 時事通信  
 【イスラマバード30日時事】パキスタン最大野党のパキスタン人民党(PPP)は30日、総裁のブット元首相暗殺を受けた中央執行委員会を開き、党の新たな指導体制や来月8日の総選挙参加の是非などを協議した。パキスタン各紙によれば、元首相の身内を名目的なトップに据えることが検討されており、長男ビラワル・ブット氏(19)が筆頭候補として有力視されている。 
                 執行委はシンド州ラルカナ近郊のブット家私邸で行われる。元首相は党の将来戦略や指示などを記した遺書を残しており、委員会で公表される見通しだ。 
                 当地での報道では、PPP指導部は党勢を維持するために名門ブット家の「威光」が必要と認識しており、ビラワル氏のほか、夫のアシフ・ザルダリ氏や妹のサナム・ブット氏の名も上がっている。ビラワル氏は英オックスフォード大学に入学したばかりで、政治経験はない。同氏が後継に指名されても、学業を終えて政治経験を積むまではファヒム副総裁らによる集団指導体制が敷かれる見通しだという。
 |  彼女と父親の、親子に2代にわたる悲劇は、米国のケネディ家の悲劇や、インドにおけるガンジー王朝の悲劇を思わせるのである。特に父親が不運であるということは、その子どもにも確実に受け継がれているようである。ある程度、ジョーティッシュのチャートを読みこなしていくと、ある人から過去のエピソードを聞くだけで、関連する別の出来事に関する予測が可能になってしまうのである。 
          特にその人の父親に関する事実関係は、その人自身の運命を隠しようもなく明らかにするのである。 
 ※2007年12月29日現在、ブット元首相のラグナが牡牛座であるか未確定であり、検証継続中。
 
 
           
            | 西暦 | 月日  | 出来事 | ダシャー | トランジット |   
            | 1969年 | 4月 | ハーバード大学のラドクリフ・カレッジおよびオックスフォード大学レディー・マーガレット・ホール校で学ぶ | ラーフ/土星 | 土星:牡羊座 木星:乙女座
 DT:山羊座
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            | 1971年 |  | インドが東パキスタン (現バングラデシュ) へ軍隊を派遣し、父ズルフィカールが問題解決のため外務大臣として国連へ赴いた際、彼女はカレッジを一時的に離れ、ニューヨークで父の助手を務めた | ラーフ/水星 ラーフ/ケートゥ
 | 土星:牡牛座 木星:蠍座
 DT:牡牛座、蠍座、蟹座
 |   
            | 1973年 |  | 政治学の学位を得てカレッジを卒業 [カレッジ在学中に彼女はファイ・ベータ・カッパ 
              (全米優等学生友愛会) の会員に選出される] | ラーフ/金星 | 土星:双子座 木星:山羊座
 DT:なし
 |   
            | 1973年秋 |  | オクスフォードに進学。PPE(政治学・哲学・経済学)で修士号を得る。(オクスフォード在学中に、彼女はオクスフォード・ユニオンの議長に就任した初のアジア女性となる。彼女の大学での経歴は全体が論争に明けくれる物であった。) | ラーフ/金星 | 同上 |   
            | 1976年 以降(?) |  | オクスフォード卒業後にパキスタンへ帰国したが、父親の監禁と処刑の過程で、彼女は自宅軟禁を受ける | ラーフ/太陽 ラーフ/月
 ラーフ/火星
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            | 1984年 |  | イギリスへの渡航が許可され、彼女は亡命したまま、父の政党であったパキスタン人民党 
              (PPP) の党首に就任した | 木星/土星 木星/水星
 | 土星:天秤座 木星:射手座
 DT:牡羊座、射手座
 |   
            | 1988年 | 12月 | ブット氏、イスラム圏初の女性首相に就任 | 木星/金星 | 土星:射手座 木星:牡牛座
 DT:乙女座
 |   
            | 1990年 | 8月 | ブット氏、首相を解任される | 木星/太陽 | 土星:射手座 木星:蟹座
 DT:なし
 |   
            | 1993年 | 10月 | 総選挙でPPPが第一党、ブット氏が首相返り咲き | 木星/ラーフ | 土星:水瓶座 木星:天秤座
 DT:水瓶座、牡羊座
 |   
            | 1996年 | 11月 | ブット氏、首相を再び解任 | 土星/土星 | 土星:魚座 木星:射手座
 DT:射手座
 |   
            | 1999年 | 5月 | ブット氏、汚職罪で禁固5年の有罪判決 | 土星/水星 | 土星:牡羊座 木星:魚座
 DT:なし
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            |  | 10月 | ムシャラフ陸軍参謀長が無血クーデターで政権掌握 | 土星/水星 | 土星:牡羊座 木星:牡羊座
 DT:牡羊座、天秤座
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            | 2002年 | 4月 | 国民投票でムシャラフ大統領の5年続投を承認 | 土星/金星 | 土星:牡牛座 木星:双子座
 DT:水瓶座
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            | 2003年 | 12月 | 大統領を狙った暗殺未遂が1カ月で2度発生 | 土星/金星 | 土星:双子座 木星:獅子座
 DT:獅子座、射手座
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            | 2007年 | 7月 | イスラマバードのモスク(イスラム教礼拝所)に武装神学生が立てこもり、軍が武力鎮圧 | 土星/月 | 土星:獅子座 木星:蠍座
 DT:牡牛座
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            |  | 9月 | シャリフ元首相が亡命先から帰国、再び国外追放 | 土星/月 | 同上 |   
            |  | 10月 | 大統領選でムシャラフ氏最多得票 | 土星/月 | 同上 |   
            |  |  | ブット氏約8年半ぶりに帰国 | 土星/月 | 同上 |   
            |  |  | ブット氏狙ったテロで約140人が死亡 | 土星/月 (土星/火星?)
 | 同上 |   
            |  | 11月 | ムシャラフ大統領が全土に非常事態を宣言、憲法停止 | 土星/火星 | 土星:獅子座 木星:射手座
 DT:獅子座
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            |  |  | シャリフ元首相が帰国 | 土星/火星 | 土星:獅子座 木星:射手座
 DT:獅子座
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            |  | 12月 | ムシャラフ大統領が6週間ぶりに非常事態宣言解除 | 土星/火星 | 土星:獅子座 木星:射手座
 DT:獅子座
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            |  |  | ブット氏の集会で自爆テロ。ブット氏死亡 | 土星/火星 | 土星:獅子座 木星:射手座
 DT:獅子座
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            | (フレッシュeye ウィキペディア、および12月28日8時1分配信 
                産経新聞、より引用抜粋、一部編集) |  (資料) 民主化旗手で根強い人気…ブット親子で悲劇の最期  
 27日に死亡したパキスタンのベナジル・ブット元首相(54)は、軍政に処刑された故ズルフィカル・アリ・ブット元首相の長女。政治の民主化を求めた父と娘は2代にわたって悲劇的最期を遂げた。 
           ブット氏は1980年代にパキスタン政界にデビュー。軍政を鋭く批判する民主化の旗手として根強い人気を誇った。今年10月に帰国した際も、汚職で訴追され事実上の亡命生活を余儀なくされていたにもかかわらず、支持者は熱狂して歓迎、衰えないカリスマぶりを示した。 
           しかし帰国直後のパレード中に約140人が死亡する自爆テロの標的となるなど、命の危険にさらされていた。  南部カラチで生まれ、米国と英国に留学。英オックスフォード大では、政治家の登竜門として知られる弁論部の部長に。在学中から父親の外遊に同行し、国際政治を肌で学んだ。 
           1977年にハク陸軍参謀長(後に大統領)によるクーデターで失脚した父は、2年後に処刑された。軍政打倒を目指して政治活動を開始し、86年に帰国。ハク大統領が飛行機事故で死亡した後に行われた88年の総選挙で、パキスタン人民党(PPP)を大勝に導き、首相の座に就いた。 
           民主化推進、経済再建などを掲げたが、2度にわたり当時の大統領に解任され、目立った実績は挙げられなかった。それどころか、実業家の夫ザルダリ氏は、公共事業などの口利きで私腹を肥やしたとされ、自身も汚職容疑にまみれた。 
           事実上の亡命生活に入ってからは、クーデターで実権を握ったムシャラフ大統領の不当性を批判。しかし帰国にあたり、国内で勢力を強めるイスラム過激派の掃討を進める立場では協調できるとして、軍トップを兼任するムシャラフ氏と政権協議、一時は連携で大筋合意。帰国後のインタビューではこの提携について「軍独裁から民主化へ移行するためだ」と主張したが、自らへの訴追を逃れるためだったのでは、との疑惑もつきまとった。(共同)
 
 
 暴徒化、混乱広がるパキスタン ブット元首相暗殺 2007年12月29日17時45分 
 ブット元首相の暗殺事件があった首都イスラマバード郊外ラワルピンディに28日、入った。町のあちこちで古タイヤや廃材とともに大統領派与党のポスターを燃やし、元首相の暗殺に抗議する光景が見られた。元首相の暗殺現場では、道路に爆弾が破裂した黒い焦げ跡が残り、巻き添えで犠牲となった支持者たちの靴が並べられていた。 
           町中心部の広場近くの通りでは、テロの犠牲となった元首相の支持者の棺(ひつぎ)を人々が担ぎ、「神は偉大なり」「ベナジル(ブット)万歳」などと叫びながら行進していた。商店主のゼディさん(46)は「ブット氏は国民を一つにまとめられる偉大な指導者だった。この国を不安定にしようとする米国が暗殺を仕組んだのだ」と憤った。 
           元首相が総裁を務めていたパキスタン人民党の職員、リアカットさん(56)は「とても悲しい。私が代わりに撃たれて死ねば良かった。暗殺は政府の仕業だ」と、泣きながら訴えた。 
           町は服喪のために休日で、商店のほとんどはシャッターを下ろしている。平日は渋滞する目抜き通りも、走る車はほとんどない。商店主のイブラルさん(41)は「店を開けると暴動の巻き添えになるかもしれない。不安定な政治のために人々の暮らしが犠牲になっている。とにかく平和で政治が安定してほしい」とつぶやいた。 
          ■リーダー失い、統制不能に  「私は危険を覚悟で帰国した。パキスタンは危機に立たされ、人々は恐怖におののいている」。ベナジル・ブット元首相(54)は27日、首都イスラマバード近郊のラワルピンディで遊説した。その直後、テロに倒れた。 
           ブット氏には、いかなる危険を冒しても街頭に立つ必要があった。  実父の故ズルフィカル・アリ・ブット元首相は67年にパキスタン人民党(PPP)を結成し、圧倒的な支持を得た。娘のブット氏もイスラム圏初の女性首相になったが、汚職を問われて自ら祖国を去った。今年10月、8年ぶりに帰国したのは、ムシャラフ大統領が汚職訴追を取り消す大統領令を出したためだ。 
           ブット氏は、総選挙後の政権運営で協力するため、ムシャラフ氏と水面下で交渉を続けてきた。背後には米国の後押しがあった。しかし、父の代から続く熱烈なPPP支持者は、軍事クーデターで政権を手中に入れたムシャラフ氏との政権協議には批判的だった。 
           1月8日予定の総選挙が迫るなか、「骨肉の争い」も始まった。96年に暗殺されたブット氏の弟、ムルタザ氏の妻で地域政党・人民党シャヒード派代表のギンワ氏が立候補を表明。「ブット氏は米国の言いなりだ。人民党の精神を忘れている」と痛烈に批判した。 
           ムシャラフ氏との協議の行方も、帰国後間もなく不透明になった。  帰国直後の自爆テロで、支持者ら約140人が死亡。情報筋によると、実行犯は国際テロ組織アルカイダとつながりのあるイスラム過激派だった。ブット氏は帰国前、アルカイダ幹部が潜伏しているとされるパキスタン部族地域で米軍の単独作戦を認める発言をするなど、過激派根絶に意欲的だった。 
           殺害を免れたブット氏は、暗殺をたくらむ人物を列挙した手紙をムシャラフ氏へ送っていたと明かした。PPP関係者によると、80年代に過激派を育成し、アフガニスタンでの対ソ聖戦(ジハード)に赴かせた元軍情報機関トップらの名前が書かれてあった。国軍出身のムシャラフ氏は、気分を害したという。 
           ムシャラフ氏は11月初めに非常事態を宣言。弁護士ら5千人近くを拘束した政権に抗議したブット氏は自宅軟禁になった。「大統領は辞任すべきだ」。両者が完全に決裂した瞬間だった。 
           「PPPの重要な意思決定はブット氏に委ねられ、まるで『個人党』だった」(政界筋)と指摘する声もある。リーダーを失ったPPP支持者は各地で暴徒化している。党指導部も統制が取れない。混乱に乗じて商店を略奪する者も出始めた。 
           いったんは総選挙への参加を決めた第3野党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PMLN)の指導者で、ムシャラフ氏の政敵シャリフ元首相は「ボイコットする」と発表。選挙の正当性が問われかねない事態に陥っている。 
           ブット氏の暗殺犯についてムシャラフ氏は27日夜、国営テレビで「我々が戦っているテロリストの仕業だ」とイスラム過激派の犯行を示唆した。しかし、民衆レベルでは過激派に同情的な軍の一部が関与したとの見方がくすぶる。 
           混沌(こんとん)とするパキスタンで、民政復帰プロセスの行く末はまったく見えなくなった。 (asahi.com>国際>アジア> 
          記事より)
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